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研究報告会レポート

第1回マーケティングと新市場創造研究報告会レポート「再び『ブルー・オーシャン戦略』を考える」

第1回 マーケティングと新市場創造研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「再び『ブルー・オーシャン戦略』を考える」

日 程:2016年6月18日(土)13:30-15:30
場 所:早稲田大学大学院 経営管理研究科(ビジネススクール)11号館9階901教室

 

 2016年4月に新たに発足した「マーケティングと新市場創造」リサーチ・プロジェクトの第1回研究会を早稲田大学で開催しました。ブルー・オーシャン戦略の公式な教授資格を日本で唯一有する安部義彦氏のご登壇とあって,約70名が参加され,大盛況でした。
 ご登壇者,ご参加の皆様,ありがとうございました。以下,レポートです。

 

「マーケティングとブルー・オーシャン戦略の架橋:WABOSI設立の目的」
早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 
早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所 所長 川上 智子 氏

 2016年4月にリサーチ・プロジェクトが発足しました。『ブルー・オーシャン戦略』を始めとする既存理論を基に,実践的なマーケティング志向型イノベーション理論を構築し,普及させることを目標とするリサーチ・プロジェクトです。
 私はドラッカーの言うマネジメントの重要な要素,すなわち「顧客創造」「マーケティング」「イノベーション」を頂点とする三角形の図を「ゴールデン・トライアングル」と勝手に名付けていますが,研究会はこの三角形を念頭に置いて進めていきたいと考えています。
 『ブルー・オーシャン戦略』はチャン・キム教授とレネ・モボルニュ教授の共著で,英語版・日本語版でそれぞれ2005年に刊行され,2015年に増補版(日本語は新版)が出ました。本日の研究会は,早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所(通称WABOSI,和星)との共催です。INSEADとWABOSIは公式には連携していませんが,私は2011年にキム教授と偶然出会い,WABOSI発足に際しては「ブルー・オーシャンに向かって進め! (To Blue Oceans Ahead!) 」とメールでメッセージを頂きました。
 今日は『日本のブルーオーシャン戦略』の共著者である安部先生と池上先生に,直接お話を伺える大変貴重な機会です。私自身も楽しみにしております。よろしくお願いします。

 

特別講演「再び『ブルー・オーシャン戦略』を考える」
ブルー・オーシャン戦略®プラクティショナー
株式会社価値革新機構 代表取締役
早稲田大学 客員教授 安部 義彦 氏

 『ブルー・オーシャン戦略』の本の表紙には,「どのように競争の無い市場空間を創造し,競争を無関係にするか」とあります。ブルー・オーシャン戦略の特徴は,主体的「需要」創造の理論,「非顧客」の取り込み,そして数値分析ではなく実地体験型です。
 『ブルー・オーシャン戦略』では,戦略キャンバス,ヴァリューカーブ,ERRCグリッド,バイヤー・ユーティリティー・マップ(BUM),BOIインデックスといった多様なツールが使われます。これらを自由に使いこなせれば戦略が構築できるという点,そしてすべてをワンセットで使いやすく提供している点がブルー・オーシャン戦略の理論的な特徴です。
 ブルー・オーシャン戦略で行うバリュー・イノベーション(価値革新)のプロセスにはステップ1からステップ4まであります。ステップ1は覚醒,ステップ2は現地探査,ステップ3は戦略の見本市,ステップ4はコミュニケーションのフェーズです。ステップ1から3まで約6か月というのがおよその目安の期間です。
 最初の覚醒のフェーズでは,現状の戦略キャンバスを作成し,現地探査の期間中に戦略キャンバスを描き直していきます。レッド・オーシャンの場合,戦略キャンバス上に描かれる価値曲線(バリュー・カーブ)は収束(コンバージェンス)します。それを新たな戦略でダイバージェンスに転換し,ブルー・オーシャンを創造するのです。

 
特別講演 安部 義彦 氏
特別講演 安部 義彦 氏

 

 先日も,ブルー・オーシャン戦略が将来の明確なトレンドを描くなら,誰でも模倣できるのではないかという,誤解に基づく指摘を目にしました。しかし,ブルー・オーシャン戦略のタイムという考え方は,自分たちが主体的にトレンドを作っていくものです。たとえば,地球温暖化のトレンドのように,誰もが気づくといった類のトレンドとは異なります。
 模倣が起きづらい理由は他にもあります。任天堂のWiiが出た時に,すごく売れると思った人はいませんでした。なぜかというと,業界常識から取り除き(Eliminate),減らす(Reduce)ものがあるため,これはすごい製品だと認知的にとらえづらいのです。それで,ブルー・オーシャン戦略はマーケットを独占して意外と長く続く仕組みになっています。
 ブルー・オーシャン戦略の例として,よく挙げられるのが1999年から2010年頃のABCクッキングスクールです。このように年代を区切ることは重要です。なぜなら,ブルー・オーシャン戦略は,企業や経営者ではなく,打ち手(strategic move)が分析対象だからです。
 ABSクッキングスクールは,料理学校のタグラインを「修行から楽しみへ」と変えました。イエローテイルのワインもWiiスポーツも,いずれにも共通して言えることは,ノンカスタマーは既に競争要因として挙げられているものが嫌いだということです。
 ワインが好きな人は何年のどこのワインといったことにこだわりますが,ノンカスタマーはそんな話を聞けば聞くほど嫌になります。フィットネスに来ているお客さんは,実はお風呂が目的でフィットネスに来ていて,腹筋をあと10回やりましょうと言われると嫌なのです。つまり,顧客の声を聴けば聞くほど,ノンカスタマーは離れていくということです。
 私自身が実践した各社のプロジェクトから学んだことがあります。1つは,合宿したり,プロジェクトルームを作ったりすること,物理的な集まりの場が重要だということです。チーム編成も鍵となります。自社の競合のことは,どの会社も意外と知らないこともわかりました。
 ブルー・オーシャン戦略は外部資源をうまく活用するという発想が必要で,強みや資源がなくても実現できるものです。ただし,そうしたことへの理解に意外と時間がかかります。
 

鼎談
早稲田大学大学院 経営管理研究科 准教授 
早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所 幹事 池上 重輔 氏

鼎談 池上重輔 氏
鼎談 池上重輔 氏

 

 ブルー・オーシャン戦略は,一定のビジネス知識がある人を前提に書かれています。たとえばマーケティングや戦略の基本的知識です。書かなくてもいいことはあえて書いていません。日本でブルー・オーシャン戦略を実施するには,意外とこの点が大事だという気がします。
 ブルー・オーシャン戦略で一番大変なのはパラダイムを変えることです。とくにノンカスタマーはわかりづらいようです。現地探査が大事だと言葉ではわかっていても,行動に移らないことがあります。メインの顧客ではないところに変えるというのは難しいようです。
 ブルー・オーシャン戦略には「再構築主義」という特徴があります。自分で市場を作って自分で独占し,業界の境界を変えるという考え方です。ただし覚醒のフェーズで,現状でも儲かることが分かったなら,あえてブルー・オーシャン戦略を行う必要はありません。自社で行っていることを戦略キャンバスで可視化するだけでも意味があると思います。
 
安部義彦氏と池上重輔氏の鼎談
安部義彦氏と池上重輔氏の鼎談
 

ご挨拶
日本マーケティング学会会長 石井淳蔵 氏(流通科学研究所所長)

 今日の研究会は,冒頭でドラッカーの話から始まりましたが,確かにドラッカーは「顧客満足」とは言っていません。ドラッカーは「顧客創造」という言葉を使っています。
 日本マーケティング学会は,現時点で会員1,800名を超えています。その大半は,アカデミックな学会の経験者ではなく,実務家の方々です。その意味では,日本マーケティング学会もノンカスタマーを集めた学会です。本日は学びの多いお話をありがとうございました。
 
日本マーケティング学会会長 石井淳蔵 氏
日本マーケティング学会会長 石井淳蔵 氏

 

第1回研究会を終えて
 第1回「マーケティングと新市場創造」研究会は『ブルー・オーシャン戦略』の第一人者である安部義彦氏をお招きしました。豊富な具体例と明快なご説明で,刊行本には書かれていない『ブルー・オーシャン戦略』の奥深い内容について,理解を深めることができました。
 さらに,安部氏と『日本のブルーオーシャン戦略』を共著された池上重輔氏の軽快なファシリテートで,ポーターの競争戦略論との関係はもちろん,バーニー他の資源ベース理論との関係,ステップ1の覚醒段階の大切さ等,会場との質疑も含めて,議論が広がりました。

 
プロジェクト・リーダー 川上智子氏
プロジェクト・リーダー 川上智子氏

 

 安部氏が強調しておられたのは,ある事例がブルー・オーシャン戦略に相当するのか否かは,戦略キャンバスやERRCグリッド等できちんと分析しなければわからないという点です。池上氏が執筆されたライフネット生命のケースから,同社の事例は,現時点ではブルー・オーシャン戦略には該当しないという点にも言及されました。
 ともすれば,日常用語として「ブルー・オーシャン」や「レッド・オーシャン」を使ってしまいますが,個別の用語ではなく,ブルー・オーシャン戦略の理論体系を実践スケジュール等も含めて正しく理解することが重要です。そのポイントがよく伝わった鼎談でした。
 私自身は,ブルー・オーシャン戦略は,マーケティングそのものとまでは行かずとも,非常に近いものと考えています。マーケティングは,潜在顧客としてのノンカスタマーを共通軸でまとめるセグメンテーションから始まるためです。現地探査はマーケティング・リサーチの手法の1つでもあります。
 マーケティングが既存のカスタマーだけを相手にするという誤解が,もし他の領域で広まっているとしたら,それは,マーケティング理論のマーケティングの失敗かもしれません。
 池上氏も言われたように,悪意からではなく誤解から,他の研究領域をあえて狭くとらえることもありがちです。しかし,それは物事の本質的な理解を遠ざけます。
 本年度は,8月6日(土)に金沢,10月16日(日)の早稲田大学における年次大会セッション,来年2月頃の神戸と計4回の研究会を予定しています。本日ご参加の皆様はもちろん,ノンカスタマーの方にも一人でも多くご参加頂き,さまざまな参加者がオープンに議論する場として,この研究会が複数のディシプリンを架橋する機会となれば,望外の喜びです。
 

文責:「マーケティングと新市場創造」リサーチ・プロジェクト リーダー
    早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所(WABOSI) 所長 川上 智子

 
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