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第96回マーケティングサロンレポート
「社会課題解決のためのマーケティング ~国境なき医師団のファンドレイジング戦略~」

第96回 マーケティングサロン:東京
「社会課題解決のためのマーケティング ~国境なき医師団のファンドレイジング戦略~」
日程:2019年7月26日(金)19:00-
場所:日本マーケティング協会 東京本部
ゲスト:国境なき医師団日本 ファンドレイジング部 ディレクター 吉田 幸治 氏
サロン委員:佐藤 圭一・金 泰元・八尾 あすか・尾崎 文則
 
【サロンレポート】
 2015年、国連サミットにおいて「持続可能な開発目標(SDGs)」が掲げられて以来、政府・企業・NGO/NPOの3つのセクターが協働して世界的な社会課題の解決に取り組む、コレクティブインパクトへの注目が高まっています。欧米においてはソーシャルセクターと呼ばれるNGO/NPOなど市民組織が大きな社会的役割を担っているのに対して、日本ではまだまだその存在は発展途上にあります。
 そんな中、世界の人道危機の最前線で緊急医療援助を手掛け、ノーベル平和賞を受賞した「国境なき医師団」は、その活動資金として、世界で約2,000憶円、日本でも約89憶円の資金調達(ファンドレイジング)を実現しているインターナショナルNGOの代表的存在です。
 今回のマーケティングサロンでは、国境なき医師団日本でファンドレイジングディレクターを務める吉田幸治氏をお迎えし、国境なき医師団のミッションや支援活動、資金獲得のためのファンドレイジング戦略についてご紹介いただきました。参加者とともに、社会課題解決のためのマーケティングについて、議論を深める機会となりました。
 
【ゲストプロフィール】

©MSF

吉田 幸治 氏
国境なき医師団日本 ファンドレイジング部 ディレクター
国内教育業界で営業・経営管理、欧州IT企業で経営企画、事業開発及びマーケティングを担当した後、欧米経営コンサルティング企業で業務改革、ITプロジェクトに従事。2011、国際NGO国境なき医師団日本のファンドレイジングディレクターに就任し、現在に至る。英文学士、経営学修士。
 
【モデレーター】
尾崎 文則
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン ファンドレイジング部
早稲田大学政治経済学部卒業。電通、BCGを経てセーブ・ザ・チルドレン。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)、日本マーケティング学会サロン委員。
 
【概要】
国境なき医師団のミッション
 国境なき医師団は1971年、医師とジャーナリストによってフランスで設立された、非営利で国際的な民間の医療・人道援助団体です。
 活動の柱は2つです。
1. 生命の危機に直面している人びとへの「緊急医療援助」
2. 医療だけでは人びとの命を救うことが出来ない現状を国際社会に知らせる「証言活動」(広報、アドボカシー活動)
 苦境にある人びと、天災・人災・武力紛争の被災者に対して、人種、宗教、信条、政治的な関わりを超えて差別することなく援助を提供しています。国境なき医師団の憲章では、「公平・中立・独立」を掲げています。これらの活動が評価され1999年にはノーベル平和賞を受賞しました。
 現在、約47,000人のスタッフが、世界75の国と地域で活動をしています。プログラムの56%はアフリカ大陸。活動地の過半数は紛争状態や不安定な地域です。
 これらの年間活動費は15.36億ユーロ(約2,003億円)にのぼり、その9割以上が民間からの寄付によって賄われています。
 
ファンドレイジングは組織のニーズに従う
 国境なき医師団日本では2018年に約32万人の支援者から約89億円のご寄付をいただきました。総収入全体の約94%が民間(個人約88%、法人約6%)からのご寄付です。
 私たちのファンドレイジング(資金調達)方針は、「我々が何者であるか」を体現しています。
 増加の一途を辿る援助活動ニーズにこたえるために安定した収入・成長と適切なコストが必要です。紛争地や政情不安地域での活動のために、国際機関や政府の色が薄い資金が必要です。また、介入、撤退、証言活動の自由のために、特定少数の支援者に依存しないことが必要です。そして、新たな援助ニーズにも迅速に対応するため、使途が限定されない一般資金が必要です。さらに、企業や国に対する政策提言活動を行うためには厳格な調達・ファンドレイジング原則が求められます。
 このように、お金の集め方は組織の在り方そのものを表しているといえます。
 
支援者への究極の提供価値は自己実現
 私たちの活動は、生存に最低限必要なものを持たない極度の苦境にいる人びとに対して、緊急医療援助活動(“流れている血を止める”)と証言活動(“健全な社会システムを作る”)を行っています。
 一方で、寄付を託してくださる支援者に対して、私たちは何を提供しているのでしょうか。言い換えれば支援者の方は何を得ているのでしょうか。
 寄付の動機はいくつかにタイプ分けすることができますが、究極的には「自己実現欲求」の充足を提供しているではないかと感じています。つまり、寄付体験を通して理想の自分を見るのです。国境なき医師団の場合では、「人の命を救える人間でありたい」という自己の実現です。私たちはバトンをつなぐ、といった捉え方をしているのですが、支援者の方が、私たちに託してくださっている「人の命を救いたい」という想いを現地に届け、医療・非医療スタッフが、極度の苦境に置かれた人びとに対して、緊急医療を届けています。
 
適正なファンドレイジング“投資”が緊急医療援助活動を支える
 民間のマーケティングと非営利組織のマーケティングで、大きく異なる点の一つは投資に対する理解、捉え方です。メディアで流れる化粧品やスマートフォンなどのCMを見て、広告費を使いすぎだ、と怒る人はほとんどいないのではないでしょうか。一方で、非営利組織の広告宣伝に対しては、お叱りが多数です。
 活動規模を拡大するためには適正なファンドレイジング投資が不可欠です。
 増大する社会課題の解決に対して、行政組織や営利企業が担いきれない役割をソーシャルセクターでは担っています。しかし、適正な“投資”という理解が不足しているために、非営利団体は負のスパイラルに陥っています。それは、資金不足→人材不足→力不足→信頼不足→資金不足…という連鎖です。
 私たちの試算では、ファンドレイジング投資をしなければ、2017年に79億円集まった資金が、3年後には23億円に減少してしまいます。活動資金の減少とは、救われるはずの命が失われてしまうことを意味しているのです。
 救われる命を減らさない、という意味で、適正なファンドレイジング投資を行い、より多くの活動資金をねん出していかなければいけません。
 

【サロンを終えて】
 私自身、民間企業から意を決し、ソーシャルセクターのマーケティング職へ移りましたが、「寄付」という消費者行動があまりにも奥深く、どのようにマーケティング戦略を立案していけばよいか、思い悩んでいました。そんなときに、吉田様に相談し、貴重な助言をいただいたことが今回のサロンのきっかけです。寄付者への究極的な提供価値は「自己実現」である。「人の命を救える人間でありたい」という支援者の想いに応えている、という言葉にブレイクスルーを得たように感じています。
 マーケティングの知見が、増大する社会課題解決に向けた力になることをこれからも願っています。
 

集合写真
 
(文責:尾崎 文則)

 
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