ニュースリリース

第88回マーケティングサロンレポート
「デジタルシフト時代のコミュニケーション戦略」

第88回 マーケティングサロン(春のリサプロ祭り
「デジタルシフト時代のコミュニケーション戦略」
日程:2019年3月16日(土)16:30-18:00
場所:青山学院大学17307教室(春のリサプロ祭り2019にて開催)
ゲスト:小出 誠 氏(資生堂ジャパン株式会社メディア統括部エグゼクティブマネージャー)
サロン委員:京ヶ島 弥生、長崎 秀俊
 
【ゲストプロフィール】
資生堂ジャパン株式会社メディア統括部エグゼクティブマネージャー
小出 誠 氏
1984年資生堂入社。販売会社 営業、商品開発部、宣伝部 ブリント媒体の出稿、イベントを担当、プロフェッショナル事業部、経営企画部 本社ビル建て替えとグローバル総本店新設を含む「銀座再開発プロジェクト」と企業サイトの運営を担当を経て、2014年4月よりコミュニケーション統括部長。
2015年10月より資生堂ジャパン(株)コミュニケーション統括部長。
2018年1月より同メディア統括部長。(組織改編に伴う名称変更)。
2019年1月より同メディア統括部エグゼクティブマネージャー、日本アドバタイザーズ協会常務理事。
 

【サロンレポート】
 小出さんは、資生堂で宣伝現場だけでなく、経営企画、サロンや美容室の事業、本社新社屋建設プロジェクトなど、様々な業務を歴任されました。現在は資生堂だけでなく、日本アドバタイザーズ協会にも籍を置き、広告界全体に対する啓蒙、研究活動にも携わっていらっしゃいます。
 そのようなご経験を踏まえて、資生堂がデジタルシフト時代のメディア環境の変化とどう向き合い、これまでの施策と結果がどうあったか、そして、広告界、今のマーケット全般を見据え、これからのメディアコミュニケーションの課題はいかなるものかをお話いただきました。
 
1. メディア環境の変化と資生堂
 資生堂では、2000年頃から、企業としての好感度は大きく上昇してきていますが、国内のグループシェアは減少傾向にありました。このような業績も低下傾向であるとき、マーケティング費用は削減され、短期的な営業施策の費用が増えるという悪循環に陥りがちです。しかし2014年に現社長の魚谷氏が就任すると、マーケティングを中心に戦略を再構築し、マーケティング投資の増額とともに、商品ブランド中心のコミュニケーションへのシフトが始まります。商品広告から「SHISEIDO」の文字を消し、これまでの「企業ブランド」を前面に押し出したコミュニケーションから、「商品ブランド」ごとに生活者接点の最適化、関係構築を強化することとなったのです。同時にブランドマネージャー制となり、ブランドごとにPL管理が強化され、マーケティングコミュニケーションのROIの向上を目指したデジタルシフトのタイミングが訪れます。
 
2. ターゲットとメディアデータを精緻に読み込む
 2010年代に入り、デジタルデータ量は加速度的に増加し、それにより主に既存メディアの個々の接触は減少しているように見えました。しかしながら、マス4媒体の接触時間は相対的に減少しているものの、デバイスの多様化とともにメディアの総接触時間は大幅に増加傾向を示していました。また年代別でのメディア接触は構成が大きく異なることや、生活者に受け入れられやすい情報源は「自分事化できる情報」や「口コミ」となり、さらに丹念にデータを見てみると、若年層がテレビを見ていないわけではないことや、メディア接触に地域差が大きいことなど、生活者全体を「デジタルシフト」とひとくくりにする危険性も感じてきました。つまりデジタルメディアだけでは伝わらない層が存在していることから、デジタルシフトは目的ではなく、ターゲット別に綿密にプランを組み、メッセージを効率よく到達させるルート設計を行い、必要に応じてデジタルを活用すべきだと考えるようになりました。
 
3. R&Dとしてのデジタルメディア
 コミュニケーション戦略の出発点は、目的と環境のマッチングにより、ターゲットに応じた課題を解決し成果を生み出す方向へ向かいます。コミュニケーションの主語も、企業主語だけではなく、第三者主語のものも必要な時代になってきました。すなわち生活者同士のコミュニケーションを誘発する仕掛けです。実際に新しい取り組みで実行された施策も会場で視聴することができましたが、これまでの資生堂のコミュニケーションと流れを異にする作品群には興味を惹かれました。今では、視聴の量だけでなく質や個人単位のプロフィール詳細も押さえることができるようになってきています。さらにそれぞれのメディアの効果だけでなく、例えばテレビ×デジタルの統合リーチで広告認知を捉えるなど、効果測定の面でも新機軸が必要となります。単なるデジタルシフト戦略ではなく、目的・ターゲット別の取り組みが、資生堂のコミュニケーション戦略をさらに生きたものにしているのです。
 
4. コミュニケーションのこれからの課題と広告界の新しい秩序
 今後リサーチ各社からも、続々とメディア、ターゲットの詳細なデータが提供されるようになります。また既存メディアそのものもデジタル化することで、例えばこれまで場所媒体として不特定多数に訴求するメディアと捉えられていた、OOH、タクシー広告などもターゲティングメディア化するなど、媒体にも変化がもたらされています。
 デジタル広告の出稿量が増える中で、その品質課題も問題になっています。広告が本当にユーザーに見られているか、アドフラウドやブランドセーフティの問題はどうか。広告主側も、テクノロジーの進化に追いつき利用するだけでなく、実質的な効果を精査して広告界の秩序を取り戻す必要にも迫られてきています。
 生活者と常に向き合い、変化・進化に敏感に反応していくことが、これからのコミュニケーションにとって重要であると言えるのです。
 
【サロンを終えて】
 今回はリサプロ祭りでの開催で、通常より短い時間で、多数の参加者に囲まれての会でした。しかし、内容は盛りだくさんで、データ、事例を数多く盛り込んでのお話に、あっという間の90分でした。
 変化の大きい時代だからこそ、流されることなく実績を振り返りつつ、新しいチャレンジをする。そしてその結果効果の把握と管理からまた次のプランを仕掛ける。これらは当たり前のことようでありながら、時流に乗るプランを選択するだけでは勝つことができない現状を再認識させられます。さらにともすると秩序に欠ける状態になりがちな今の広告界全体を俯瞰し、例えば今の時代テレビかデジタルか、という議論ではなく、その統合、融合が行われるであろうという小出さんの視点は、リーディング企業としてのマーケティングエクセレンスを体現した、示唆に富むメッセージをいただいたと思います。
 

集合写真
 
(文責:京ヶ島 弥生)

 
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