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第46回マーケティングサロンレポート「デザイン思考でイノベーションを生み出す ~デザイン・ファームIDEOのアプローチ~」

第46回 マーケティングサロン
「デザイン思考でイノベーションを生み出す~デザイン・ファームIDEOのアプローチ~」

日程:2016年4月28日(木)19:00-21:00
場所:日本マーケティング協会 東京本部
ゲスト:IDEO Tokyo ディレクター 野々村 健一 氏

サロン委員:尾崎文則・山谷あすか・金泰元・佐藤圭一・高崎栄一・岩井琢磨・三谷暢宣・高村和久
 

【サロンレポート】
 「世界で最もイノベーティブな企業」と賞賛される世界的なデザインコンサルティングファーム、IDEO(アイディオ)。IDEOでは、ヒューマンセンタードデザイン(人間中心的デザインやデザインシンキング)を基本アプローチとして、様々な組織のイノベーションや成長を手掛けています。
 今回のサロンでは、IDEO Tokyoでディレクターを務める野々村健一氏をお招きし、新たな製品やサービス、ビジネスを創造していく、IDEOのアプローチをご紹介いただきました。
 
<ゲストプロフィール>
野々村健一氏

IDEO Tokyo ディレクター 野々村 健一 氏

慶應義塾大学卒業後、トヨタ自動車にてカントリーマネージャーや商品企画を担当。
米ハーバード・ビジネス・スクールへ私費留学し経営学修士(MBA)取得の後、IDEO 東京オフィス立ち上げに従事。現在同社ディレクターとして国内外の様々な企業や団体とのプロジェクトを手掛ける。東京工業大学非常勤講師。

 
【概要】
デザインコンサルティングファームIDEO
 IDEOはデザイン会社として30年ほど前にシリコンバレーで誕生しました。
 アップルの最初のマウスを手掛けたことでも有名になり、現在でも評価をいただいています。「人とモノ」「人とコト」とのインタラクションを切り口に複合的にデザインをする、というアプローチはいまも変わっていません。
 ただ、この30年あまりでデザインという言葉の定義は広がり、「体験をデザインする」「サービスをデザインする」「ビジネスをデザインする」など、“意志を持って何かを創りだす”行為そのものをデザインと定義しています。

 
ゲスト:IDEO Tokyoディレクター 野々村健一氏
ゲスト:IDEO Tokyoディレクター 野々村健一氏
 

“人”と“文化”が最大のアセット
 IDEOのメンバーのバックグランドは多様です。ビジネスパーソン、建築家、プロダクトデザイナー、インタラクションデザイナー、グラフィックデザイナー、文化人類学者、脳神経学者、医師、雑誌編集者、フードサイエンティストなど、様々なバックグラウンドの人間が一緒にチームを組んでいきます。東京オフィスも約10か国の文化圏出身者で構成されています。ひとつのプロジェクトも適材適所のメンバーアサインメントを行い、複数のオフィスのメンバーでチームを構成することも少なくありません。オフィスを超えて、IDEOとしての“文化”共有度は高く、これが強みの源泉だと考えています。
 
IDEOが手掛けるデザインプロジェクトの広がり
 2005年前後にIDEOとしての大きな変化は訪れました。この頃から、“デザイン”という言葉はビジネスの世界でも多用されるようになってきました。デザインからイノベーションを生み出す、という流れが生まれてきたのもこの頃です。「世界で最もイノベーティブな企業」としてIDEOが選出され、イノベーション会社としても認識されるようになりました。
 IDEOが取り組むプロジェクトに業種の縛りはありません。近年のプロジェクトとしても、ニュージーランド航空の機内体験をデザインする、リッツカールトンの宿泊体験をデザインする、バンクオブアメリカの金融サービスをデザインする、コンバースのフラッグシップストアのリテール空間をデザインする、乗り換え案内アプリのUIをデザインする、といったプロジェクトが挙げられ、手掛けるデザインの領域はますます広がっています。
 
IDEOのアプローチ:デザインシンキング、人間中心的デザイン
 IDEOにとってデザインシンキングの定義はシンプルで、「必ず“人”からはじめる」という点につきます。これは「言うは易し」で、多くのクライアントは「リソース」ありきです。例えば売上目標といった“ビジネス”、研究セクションが開発した“技術”など「リソース」ありきなのです。これに対し、IDEOは「“人”(People)」から考え始めます。企業は“People”に対して何をしてあげられるのか、企業が何をしてあげれば“People”は嬉しいのか、企業は“People”のためにどのような世界を創りだせるのか、といったアプローチをとります。また、“People”とはお客さまだけではなく、企業自身や企業の担当者自身をも含むものです。企業の“意思”として目指すところを定め、それを実現させるためにどんなビジネス、どんな技術がないといけないのか、といったことも考えていきます。これらのアプローチを総称して、IDEOでは、デザインシンキング、人間中心のデザインなどと呼んでいます。
 
“1→100の世界”から“0→1の世界”へ
 企業のマーケティングにおいて、生活者や消費者を見つめる重要性は認識されていることだと思います。ただ、いまの時代、より求められていることは、「企業自身の意思(作り手側の意思)」ではないでしょうか。
 現在、多くのクライアントが悩まれているテーマは「“1→100の世界”から抜け出せない」という点です。“1→100の世界”とは、“ありもの”や“モノサシ”が存在する“カイゼンの世界”です。企業の判断基準、意思決定プロセス、組織構造はこの世界に最適化されています。
 一方で、多くのクライアントは「“0→1”を生み出す」ところで困っています。企業のマネジメントは、0→1を生み出す方法がわからない、どうやって意思決定すればいいのかわからない、前例はあるのか、いや前例がないからやるべきだ、といったループに陥っています。
 そこでIDEOは、主体的に「“0→1”を生み出す」ことに取り組んでいきます。
 IDEOとして、デザインシンキングのプロセスを4つのプロセスで体系化しています。
 Phase1は「DESIGN RESEARCH & INSPIRATION」、Phase2は「SYNTHESIS & STRATEGY」 、Phase3は「BRAINSTORMINGS & CONCEPT DEVELOPMENT」、Phase4は「PROTOTYPING & STORY TELLING」です。これらのプロセスで“発散”と“収束”を繰り返していきます。ただ、実際のプロジェクトでは、このプロセス自体に極端にこだわることはありません。
 IDEOが手掛けたニュージーランド航空の機内体験をデザインするプロジェクトでも、IDEOのデザイナー自身がCA体験をしてみて、数多くのプロタイピングを行い、機内体験のデザインをしていきました。
 
アイデアを実現させるために大切なこと
 生まれたばかりのアイデアは、つぶそうと思えばいつでもつぶせるような状態にあります。そのようなアイデアの可能性を“茶化さない”ことが大切です。そして、アイデアを実現させるためには、一緒に変えていこう、という意思を持った人たちのコミュニティを創っていけるかが大切です。いままでに前例のないことを実現させていくわけですから、担当者、関係者が情熱をもって、多くの人を巻き込んでいけるかにかかっているのではないでしょうか。
 
集合写真:前列中央の野々村健一氏を囲んで
集合写真(前列中央の野々村健一氏を囲んで)
 

【サロンを終えて】
 今回のオファーをさせていただくために、南青山のIDEO Tokyoオフィスへ伺わせていただきました。その際、野々村様とお話しさせていただいたことがとても印象的です。「多くの企業において、マーケティング調査を繰り返し、商品やサービスの改善を繰り返していくことが当たり前となっています。一方で、定量データによる裏付けが十分ではない、全く新しい商品やサービス、ビジネスをローンチすることは不安なものでは?」という問いに対して、そのような商品やサービス、ビジネスを世の中にローンチすることは「企業やブランドとしての“意思”」ではないですか、という言葉をいただきました。いま、まさにマーケター自身の“意思”が問われている、と気づかされた瞬間でした。
 このサロンでの学びが、マーケターにとって、意思を持ってゼロからイチを生み出していく、ひとつのきっかけになればと願っています。
 
(サロン委員:尾崎文則)

 
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