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第53回マーケティングサロンレポート「物語戦略で勝つ」

第53回 マーケティングサロン
「物語戦略で勝つ」

日程:2016年10月6日(木)19:00-21:00
場所:神戸大学 梅田インテリジェンスラボ
登壇者(ゲスト):
 鈴木 竜太(神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
 岩井 琢磨(「物語戦略」共著者、株式会社大広 コミュニケーション・プランナー)
サロン委員(ファシリテーター):
 依田 祐一(立命館大学 経営学部 准教授)
 和田 久志(株式会社電通 コミュニケーション・プランナー)
 

【概要】
 市場で独自の地位を築いている企業は、その強みを象徴する物語を持っています。物語は多くのステークホルダーの間で共有され、語り継がれることで、ビジネスモデル自体の独自性を強くしてくれます。つまり経営における物語とは、単なる「いい話」ではなく、競争力に結びつく経営資源として機能しています。このような「企業の強みを象徴する物語」を活用して競争優位を獲得する戦い方、それが物語戦略です。物語はどんな会社でも見つかるのか?、それを活用するためには何が必要なのか?、実務家と研究者の双方の視点から、徹底的に討論します。
 
【サロンレポート】
 今回のサロンでは、実務家と研究者が檀上で意見を交わし、参加者がその議論に参加することで、共に知的資産創造に向けたセッションを奏でる「ジャム・ファシリテーション」の新しい試みを行いました。はじめに、「物語戦略」(日経BP社)の共著者で岩井氏から、物語戦略の要点と意味合いの抽出を、続いて、組織論研究者である鈴木竜太教授より、会場の参加者とのディスカッションに向けた論点提示と議論の方向性を設定いただきました。その後、参加者間のグループ・ディスカッションを経て、壇上のお二方を交え、活発な質疑応答や意見交換が行われました。
 
 岩井氏は、「ものの見方は多様的である。異なる視点から捉えることにより、同じものが異なる価値を持つ。どこに注意を向け、どの部分を記憶にとどめさせるのか」といった物語発生の一般要件を整理しつつ、「砂漠を横断する高級車:ROLLS-ROYCE」、「沈まないトランク:LOUIS VUITTON」、「どんな返品にも応じる百貨店:NORDSTRON」など、強いアイデンティティを持つ企業には、象徴的なシンボリック・ストーリーが存在することを指摘。こうしたストーリーは、消費者や社員の間で語り継がれることで企業の強みをより際立たせる役割を果たすとともに、顧客価値の最大化、競争優位性の実現、儲けの仕組みの確立の三方を支援する事業コア機能を果たしていると述べます。物語を戦略の核に埋め込み模倣を困難にすること。近畿大学の「世界初のクロマグロ完全養殖」や、タニタの「社員を肥満にしない社員食堂」も、こうしたシンボリック・ストーリーを競争戦略の根幹に据えた事例であると言います。では、こうしたシンボリック・ストーリーはいかに創造できるのでしょうか。岩井氏は、ストーリーはどの企業にも本質的に備わっているものであり、それは人的資源(創業者/技術者/顧客など)、物的資源(商品/技術/サービスなど)、組織資源(業務プロセス/オペレーションルール/技術革新力など)に見出せると主張します。そして、こうした企業の独自価値を見つけ、いかに刺さる物語に昇華させることができるかが、事業家やマーケッターの腕の見せ所であると締めくくりました。
 
 岩井氏のプレゼンテーションを受け鈴木教授は、事業戦略と組織アイデンティティにおける物語戦略の有効性に着目しつつも、その活用や創造にあたっては、注意深く検討しなければならないいくつかの論点があるのではないかとの指摘を加えます。
 まず、強いシンボリック・ストーリーには「ありそうなハナシだけど本当かな?」という虚構と現実をいったりきたりする要素が散りばめられており、だからこそ物語に力が宿るのではないか。この微妙なさじ加減をいかに紡ぎ出すのか。また、こうしたストーリーはアプリオリに意図して拾われ確立されるものではなく、人々の間のナラティブな営みを通じて、より洗練されていくもの、鍛えられていくものであり、それは企業にとってアン・コントローラブルなのではないか。さらに、特定のストーリーを確立する過程においては一方で捨てられたストーリーも存在すること、すなわち、際立たせることによって隠され無視されるものもある、そして物語は一度確立すると変えにくくなる、それが物語戦略の強みと弱みであり、こうした取捨選択の問題を経営の意思決定でどう取り扱うべきなのか。と、サロン議論を深める論点提示がありました。
 
 つづいて、テーブル毎にグループ・ディスカッションが活発に行われ、岩井氏、鈴木教授を交えた全体ディスカッションへと移りました。こうしたシンボリック・ストーリーのネタは、自ら発掘・育成することが果たして可能なのか。それはむしろ、市場や顧客の役割ではないのか。また、ストーリーのレイヤーは、事業単位や商品単位毎によってアプローチが異なるのではないか等など、参加者から数多くの質疑がなされました。
 
 鈴木教授より、最後にひとつの例示がなされました。アニメの「ワンピース」や恋愛ドラマにみる最近の流行ストーリーの主要パターンは「リトルピープル」の物語であり、その展開においては、登場人物や群衆それぞれが自身の小さなストーリーを複数持ち、作品全体はそれらがバンドルされて構成される傾向があること。このリトルピープルの手法は、読み手がそれぞれ登場人物に対して自分ゴト化や感情移入できる余地を持ち、これこそが「個」の時代のマーケティングにマッチした物語創造の方法論なのではないか。主人公を中心にワンストーリーで記述する「ビックブラザー」の物語は、ややもするとマスマーケティング時代の戦略とも言え、個の時代へと社会環境が変化するなか、ひとつの象徴的なシンボリックに企業戦略を収斂させる「物語戦略」は、今後も有効な方法論でありつづけるのであろうか。
 
【サロンを終えて】
 「マーケティング領域の実務家VS非マーケティング領域の研究者」によるセッションは、異なる分野からのインタラクションにより、一方通行にならない創発的なディスカッションに繋がりました。知的興奮の余韻とともにあっという間に時間が過ぎ、もう少し議論を続けていたいなと思える内容でした。
 企画運営委員一同、参加者の皆様に満足をいただける関西サロンの実現を目指し、これからも「サロンのマーケティング」に取り組んでまいりたいと思います。どうぞご期待ください。

 
会場の様子 集合写真
写真左より、会場の様子、集合写真
 
(文責:小宮信彦)

 
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