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第123回マーケティングサロンレポート「危機対応から変革実践へ - 2021年に加速するマーケティング」

#いまマーケティングができること

第123回 マーケティングサロン:オンライン
「危機対応から変革実践へ – 2021年に加速するマーケティング」
 
日程:2021年1月26日(火)19:00-20:30
場所:Zoom使用によるオンライン開催
 
ゲスト:小林 哲 氏(大阪市立大学 教授・日本マーケティング学会 次期会長)
    奥谷 孝司 氏(株式会社顧客時間 共同CEO取締役)
    風間 公太 氏(株式会社顧客時間 チーフプランナー)
    岩井 琢磨 氏(株式会社顧客時間 共同CEO代表取締役)モデレーター 
サロン委員:高橋 千枝子・岩井 琢磨・太田 昌宏・和田 久志

 
【サロンレポート】
 with コロナの日常化を経て、企業のアクションは対応から変革の実践へと移り、その動きが加速している中で、2021年を迎え、各企業のマーケティングはどのように変わっていくのか。新年最初のマーケティングサロンは、岩井氏をモデレーター役に、パネラーとして小林先生、奥谷氏、風間氏が座談会方式で、マーケティング視点からその変化の行先を議論していただきました。
 

 
【概要】
1. 2021年、注目しているマーケティングの変化とは?
① Marketing with 「Purpose」の重要性:CESを題材に(奥谷氏)
 2020年のConsumer Electronics Show(CES)でのマイクロソフト社のプレゼンを題材に、「Trust」ed brand experienceによるMarketing with Purposeの重要性について言及したい。コロナ禍の中でマーケティング活動そのものの意義が問われた。コロナ前は、相対的価値基準に影響受けて活動していたが、これからはリスクをとって自社の「態度」を明確にし、存続をかけてブランドの「Purpose」を問うべきだ。そして、ブランドの「Purpose」は、「Customers Values」と融合することで、顧客に意味のあるものとして共有される。
 想起されるブランドとは、顧客に「Trust」されているブランドである。ブランドの「Trust」を上げることで、「Brand Love」は高まり、「Brand Royalty」を高くすることができる。  
ブランドの「Trust」を上げるためには、「Responsibility」「Customers Values」「Inclusion」が必要だ。「Responsibility」とは、プライバシーの保護、透明性、企業へのアクセスのし易さを備えることだ。「Customers Values」は、顧客視点や倫理を踏まえるのは当然だが、社会問題の解決を目指して自社の態度を示し、顧客と共創しながら、価値連鎖を生み出すことで生み出される。「Inclusion」とは、顧客を囲い込むのではなく、顧客に能動的に入ってきてもらう状態のことだ。本物の「Trust」を顧客に生み出すためには、まず「Responsibility」を果たし、「Customers Values」を生み、顧客を「Inclusion」することが必要だ。「Inclusion」の感情は、快楽や功利性だけでなく、透明性といやしを感じることで生まれる。
 
まとめ:Marketing with Purposeを実現するには、以下の5つのステップが必要だ。

  1. コロナ禍の不安な時代に、人々はまず真実と透明性を求めている。
  2. 格差、分断が懸念される中、人々は企業に対してコンプライアンスだけでなく、平等に扱われる経験を望んでいる。
  3. 人々はブランドの健全性だけでなく、その目的や態度を示すことを求めている。
  4. コロナ禍に傷ついた人々は、前向きな影響を与えてくれる商品を望んでいる。
  5. 人々は、囲い込まれるのではなく、能動的に巻き込まれることを望んでいる。

 デジタル社会の主要プレーヤーであるマイクロソフトが、このテーマに焦点を当てたことは興味深い。
 
② 顧客接点のデジタルシフトがさらに進化する:コンタクトレスショッピングを題材に(風間氏)
 奥谷氏同様、CESのプレゼンの中から小売業にとってヒントになるワードとして「コンタクトレス」に注目した。
「ダークストア」:アマゾン傘下のホールフーズが、オンライン注文への対応に特化した「ダークストア」への転換を進めている。コロナ下で外出が制限される中、米国の小売業はビジネスを継続するために、今まで来てもらう場所であった店舗を「ダークストア」として、デリバリーの為の倉庫に変化させている。
「ボイスコマース」:「コンタクトレス」技術の進化の中で、「声」(ボイスコマース)に注目した。日本でも一昨年ぐらいからアマゾンやグーグルがサービスを開始したが、欧米ではかなり浸透してきている。ボイスコマース企業の「Jetson」は、アマゾンだけなく世界シェアNo.1のECサイト構築プラットフォーム「Shopify」ともパートナー関係を結んでいて、BtoC企業へ広がりを見せている。コンタクトレスショッピングは、「クレジットカード」から「QR決済」「スマートデバイス」そして「声」にまで変遷してきている。
 さらに、ボイスコマースとライブコマースとの相性の良さに注目している。ライブコマースは、コロナ禍で注目されているが、ボイスコマースの技術を活用すれば、ライブ配信で欲しくなった商品をECサイトを立ち上げなくとも、ライブを見ながら、声で購入することが可能となる。
 変化する「コンタクトレスショッピング」の意義や価値:コンタクトレスショッピングは、
Beforeコロナでは「利便性の向上」が価値であったが、Withコロナで「安全性の確保」が価値となり、Afterコロナでは「決済行為の非行為化(決済を意識させない)」が価値となる。「決済行為の非行為化」の先進事例として、端末付きのカートに品物を入れるだけでレジも通らないスーパーのアマゾンフレッシュがある。アマゾンは、アマゾンフレッシュとアレクサを連動させることにより、顧客の買い物リストだけでなく、購入した商品の使用時間の記録まで手に入れたのは大きな進化だ。つまり、顧客時間に沿った「顧客行動データ」の取得により、情報・価格だけでなく、個人の商品の最適化にも踏み込むことが可能となった。
 
③ 2021年をどう見るか? ~点か線か アフターコロナの予測~ (小林先生)
 アフターコロナは、線で見るべきである。なぜなら、現在の様々なトレンドは、コロナが起点と言うより、もっと前に要因であるからである。大きな流れの一つは、言うまでもなくDXであるが、それ以外に、グローバリズムの流れをくむ「SDGs」とそれを実現するために必要な考え方である「多様性社会」への対応がある。さらに、企業レベルや投資家視点のテーマでは、「CSV」がある。
 日本では「SDGs」も「CSV」も急に注目されているが、欧米先進国と取組の真剣度の違いを感じる。彼らは、社会課題の解決を前提にビジネスモデルを考えているが、日本ではまだ社会課題の解決と利益のトレードオフ関係をどう解消するかという議論に留まっている。アフターコロナで、SDGsやCSVの考えが一気に進むと考えられるが、日本企業の意識の低さを憂慮している。
 「規模効果(同質性)によるグローバル化とそれに対抗するローカライゼーション」の動きでも日本は、欧米とは真逆の動きに見えている。ヨーロッパではEU誕生によるグローバル化の促進で格差拡大を生み、その対抗として個や地域を重視するローカライゼーションの流れが出てきた。しかし、コロナへの対応やSDGsへの取組から再びグローバル化に向かうと考えられる。アメリカでは、グローバル化への対抗として生まれたトランプ政権の終わりが、ローカライゼーションの終焉に思える。反して、日本は、コロナ禍を期に、東京一極集中の是正や地方分散といったローカライゼーションを強める方向へと世界と真逆のベクトルに動いているように見える。
 前述のアマゾンの動きについては「SDGs」や「CSV」の視点からも読むべきだと思う。つまり彼らの顧客行動データ把握の先には、環境負荷の軽減や移動の削減、個人の自由消費を維持した上での計画生産による、個人の満足と社会的効率の両立があるのではないか。
 
奥谷氏:日本の同質性は、ローカライゼーションの文脈では、メイドインジャパンのアピールやインバウンドなどで強みを発揮すると思うが、多様性社会が前提のグローバルトレンドの中で戦っていくには、同質社会で育ち、資本主義に則った覇権争いの中の相対的価値基準の序列に一喜一憂している日本企業は、どう対応するのかと思う。
小林先生:日本企業は、いまだにモノの価値だけで判断してしまっている。グローバルでは、企業が社会課題解決に目が向いている中で、日本企業は、まだ個別利益に目が向いている。欧米では当たり前のように「ブランドを買っている」と答えるが、日本では「モノを買っている」と答え、ブランドはモノを着飾るイメージのような扱いである。「Purpose」が議論されている欧米とのギャップを感じてしまう。
岩井氏:顧客と直接つながる「デジタル化」の大きな潮流の中で、「グローバル化」や「SDGs」といった社会的潮流があり、コロナ禍で顧客はより「Trust」されるブランドと絆を深めている状況だと思う。そのような潮流の中で、どのような「顧客変化」があるのでしょうか?
 
2. 「顧客行動の変化」について
小林先生:

  • 自己世界に幸せを見つける人々
    自己実現といった成長という視点ではなく、自分の世界をどう作るかということに幸せを見つける人々が出てくるのではないか
  • 不確定で見えないリスクにマ-ケティングはどう対応するのか

奥谷氏:
 2021年のNRF(米国小売協会)で紹介された新しい消費者像。

  • The Predictor
    不確かな状態が続く中で、保守的な行動とる人々の特徴的な行動。
    ・The future is Auto-Refill:自動補充機の普及
    ・Subscriptions Soar:サブスク人気の暴騰
    ・Power of The Pre-Order:予約販売の活用
    ・Seamless Savings:シームレスな節約(個別な節約をパッケージで提案)

  • New romantics
    不安な人々がより極端に自分お席兄に没入していく行動。
    ・Ritual Rapture:恍惚的な儀式
    ・Psychedelic Solutions:サイケデリックな解決策
    ・Emotional Hygiene:情緒的な衛生対策

参加者から:

  • 機能性よりも印象などを重視した物やサービスの購買が高まってきそう。
  • 「移動」や「対面」に社内からも顧客からも「理由」「目的」が求められている。
  • 顧客の非論理的満足の多様化が進む

 
岩井氏:グローバリズムの潮流の中での社会課題解決に関心がある一方で、自己世界の中での満足や理由、繋がり続けることの価値とかを求めるという顧客行動は、まったく違うものなのか、それともつながっているのでしょうか?
小林先生:グローバリズムの中の多様化として個人の世界への没入がある。標準化の世界は「良し悪しの世界」、多様性の社会は「好き嫌いの世界」。悪いことではないが、好き嫌いの世界には合理性がない分、良し悪いより強い感情になる。
 コロナ禍のマーケティングは、リスクを乗り越えて行動を起こすだけの理由の提供が求められる。お店に行くにもただ美味しいや安いだけでなく、店主を助ける等の「リスクを負ってでも行く理由」が必要だ。
岩井氏:好き嫌いのような合理性がない消費行動や顧客を能動的に巻き込む(Inclusion)ために、企業は目的や意義がより求められると感じる。
小林先生:「好き嫌い」が先にあって「良し悪し」というように、価値の序列がずれているか、変わってきていると感じる。
 
3. 注目する新しい「事業モデル」は何か?
風間氏:今の環境下では、「D2C」モデル型企業だと思う。顧客側がダイレクトに企業とつながりたくなる理由を企業側がどう価値提供できるかが重要。
奥谷氏:マクロ的には、多様性社会に対応するために、デジタルでパーソナライズ化していくことになる。ただ、好き嫌いが社会規範を凌駕してしまう状況になると、顧客は思考停止状態となり、企業側のメッセージを全く受け付けない「マスコミニケーション不全」に陥り、「コンシューマーテロリスト」的な人が出現する等、企業の対応が難しくなる。
小林先生:好き嫌いで判断し、他社への寛容さが失われつつある社会で、企業は嫌われないようにするにはどうすれば良いか?先ほどからの議論している「Purpose」は企業が嫌われないための対応策とも考えられるのでは?
奥谷氏:自分達の「態度」を明確にし、6割の人から好かれればよいと考えるのが良いのではないか。「肉は切らせるけど骨は切らせない」といったテクニックが重要になる。
小林先生:「嫌いだけど認める」という状況をつくるのは大切ですね。
奥谷氏:「嫌いだけど好き」は、とても熱意を感じるので重要だと思う。
岩井氏:企業が態度を明確にし、マーケティングの中に組み入れ、コミュニケーションで打ち出すというマーケティングを経営としてやっていくことが必要だと感じる。
 
4. 「マーケターの最も重要な役目」は何になるか?
風間氏:「クラブハウス」のような声によるSNSが出てきている中、企業は「ありのままの姿」を晒さなければならない環境にどう向き合うかが問われている。
奥谷氏:「態度」を示し、「嫌いだけど好き」という熱狂とエンゲージメントを作れる会社にしなければならない。そのためには、経営全体からお客さんのつながりを考えなければならない。「態度」を示して、誰とつながるかを明確にするのがマーケターの役割では。
小林先生:「D2C」は、マーケティングミックスの組み換えに過ぎないのだが、そう思われていないのが問題だ。DXもナッジもマーケティング領域なので、マーケターの手の内に入れる努力が必要。マーケターが自信を持って、イニシアティブをとることが重要。
岩井氏:変化の激しい時代の中、コロナ禍に見舞われた危機的な状況は、正にマーケターの腕の見せ所だと思う。「Purpose」や「事業モデルや顧客接点の変化」への対応には「顧客と向き合う」というマーケティングの本質的な役割に立ち戻ることが重要だと思う。
 
【サロンを終えて】
 論客4人の自由闊達な議論は、広く、深く、あっという間に時間が過ぎました。自身も「コロナ前に起きていた潮流が、一気に加速した」「存在意義を見直すことが大切」「目の前のお客さんと今一度深くかかわる」ことが重要と考えていたので、非常に共感し、モチベーションが上がったサロンでした。お話を聴けて、とても感謝しています!
 

 
(文責:太田 昌宏)

 
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