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第93回マーケティングサロンレポート
「劇団四季のマーケティング戦略~ロングラン公演を可能にする仕組みとは~」

第93回 マーケティングサロン:大阪
「劇団四季のマーケティング戦略~ロングラン公演を可能にする仕組みとは~」
日程:2019年6月26日(水)19:00-21:00
場所:神戸大学梅田インテリジェントラボラトリ(大阪教室)
ゲスト:四季株式会社(劇団四季)制作部部長 河崎 誠 氏
サロン委員:太田 昌宏
 
【サロンレポート】
 日本を代表するミュージカル劇団・劇団四季の制作部長河崎誠氏をお招きして、持続的成長の源泉であるロングラン公演を可能にしたマーケティング戦略についてお聞きしました。
 
【概要】
1.劇団四季とは
①創立記念日は、1953年7月14日
 浅利慶太氏はじめ、十人の大学生は、「演劇界に革命を起す」という志のもと、そのスタートの日をフランス革命の7月14日に定められました。資料としていただいた浅利慶太氏の「演劇回復のために」は、22歳の青年の文章とは思えない、浅利氏の演劇への熱い思いが伝わる、正に既成劇団への挑戦状のような趣でした。
②年間公演規模
 年間総公演回数は約3000回、総動員数は約300万人、売上は221億円(2017年度、前年比110%)。ご参考までに、宝塚歌劇は2018年度観客動員数277万人、2017年度売上340億円(梅田芸術劇場、宝塚舞台など阪急阪神グループのステージ事業含む)。
③劇団員の構成
 総数 約1300名(俳優600名 技術350名 経営350名)
 技術スタッフは、舞台音響システムや舞台衣装、小道具等舞台を支える職人集団。経営は、団体セールスを担当する営業部をはじめ、制作部、国際部等、劇団全体の運営を担当。
 
2.3つの理念に基づいた事業展開
①演劇の市民社会への復権
 戦後間もない日本演劇界は、政治主張を主眼にした啓蒙的な舞台が主流でしたが、劇団四季は、純粋に人々が感動できる舞台を創造し、市民生活と手を携えて歩むことを志した結果、どの作品にも「人生は素晴らしい。生きるに値する」というテーマが貫かれています。
 このメインテーマがあるからこそ、どの作品においても、観劇した方が、舞台を自らの日常に置き換え、勇気と感動、明日へのエネルギーを感じて、リピートにつながっているのではと思います。さらに、日本全国の小学校5、6年生を無料で公演に招待する「こころの劇場」や「美しい日本語の話し方教室」「チャリティ公演」を全国で展開し、演劇を子供の頃から身近に感じてもらう努力を続けておられます。同時に、これらの活動は、劇団員の視野を広げる育成効果と将来の劇団志望者の養成にもなっているようです。
 
②舞台成果による経済的自立
 「俳優がアルバイトをせずに、舞台だけで生活できる環境を作る」ことを創立の時から掲げていたことが、現在の持続発展可能なビジネスモデル創出の原動力になったと感じます。収入は、年間契約で舞台に専念できる最低額を保障。ケガをしても安心してリハビリができ、新人も訓練に専念できる。また、自前のお稽古場である四季芸術センターには、本番と同等の稽古場はじめ14の稽古場と30の個室練習部屋があり、無料で受けられるレッスンや在籍期間が短いほど安く食べられる食堂やジム、医務室などを備えています。私も見学に行かせていただきましたが、お稽古に専念できる素晴らしい施設でした。
 
③文化の東京一極集中の是正
 東京、大阪、名古屋、札幌に専用劇場を持ち、さらに仙台、静岡、広島、福岡にオフィスがあり、全国ツアーも含め日本全国で公演をされています。前述の「こころの劇場」や「美しい日本語の話し方教室」「チャリティ公演」もこの理念実現の一環の活動と感じます。
 
 河崎氏が、「部長クラスは、3つの理念を自分の言葉で語れる」と仰ってました。訪問した芸術センターの一室には、浅利慶太氏はじめ創設メンバーの物故者を敬う部屋があり、もうすぐ一周忌を迎える浅利氏の遺影の前には、線香が焚かれ、お稽古で悩んだ劇団員が、浅利氏と心の対話されるようです。私は、コンサルティングの現場で、理念が形骸化している現場を経験をすることがありますが、「理念経営」の大切さを改めて感じました。
 
3.ロングラン公演を可能にする仕組み
①ロングラン公演システムの原点は「キャッツ」
 四季は、本場海外で大ヒットしている「キャッツ」を上演する権利を得ようとしましたが、そのロイヤルティをはじめ初期投資にかかる費用があまりに高額だったことで、ロイヤルティをペイしてなおかつ、興行的にも利益を出すためには、ロングランで上演する必要がありました。しかし、当時の日本では、ロングラン公演の概念が無く、1ヶ月もしくは3ヵ月が通例でした。海外ではロングラン公演が常識でしたので、浅利氏は、日本にショービジネスを確立するには、自前で劇場を作らなければと思ったそうです。人脈の広かった浅利氏は、スポンサー探しに奔走。一方では、専用劇場建設のために、劇団の蓄えをすべて投入されたそうです。この決断と行動力は、起業家ならではの「勝負勘」だったと思います。そして、新宿に劇団四季専用劇場を建設、1983年11月11日、大作ミュージカルの上演を可能する壮大なプロジェクトが始まりました。公演の前には、劇団員だけでなくその家族も集めて決起会を開いたそうです。浅利氏の決意と覚悟のほどが分かります。ちなみに、四季では、今でも11月11日は「キャッツの日」となっているそうです(小生が前職で始めた「ポッキー&プリッツの日」と同じ日なのは、何かご縁を感じます(笑))
 
②ロングラン公演システムの要諦は「作品主義」「俳優の高品質」「コアファンと新規開拓」
「作品主義」:
 劇団四季の作品には、すべてに前述の『人生は素晴らしい。人生は生きるに値する。』というテーマが貫かれて、上演されています。このテーマに合わないものは、どんな大作であっても選ばないそうです。すべての人の応援歌とも言うべきこのテーマだからこそ、観劇した方の心を打ち、リピートにつながっていると思います。また、作品そのものが持つ魅力を大切にし、個々の俳優をフィーチャーしません。浅利氏の持論は、「芝居の面白さは本が8割、残りの2割が俳優や演出といった他の要素」「俳優の命より作品の命の方が長い」。俳優の人気に依存しないことで、品質の安定と持続的な人気を確保しています。
「俳優の高品質」:
 入団オーディションは、毎年競争率が約40倍ととても高いので、俳優は、入団当初から高いレベルが求められます。さらに、1年契約ですので、常に鍛錬が求められます。しかし、前述のように入団後は、稽古に集中できる環境が完備され、また、毎公演、公平で厳しいオーディションを課すことで、俳優に常に競争意識、危機意識を持たせ、自己鍛錬を促しています。主役を複数養成するという仕組みは、俳優のモチベーションを常に刺激し続けるだけでなく、ロングランをしやすい環境を作り出す効果ももたらします。
「コアファンと新規開拓」:
 公演における基本的な客層は、「四季の会」と呼ばれるファンクラブ(会員数25万人)が、3割、営業が担う、福利厚生や親睦会、修学旅行等の学生団体やバスツアーなどの団体セールスが、3割、残りの4割が、フリーと呼ばれる初めての来場者だそうです。つまり、公演が始まる前から最低6割は席が埋まっていて、人気が高い公演なら「四季の会」で約6割が埋まるそうです。そうなれば、フリーと呼ばれる初観劇者には、なかなかチケットが回らない状況になり、劇団四季は人気でチケットが取れにくいという評判を呼び、だから行きたいという「飢餓のマーケティング」が成立するのではと思います。
私の印象に強く残ったのは、営業の市場開拓です。全国各地にセールスが出向き、お客様が劇場にお越しいただく理由を徹底的にヒアリングし、社内で共有化、同じ理由が当てはまる顧客は他にいないか、議論を重ねるそうです。「なぜ買うのか?」と言う問いに愚直に答える姿勢は、まさにマーケティングそのものです。コアファンの人気に胡坐をかかずに、地道に顧客理解を深める姿勢は、どの企業でも参考になると思いました。
 
③ロングランの一番のメリットは、高い収益性
 大規模な演目への投資でも、だいたい2年前後で回収できるそうなので、ロングランになればなるほど利益を上げられます。ロングランで収益を安定させることで、チケットの価格は抑えられ、ミュージカル文化を広める、俳優が副業をしないで公演や稽古に専念する、といった劇団の理想を実現してきたんだと思います。このようなロングランの好循環システムが、ディズニーを含めた海外のライセンサー達との関係をより強固にしてきているようです。
 
【サロンを終えて】
 日本の演劇界を代表する「劇団四季」と「宝塚歌劇」。ご縁があって両方を深く知ることができました。『人生は素晴らしい。人生は生きるに値する。』『清く、正しく、美しく』どちらも、人間がより良く生きていく上で、大切なメッセージだと思います。魅力ある普遍的テーマは、ロングセラーの大切な要件だと感じました。一方、「作品主義」の四季と「スター育成」のタカラヅカ。魅せる舞台と共創の舞台。お客様が支持する理由に、大きく異なる点があることも興味深かったです。
 俳優と技術、経営スタッフが一丸となってつくりあげてきた「劇団四季」というブランド。その一員であることの喜びと誇りが、ステージの高いクオリティにつながっていると感じました。熱意と「四季愛」にあふれる、講師役を務めていただきました河崎さんに改めて感謝致します。
 

集合写真(前列中央 河崎誠氏)
 
(サロン委員:太田 昌宏)

 
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