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第112回マーケティングサロンレポート「JMOOC『事例から学ぶデジタル・トランスフォーメーション ~クラウド, IoT, AI, アジャイル開発~』のダイジェストとJVCケンウッド社のDX事例」

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第112回 マーケティングサロン:オンライン
JMOOC「事例から学ぶデジタル・トランスフォーメーション ~クラウド, IoT, AI, アジャイル開発~」のダイジェストとJVCケンウッド社のDX事例
 
日程:2020年8月5日(水)19:00-20:30
場所:Zoom使用によるオンライン開催
ゲスト:依田 祐一 氏(立命館大学経営学部 准教授)
    大川 泰蔵 氏(株式会社JVCケンウッド 理事 / DXビジネス事業部 部長)
サロン委員:瀨良 兼司・依田 祐一
 
【サロンレポート】
 JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)は日本版MOOC(Massive Open Online Courses)で、無料のオンライン大学講座です。2020年春に開講したJMOOCの一講座である「事例から学ぶデジタル・トランスフォーメーション」では、初学者向けにDXの概説と実践事例が紹介され、8,000名を超える受講者の状況からも、昨今のDXに関する関心の高さがうかがえます。
 今回のサロンでは、冒頭、立命館大学の依田氏から、本DX講座のダイジェストをご講演いただきました。その後、JVCケンウッド社の大川氏から、海外市場で、サービスビジネスにチャレンジしているJVCケンウッド社のDXに関する実践例についてお話いただきました。
 
JMOOC講座ダイジェスト
 「事例から学ぶデジタル・トランスフォーメーション」は、全24回のマイクロラーニング形式で開講され、8,000名を超える受講がありました。「デジタル・トランスフォーメーション(DX)、クラウド、IoT、AI、アジャイル開発」といった言葉にあまり馴染みのない初学者を対象としています。企業・団体等のDXの実践事例を通して、DXと関連するデジタル技術の概要が理解出来るようになることが到達目標として設定されています。
 本編は、「DXをどのように実行し、効果を享受するか?」という問いに対して、第1部(第2回〜第7回)で、企業変革やDXにおける情報的経営資源である「デジタル技術の外観」を、第2部(第8回〜第23回)で、「DXの実践事例」を扱う構成となっています。
 今回のサロンでは、このダイジェスト版として、「プラットフォームとビジネス・エコシステム、クラウド、IoT、AI、アジャイル開発」の要点をご紹介いただきました。続いて、DXの実践事例として、「セールスフォース・ドットコム、ソラコム、NTTドコモ、Pivotal Labs、JVCケンウッド」等の取り組みと当該企業に注目する理由について、理論的な背景を踏まえながらご共有いただきました。
 
JVCケンウッド社のDX事例
 本サロンの後半では、JMOOC講座「事例から学ぶデジタル・トランスフォーメーション」において、IoTやAIというデジタル技術によって、DXを促進させている実践例として取り上げられている、JVCケンウッド社の大川氏から、DX分野の事業創造についてご講演いただきました。
 ご講演の冒頭、大川氏は、日本におけるモノづくりの凋落について、とくにエレクトロニクス業界において体質改善が進まず、スピードやコスト面で中国、韓国、台湾に圧倒されている現状、および、大企業における低い新規事業成功率を指摘します。
 新規事業の成功確率を高めることは、組織の新陳代謝にも繋がりますが、新規事業の立ち上げでよく知られている企業である、オリックス、DeNA、リクルート、メルカリ等の事例を確認しても、新規事業が黒字化する確率は10%程度で、打率1割という現状です。では、新規事業の成功確率が低い中で、いかにして成功確率を高めるのか。メーカーのサービスビジネスへの転換と、大企業による新規事業の立ち上げについて、JVCケンウッド社の新規事業である、自動車保険向けサービス(国内)とライドシェア向けサービス(海外)の2つのDX事業における、立ち上げから黒字化までの事例をご紹介いただきました。
 
DXビジネス事業部の立ち上げ
 大川氏は、神戸大学MBAを修了後、GCAでM&Aコンサルタント、企業再生支援機構(ETIC)でターンアラウンドマネージャー、産業革新機構(INCJ)でファンドマネージャーというキャリアを歩みます。その後、JVCケンウッド社に入社し、2016年にソリューション開発室の立ち上げに参画します。
 立ち上げ当初の1年間は、ベンチャー企業を100社以上訪問するなど、ビジネスアイデアの発掘に注力しました。2017年、社内にノウハウが蓄積されているオートモーティブ分野の資源を活かし、コネクティッドカーにフォーカスしてサービスの開発に着手しました。2018年に自動車保険向けサービスを開発し、さらに、Grab社(東南アジアで展開されているライドシェアサービス)とのビジネス推進によって海外進出にも挑戦しています。2019年には、DXビジネス事業部の売上高が100億円を超え、黒字化を達成しています。
 
自動車保険向けサービスの事例
 DXビジネス事業部の取り組みとして、まず、自動車保険向けサービスの事例をご紹介いただきました。これまでの自動車保険では、事故が発生し、運転手から連絡が入ってからの事故対応や事故査定が一般的でしたが、新システムでは、事故予防にも着目しています。リアルタイムで共有されるドライブレコーダーの走行データに基づいた運転診断を行い、その結果が運転手にフィードバックされることで、事故率の削減につながりました。また、センサーデータによる事故把握に加えて、ハンズフリーのE-callによって、運転手が怪我をしている場合の事故にも対応可能となりました。事故査定においても、聞き取り調査による査定から、センサーや映像データのAIを活用した事故査定によって、査定完了までの時間が大幅に短縮されています(2週間→30分程度)。保険料についても、これまでの等級制度に代わって、新システム導入後は、データに基づいた運転リスクに応じた保険料算定に移行しつつあります。
 この新保険サービス提供システムでは、クラウドを通じて、ドライブレコーダーによる走行データをAIが解析し、危険運転のアラートや運転診断のレポートが運転手のスマートフォン等に提供されます。このように、AIやIoT、ビッグデータ等を活用することで、保険サービスの変革を実現させています。
 
DXビジネスを遂行するにあたってのチーム編成
 JVCケンウッド社における自動車保険向けサービスの事業創造を踏まえて、DXビジネスを遂行するにあたってのチーム組成のポイントをご説明いただきました。ビジネスモデルの変革に際して、メーカーには意外とDX事業を推進するために必要な人材が揃っていることや、ビジネスの立ち上げや企画において中途社員中心のチーム編成とすることで、大企業においても、眠っている多くの経営資源を活用し、縮小均衡から脱却できる可能性があることを、大川氏は指摘します。
 これまで主に人手により実施されていたサービスの一部が、ビッグデータやAIを活用することによって、ビジネスモデルの変革が起きてくるなかで、メーカーにはマーケットを創出する経営資源を有しており、DX事業に立ち上げに際して、大企業が決して分が悪いわけではないことを、JVCケンウッド社の事例が示しています。
 
ライドシェア向けサービスの事例
 続いて、DXビジネス事業部の国外における新規事業として、ライドシェア向けドライバーサポートサービスの事例をご説明いただきました。ライドシェアビジネスは、UberやDiDiなどの企業が参入していますが、JVCケンウッド社が協業したのは東南アジアを中心にサービスを提供しているGrab社です。
 ライドシェアビジネスの問題として、運転手も乗客も一般人であることから、傷害事件や殺人事件の発生が挙げられます。Uberでは世界で年間4,000件の傷害事件が発生しており、Grabでも年間5件の殺人事件が起きていました。この問題の解決に向けて、Grab向けドライバーサポートサービスが導入されました。ドライブレコーダーのデータから、危険を察知し、動画やGPS情報に基づいて警察等を手配するサービスを提供しています。実際に、カメラの設置が抑止力となり、傷害事件を未然に防止し、車の盗難等の発見にも貢献しています。
 Grab社との協業に際して、JVCケンウッド社では、ハードもクラウドも外部から調達するという従来とは異なるアプローチで、事業推進のスピードやコスト削減を行っています。業務提携に加えて、Grab社への出資を実行することで、両社の関係を強固にし、ドライバーサポートサービスにおける監視カメラの仕組みなどより突っ込んだ提案を実施してきました。また、数ヶ月でサービスを立ち上げるというスピード感や圧倒的なコスト削減要請がGrab社側から求められたこともあり、内製や日本国内の調達水準では間に合わないことから、サービス提供のために、グローバルで調達先を探索しています。ビジネスプロデュースは日本(JVCケンウッド社)、事業運営とソフト開発はシンガポール(Grab社)、クラウド運営はインドネシア、ハードウェア製造は深センのメーカーに声をかけ、グローバルでのパートナーシップを構築しています。
 Grab社には、ソフトバンクやトヨタも投資していることから、日本企業の良さを理解している人々が集まっての協業が行われています。パートナーシップの構築によって、約3ヶ月でシステムを開発し、POC(Proof of Concept)を経て1年以内にサービスの提供が開始されました。
 
日本の製造業における新規事業の成功を阻んでいる要因
 Grab社とのライドシェア向けドライバーサポートサービスにおけるグローバルでの協業事例を踏まえて、新規事業が立ち上がるスピードがこれまでと変わってきており、従来のやり方のままでは、世界のベンチャー企業との戦いにスピードで負けることを、大川氏は指摘します。
 グローバルでの協業では、実績や信用も重要ではあるものの、良い企画は実績や信用がなくても評価され、チャレンジするスタイルがあることで、日本の常識をかけ離れている事業推進のスピードが生まれています。今後、世界で事業の立ち上げを行うにあたっては、実績や信用よりも、企画力とコミュニケーションスキル(交渉力)、そして適応力が問われ、新規事業創造におけるビジネス・サービスマネジメント機能(ビジネス企画)が求められます。
 今回のライドシェア向けドライバーサポートサービス事業の創造においても、中核となるビジネス企画以外は全て外部から調達しています。取引先も、実績のある取引先ではなく、グローバルで最適なパートナーと組み、新規の取引先と付き合うことを厭わずに実行しました。そして、JVCケンウッド社の社内組織も、様々な業種から転職してきたメンバーと生え抜き社員との混成チームで推進されました。
 
【サロンを終えて】
 冒頭に企業変革の重要性とDXの概説をご説明いただいたうえで、JVCケンウッド社の実践事例をご紹介いただいた今回のサロンは、研究者と実務者の共演による、内容盛りだくさんの魅力的な時間となり、参加者とのディスカッションも含めた90分があっという間に過ぎました。国内だけではなく、海外市場でのサービスイノベーションの実現に関するお話は、新規事業推進のスピード感が伝わってくるご講演であり、DXの実践や新規事業の成功確率を高めるためのチーム組成はもちろん、その仕組みづくりに関する理解が深まる内容でした。
 ゲストの大川様、依田先生、ご参加いただいた皆様に、この場を借りて心より感謝申し上げます。
 

集合写真(画面左上が大川氏)
 
(文責:瀨良 兼司)

 
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