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第54回マーケティングサロンレポート「無駄と非効率が利益を生み出す経営」

第54回 マーケティングサロン
「無駄と非効率が利益を生み出す経営」

日程:2016年10月20日(木)19:00-21:00
場所:法政大学
ゲスト:サトーカメラ株式会社 代表取締役専務 佐藤 勝人 氏
サロン委員:
 京ヶ島 弥生(フロスヴィータ)
 長崎 秀俊(目白大学 准教授)
 佐々木 竜介(毎日新聞社)
サポート:田中 洋(中央大学ビジネススクール 教授)

 

【サロンレポート】
 北関東の栃木県に、圧倒的強さを誇る地場カメラチェーンがあります。全国区の家電量販店に伍して、県内で17年連続カメラ販売シェアトップを獲得するサトーカメラは、粗利率44%の高収益企業でもあります。
 カメラ関連市場の縮小、Eコマースの伸張による実店舗売り上げ減という二つの逆風の中、13年連続で粗利率をアップさせた背景には、最長5時間もかける接客、売れ筋とは異なる商品中心の商品構成、手厚すぎるアフターフォローなど、無駄かつ非効率と思われる経営があります。その販売の現場では何が行われていたのか、なぜそのような経営スタイルにいたったのか。現場の責任者である佐藤勝人専務にお話をお聞きしました。
 
ゲストの佐藤氏 ゲストの佐藤氏
佐藤氏
 
●生き残りのためにあえてマスを狙う
 栃木県のカメラ関連の消費は、他県の3~4倍あるそうです。そしてその市場を作ってきたのがサトーカメラです。カメラ関連市場は全国的に2000年頃をピークに右肩下がりの状況が続いていますが、同社は既存の市場でシェアを伸ばすのではなく、新しい市場を切り開くことで高収益を実現しました。
 カメラ関連市場縮小の大きな要因はデジタル化です。現像されることが前提だったフィルムカメラがなくなり、データのやり取りが主のデジカメに置き換わったことで、DPEの市場が大幅に縮小しました。
 一方で家電量販店がデジカメ市場に参入してきます。特に北関東は群馬県、栃木県、茨城県のそれぞれに全国展開をする家電量販店の本社が存在する激戦区です。ランチェスター戦略に基づけば、全国チェーンという《強者》に対し、地場チェーンという《弱者》が生き残るにはニッチ戦略に行くことがひとつのセオリーでしょう。しかし市場が縮小する中でニッチ戦略をとっても、一度は成功するかもしれませんが、そのうち先細りになります。
 そこで同社はあえてマスを狙うことにしたそうです。ただし、ここで言うマスはカメラユーザーの中のマスではなく、栃木県という地域内のマスであり、かつその中の「ノンカスタマー」をターゲットとしたそうです。そういった意味では、全国のカメラユーザーをターゲットとする《強者》とはバッティングしない戦略を選択したことになります。

 

●ターゲットは「ノンカスタマー」
 デジタル時代に入り、確かにDPEの需要は減りました。しかし撮影と言う行為に目を向けるとどうでしょうか。フィルムの残枚数を気にしなくてよくなった分だけむしろ増えているはずです。1世帯辺りの撮影枚数が年間1000枚と仮定すると、60万世帯200万人が住む栃木県では、デジカメやスマホの中に計6億の「想い出が眠っている」。これらがもし1枚50円で現像されたら、新たに300億円の市場が出現します。あくまで仮説ではありますが、サトーカメラはこの潜在需要を取り込むことを狙ったそうです。撮影はするが現像はしないノンカスタマーをターゲットに、「地域の人々の想い出をきれいに一生残す」ことを企業理念としました。
 前述の通りサトーカメラの店頭における接客は非常にユニークなものですが、そこにはマニュアルというものがありません。シルバーと若い層、独身者とファミリーで求めるものは違っており、あらゆる層に受け入れられる接客はありません。マスを狙うにおいて顧客それぞれに合わせた自由度の高い接客をする必要があり、画一的なものを強要するマニュアルはむしろ邪魔になります。

 

●現場からの声を拾い上げる
 接客にマニュアルが無いことにはもう一つ理由があります。「おもてなしにより自店のロイヤルカスタマー化する」ことが接客の目的ではない、ということです。
 カメラに対する明確なニーズを持っているカスタマーに対し、ノンカスタマーは自分が写真に何を求めているかを自覚していません。こういった潜在的なニーズは、定量調査ではなかなか見えてこないものです。そこで来店する顧客を対象に、接客という名の定性調査を実施し、それにより課題をあぶりだす。ノンカスタマーが何を求めているかを掘り起こすことがもう一つの目的であり、そこにマニュアルは必要ありません。
 このとき重要なのは現場重視の姿勢です。トップが方針を決めて現場に落とし込むのではなく、現場から吸い上げた意見を元に方針を定めることで、ノンカスタマーを取り込みができるとのことです。
 例えば、サトーカメラは早々にフィルムカメラ中心からからデジタルカメラ中心へと舵を切りましたが、これはトップの判断ではなく、現場からの声を反映したとのことです。これから主力となるデジカメではなく、いずれ無くなるフィルムカメラを薦めることはウソをつくことになる。長く顧客でいてもらうために、一時の売り上げを重視してはいけない。顧客との接点がある現場が一番それを実感し、その声をトップが取り入れ経営判断に生かしたそうです。
 現場の責任者である佐藤専務ですが、「顧客のことは従業員に教えてもらう」とのお話でした。

 

●同族企業だからこそ出来た改革
 佐藤専務がもう一つ強調したのは、同族企業の強みです。
サトーカメラは、佐藤専務の両親が1964年に創業しました。現在は兄である佐藤千秋氏が社長を務め、他にも親族が役員に名を連ねます。そうした「同族企業だからこそ、ビジネスモデルの変換が出来た」と佐藤専務は語りました。
 ノンカスタマーを狙うといっても、彼らがすぐに顧客になってくれるわけではない。時間をかけて彼らのニーズを吸い上げ、経営戦略を立案する。結果はその後に出てくるのであり、もしかしたら結果が出ない可能性もある。短期的に見れば、既存の顧客相手に売り上げを伸ばす方が確実です。
 しかしながら縮小することが分かっている市場に留まり続ければ、いずれ存続が危うくなる。企業の永続を目標とし、長期的視点で戦略を立案できるのはオーナーであり、サトーカメラは同族企業だからこそノンカスタマーに着目するということが出来ました。
 一方で、トップダウンで無理やり従わせようとしても、従業員はついて来ない。自ら前線に立つことが重要だ、とも述べました。

 

【サロンを終えて】
 PCやパワーポイントを使うのではなく、2枚のホワイトボードを使って話しをするスタイルは、サロンではあまりお目にかかれないものでしたが、現場での実践に裏打ちされた佐藤専務の話はとても分かりやすく、参加者は熱心に聴いていました。
 時折マーケティング用語が混じっていたことで、参加者からの「実践が先か、理論が先か」との質問がありましたが、「理論が先で、それを具体化して理解できるまで説明し、結果を出して実感させることで、現場がやっと動き出した」とのことです。
 また流通企業の利益の源泉として、「目利きであること」と話されていたのが印象に残っています。メーカーからユーザーへの単なる中継ぎではなく、その分野の目利きとして消費者に最適解を提供すること、これに価値を見出して顧客はお金を支払ってくれるとのことです。
 デジタル化の波に呑まれ、多くの業種が市場規模を縮小しています。これまでのパラダイムが大きく変わる今だからこそ、「今見えている顧客」にとらわれずに、これから誰が顧客になっていくれるのかをゼロから考えることが必要であり、かつ自分たが何を利益の源泉とするのか、足下を見つめ直すことも重要です。
 今回のサロンを通じ、カメラ市場、流通という業種の枠を超えて、デジタル時代のビジネスを考えるヒントが見えた気がします。

 
集合写真
集合写真(前列中央が佐藤氏)
 
(文責:佐々木 竜介)

 
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