第2回マーケティングと新市場創造研究報告会レポート「地方創生と新市場創造 ~伝統と革新のフィールドとしての金沢~」 |
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テーマ:「地方創生と新市場創造 ~伝統と革新のフィールドとしての金沢~」
日 程:2016年9月3日(土)13:00-17:00
場 所:石川四高記念館 多目的利用室2
今年4月に発足した「マーケティングと新市場創造」リサーチ・プロジェクトの第2回研究報告会が石川県金沢市で開催されました。早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所(WABOSI)との共催です。
場所は重要文化財の石川四高記念館。兼六園,21世紀美術館も目と鼻の先の好立地で,前田利家公以来,脈々と受け継がれる加賀百万石の文化と伝統が感じられる会場です。
旧制の四高(しこう)といえば,現在の東大,東北大,京大に続く名門校。文学部出身の私としては,この学舎で西田幾多郎,鈴木大拙,井上靖らが学んだと知り,その場所で今回の研究会を開催できることが感無量でした。
参加者は33名。現地と他の地域からの参加者が2:1の割合で,地方開催の意義を感じられるメンバー構成となりました。ひとえに,すべてのコーディネートを担当された本研究プロジェクト運営委員である金沢工業大学の松林賢司先生と同研究室の学生の皆様のご尽力のおかげです。ここに記して,厚く御礼申し上げます。
今回のテーマは地方創生。金沢は伝統と革新のフィールドとして,この地域ならではの多くの事業と人材を創出し続けています。以下は,研究報告2つと現地の著名企業の経営者による2つの講演についての報告です。
司会 金沢工業大学 情報フロンティア学部 経営情報学科 教授 松林 賢司 氏
解題 地方創生とブルー・オーシャン戦略 (13:00 – 13:10)
リサーチ・プロジェクト代表:早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授
早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所 所長 川上 智子 氏
ブルー・オーシャン戦略は企業のための理論という印象がありますが,国家や都市など行政にも適用されています。事例にはアジアの新興国が多く,欧州連合(EU)や北米(カリフォルニア州他),南米にも適用例があります。今日はシンガポールとマレーシアの事例について少しご紹介します。
シンガポールの経済発展は皆様ご存じのとおりですが,知識経済の強化を目的に2004年に15の省庁が参画し,ブルー・オーシャン戦略が適用され始めました。一方,現在進行形で動いているのがマレーシアです。2020年の先進国入りを目指し,公共・安全・治安・教育他の分野で,国家ブルー・オーシャン戦略(NBOS)が推進されています。
昨年8月,その定例進捗報告会が官邸で開催された際,オブザーバーとしてブルー・オーシャン戦略の著者チャン=キム教授の司会の下,各省庁がナジブ首相の前で活動を報告するのを見る機会がありました。所得水準の引き上げと幸福度の向上を同時達成する価値革新(バリュー・イノベーション)を各省庁が熱心に遂行していました。
トップダウン型の行政にブルー・オーシャン戦略が適用されるとともに,イノベーションにおける起業家の役割もブルー・オーシャン戦略では注目されています。新たに提示されたのは「ブルー・オーシャン・アントレプレナーシップ」というコンセプトです。
かつてシュムペーターは,企業による内からの創造的破壊が経済の原動力であると述べました。マレーシアにおけるNBOSの事例でも,3万社を創業させる中小企業支援プログラム,起業家支援エコシステムの創出,9万ドルの賞金のアイデア・コンテストなどの施策が見られます。
マレーシアの特徴的な点としては,約14,000人の服役者に対する社会復帰プログラムとして起業が推奨され,95%が就職・起業しているということです。刑務所内は悪事の先輩からより巧妙な悪事を学ぶという悪循環が働くそうで,この悪循環を断ち切ることが社会の安全や治安の向上につながるという発想だと聞きました。
日本では,周知のとおり,第2次安部内閣の発足とともにローカル・アベノミクスとも称される地方創生が重点戦略となりました。地方自治体による創業戦略を国が支援するというスキームの下,各種の新型補助金,政府関係機関の地方移転,特区の設置,情報・人材支援といった多面的な施策が展開されています。
なぜ地方が重要なのか。コトラー(2005)『資本主義に希望はある』に基づけば,日本のような先進国のマーケティングには,成長経済(Growth Economy) から定常経済(Steady State Economy)への移行をうながす役割があると考えられます。定常経済とは,成長を究極の目標とせず,一定規模を維持して十分な利益を獲得することを目標とする経済のことであり,それを目指すマーケティングは,ポジティブ・マーケティングと称されます。
定常経済,そしてポジティブ・マーケティングの担い手としての中心的な主体は地方であると私は考えています。今年7月,香港の国際学会で京都大学の鈴木先生,関西大学の岩本先生と3人で報告した研究では,長野県の伊那食品工業他,地域と共存共栄する企業の事例を分析しました。三方よしの考えが根付いた長期志向かつ地域密着型の日本企業は世界からも注目されています。
以上のように,ブルー・オーシャン戦略は地方創生の戦略として有望である一方,未だ日本の先行事例はありません。ブルー・オーシャン・アントレプレナーシップの重要性からも,定常経済そしてポジティブ・マーケティングの担い手としてもローカルな拠点を持つ企業の果たす役割は重要です。
今回,ここ金沢の地で,皆様とともに地元の事例について学べることは大変貴重な機会です。本日はどうぞよろしくお願い申し上げます。
解題 研究会リーダー 川上智子 氏
研究報告「DK art café:商店街活性化に向けた産学官共創の試み」(13:10 – 14:00)
金沢工業大学 情報フロンティア学部 経営情報学科 教授
早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所 招聘研究員 松林 賢司 氏
最初に自己紹介を致します。私は大阪大学の応用化学で博士号を取得し,商社に入社した後,MITと精華大学からMBAを取得しました。MBAの授業では,What’s your value?(君の価値は何か)と何度も尋ねられ,自分の価値は何かと考えた時に,グローバルな事業の立ち上げに携わってきた経験を高等教育に活かせるのではないかと思い,2年前からキャリア・チェンジして,現在は金沢工業大学で教えています。
松林研究室は「やってみる経営学」をキャッチフレーズに,経営学を実験する場として,学生に学びの機会を提供しています。その取り組みの1つとして,2016年5月,金沢市の竪町商店街に産学官共同プロジェクトのDK art caféを開店させました。
DK art caféのプロデュースは,石川県出身で,世界各国で活躍中のアーティスト長谷川章氏の手によるものです。長谷川章氏はこれまで4,000本以上のCM制作に携わったクリエーターで,中国CCTVのロゴをデザインした方としても知られています。DK art caféの店内は長谷川氏のデジタル掛け軸(3Dプロジェクション・マッピング)で彩られ,第3の空間を超えた異次元空間としての第4の空間で,日常を忘れて時を過ごせる場となっています。
金沢市の竪町商店街は,2003年には1日3万人の人が訪れていましたが,2015年には半減し,金沢工業大学も2005年頃から同商店街と一緒に活性化に取り組んできました。しかし,一時的なイベントでは盛り上がるものの,なかなか定着には至りませんでした。2016年の調査によると,飲食店稼働率も,北陸新幹線の開通でにぎわう金沢駅周辺は1日1.0~1.5であるのに対し,竪町地区は0.3~0.7という状況です。
その一方で,竪町商店街の立地を考えると,徒歩圏内には観光客に人気の金沢21世紀美術館があり,2015年には年間237万人が訪れています。そこで,欧米では存在する「お酒の飲める美術館」というコンセプトで,地元アーティストの芸術空間を楽しむ新業態としての夜カフェをオープンしました。地元のコンテンツのプラットフォームとして,地元のブランド飲料や一流食材を提供しています。
ブルー・オーシャン戦略のERRCグリットで分析すると次のようになります。まず,豪華なインテリアや食器を除去し(Eliminate),サービス人員や定番の飲料・食材,昼の営業時間やアクセスの利便性を減少させました(Reduce)。一方,夜は長めに営業し,地元文化との親和性を高め,素材の質の良さも増大させています(Raise)。さらに万華鏡のようなアート空間と地元ブランドの飲料や食材を提供する点が新たに創造されました(Create)。これを戦略キャンバスに描いたものが図1です。
このDK art caféの取組みは産学官の共創プロジェクトです。学内では建築系の研究室や産学連携室,官としては石川県産業創出支援機構や金沢市,竪町商店街振興会,そして多数の地元企業や大手メーカーとのパートナーシップの下で推進されています。
そのユニークな取組みはメディアにも注目され,5月の開店以来,地元のニュースやテレビ番組の特集で多数取り上げられました。北陸新幹線の情報誌である西Naviを始めとする雑誌媒体への掲載他,デジタル・インバウンドのためのサイトやCGMの充実,ポスティングや街頭チラシなど,多面的なプロモーション活動も行っています。
今後の目標は,第3の空間であるスターバックスの国内約1,200店舗を目標に,石川県発の新業態として2017年度の単年度黒字化,およびフランチャイズ化を視野に入れた2020年に向けての成長戦略の実行です。
図1:DK art caféの戦略キャンバス
第1報告 松林賢司 氏
講演1「メロンパンアイスと地方不動産賃貸業の事例紹介」(14:10 – 15:00)
株式会社グランタス(世界で2番めにおいしいメロンパンアイス)
株式会社シナジーコンサルティング 代表取締役社長 河上 伸之輔 氏
私は今までいろいろなことに挑戦してきました。1つの事業に大きく投資をするのは危険です。失敗しない事業の作り方は,アイデアをだし,仮説を作って分析し,企画したら小さく投資して試してみて,市場の評価を得たものへの投資を徐々に大きくしていくことです。
世界で2番めにおいしい焼きたてメロンパンアイスという,この長い店名もそうでした。「焼き立て」「サクサク」といったキーワードをお客さんに見せたら,「世界で2番目」という言葉の評判が一番良かったので,この店名にしました。
メロンパンアイスは,社員同士の雑談から生まれたアイデアです。ある女子高生がアイスクリームをメロンパンに挟んで食べたら,その学校で大ブームになったという話でした。それで調べてみると,コメダ珈琲のデニッシュの上にソフトクリームを載せたシロノワールや,コッペパンをあげて真ん中にソフトクリームを入れたアイスドッグのように,温かいパンと冷たいアイスの組合せが流行っていることがわかりました。
それで,最初に移動販売でスタートさせました。2013年5月に能美市の九谷茶碗祭に3日間,テントを張って出店しました。その時に,おもしろいことに気づきました。1日目と2日目に買ってくれたお客さんが3日目にものすごくリピートしてくれたのです。これに気づいて,常設店舗を出そうと決意しました。売上が大きくても,リピートがいなかったら,移動販売のままだったと思います。
3か月後の8月に現在の本店である広阪店をオープンしました。当時は多店舗展開することは考えていませんでしたが,女子高生が火付け役になり大行列ができたので,2店舗目を出店することにしました。10月には出店していますから,投資は小さいのですが,市場からの評価に対する決断は非常に早いと思っています。
2014年に南条SA店を出して,金沢の店舗も冬場は赤字でしたが,2014年4月12日の日曜日,お花見シーズンで過去最高売上を記録しました。この瞬間,他地域への多店舗展開を決意しました。2014年7月に土地勘のある京都の新京極に出店し,メディアからも注目されるようになりました。全国区になると模倣されるのではと心配になり,取材日に,その足で東京に物件探しに行きました。その場面も放送されていました。現在,全国で50店舗を展開しています。
2014年9月にはフランチャイズ展開も始め,今年8月,海外で初めて台湾に出店しました。そして2日前の9月1日,私は社長を辞任しました。起業家と投資家の2つの顔を持つ自分よりも,立ち上げからメロンパンアイスに熱意を注いできた現社長に任せた方が良いという判断からです。
ところで,今回のテーマはブルー・オーシャン戦略ですが,スイーツ業界は競争が激しいので,メロンパンアイスはブルー・オーシャンとは言えないのではないかと思い,もう1つ事例を持ってきました。それは地方の不動産賃貸業です。
地方の不動産賃貸業は,世の中に物件は余っているのに対し,借入の金利が低い業界であり,競争もさほど激しくないので,やり方次第で独占的な地位を築くことが可能です。
たとえば,金沢工業大学の近くにある物件は,50室の空室があり,1部屋15,000円で募集しても埋まっていない状況でした。そこで私はネット回線を引いてWiFi無料のチラシを作り,1室18,000円で貸し出す戦略を採りました。
さらに,金沢工大には建築学科があるので,学生たちに10万円渡すから好きなように改装していいよと言って貸したら,おしゃれなペイントをしたり,棚を作ったり,コンクリートむき出しのままにしたりと,個性あふれる物件になりました。挑戦する人を応援したい,チャレンジの場を提供したいという想いが,現在の私の事業活動の原点です。
講演1 河上伸之輔 氏
「芝寿しの伝統と革新」(15:10 – 16:00)
株式会社芝寿し 取締役 梶谷 眞理 氏
なぜ私にブルー・オーシャン戦略の講演依頼が来たのだろうと考えていました。そして気が付きました。芝寿しの創業者は,まさにブルー・オーシャンを作り上げた人なのです。創業者は,起業して軌道に乗るまで,10回もの転職を繰り返しました。縁あって創業の地,片町に東芝のショールームを2年の契約でオープンしました。
その頃,日本で初めての電気炊飯釜が発売されました。でも,当時は槇やコンロやプロパンガスでご飯を炊いていた時代です。炊飯釜にはだれも見向きもしませんでした。そこで,どうしたら興味を持ってもらえるか,アイデアを絞り,実際に店頭でご飯を炊き,それをお客様に食べて頂きました。又,興味を持たれたお客様に無償で貸し出し,気に入ったら買って下さいと言ったら,なんと一か月で120台を売って日本一になったそうです。他店は多くても数十台だったようで,東芝から表彰されたと聞いています。
しかし,1日6回の炊飯実験の結果,炊いたご飯が毎日余ります。戦後の食糧難を体験している創業者は堪りません。知恵を絞った末に,余ったご飯でお寿司を作り,店頭で売り始めました。やがて,だんだんとお客様が増えて売れるようになったので,電気屋から寿司屋に転業しました。その時の屋号は東芝寿司でしたが,東芝という名前は使えませんから,東を取って「芝寿し」という現在の屋号になりました。
金沢には昔から押し寿司の文化がありましたが,お祭りの時しか作らないものでした。その祭り寿司を日常の生活で頂くものに変えたことが,芝寿しの今につながっています。
今,芝寿しの基幹商品は「笹寿し」です。売上の約3割を占めています。創業者は信心深い方で,加賀一の宮の白山比め神社のお朔日参りを創業以来欠かしたことがありません。
ある時,その帰り道,生笹で包んだ笹餅を商店街で買いました。2~3日後に見てみると,笹で包んでないところはカビが生えていました。そこから研究が始まりました。そして,笹の防腐効果を生かし,餅を寿司に変えて「笹寿し」という基幹商品が誕生したのです。最初は紅鮭と小鯛の2品からスタートしました。1973年のことです。
創業者は研究熱心で,いろいろな所で講演を依頼されて出張すると,必ずその地のデパートに立ち寄り,参考になりそうなお寿司やお弁当を買って帰られました。何がお客様に喜ばれるかをいつも考えておられた方でした。「店はお客様のためにある。利益は後からついてくる」というのが口癖でした。この考え方は,昭和23年に商業界ゼミナールを立ち上げ,正しい商人道を説かれた倉本長治主幹の教えでした。
創業者はPHPの勉強会に参加した際,松下幸之助翁の「雨の日には傘を・・」という講話を聞いて「雨天中止」というサービスを考え付かれました。商いとはお客様が欲しいものを欲しい時に売るものだと感じたそうです。会社に戻ってすぐに,当時の専務(現会長)に「雨が降ったら,当日の予約のキャンセルを受けたらどうか」と提案されました。
当時から,土日祭日の予約は多い時で平日の10倍にもなります。運動会や野外での行事などは雨が降ったら中止になり,お弁当も必要なくなります。お客様の不便の解消とはいえ,実際に実行する時は「言うは易し,行うは難し」でした。しかし,やることに決定して今に至ります。現会長は,雲行きが怪しい時は,ほとんど寝ずに物言わぬ空とにらめっこをしていました。一晩で数百万の売上が消えます。作った商品はすべて廃棄されます。損を覚悟の経営です。
世の中の変化は年々早くなっています。変化の先取りは非常に大切です。伊勢の赤福のお朔日餅にヒントを得た「お朔日弁当」,プレミアム笹寿しの完成,冷凍寿しの研究開発,継続する限り,課題は際限なく出てきます。
山ほどある店の中から当社を選んできてくださるお客様が,満足される商品,価格,サービス等を提供し続けることしか,永続への道はありません。創業者の想いを,理念をしっかりと守り,伝え,感謝の念を大切に,今後も商いをして参ります。
講演2 梶谷真理 氏
総括
日本マーケティング学会会長、流通科学大学 教授 石井 淳蔵 氏
金沢は7~8年前に来て以来で,その変貌に驚きました。2008年に流通科学大学の学長になり,金沢工大に話を聞きに行き,本当に素晴らしい大学で,初年次教育,修学ポートフォリオ,社会連携といわば,新しい大学の三本柱が揃っていました。こういう大学を作りたいと思いました。今日は,社会連携の活動を目のあたりにさせて頂くことになりました。
さて,今日のお三方のご報告を聞いて,参加された皆さんは気持ちがずいぶんと前向きになられたことと思います。このような場で学べる学生さんも,きっといろいろなことが腑に落ちて,吸収できておられることでしょう。
ローカルなブランドの持つ特徴もよくわかりました。P&Gやコカコーラや花王のようなブランド,ローカルなブランドは作り方がまるで違います。湯布院で昔,聞いた話を思い出しました。2つあります。
湯布院で町づくりの参考になるドイツの温泉を見学に行くことになった時,1つ条件があったそうです。それは,視察には必ず子供たちを連れて行くということでした。1ドル360円の時代のことです。次の世代にも引き継ぐことが不可欠だと思っておられたのでしょう。もう一つの特徴は,地域の人たちとウィンウィンの関係をつくりながら湯布院ブランドを立ち上げようとされたことです。
今日のお話の中にも,そうした息吹をいろいろと感じることができました。
総括 石井淳蔵 氏
研究会の終了後,松林先生が紹介されたDK art caféで懇親会が開催されました。ご講演者から,おそうざいメロンパン,プレミアム笹寿司も提供され,金沢の食材を楽しみながら,歓談と議論が続きました。
DK art café における懇親会の様子
第2回研究会を終えて
地方創生というテーマにふさわしく,今回は金沢での開催でした。特にお願いしたわけではなかったのですが,ご登壇者は皆様,ブルー・オーシャン戦略という切り口で自身のお取り組みを分析されていました。実務や実践で使える理論か否かを検証するという意味では,これ以上の理論の使われ方はないと感じた次第です。
ただしその結果,新市場創造の現実は,ブルー・オーシャン戦略だけでは十分にとらえられないことも見えてきました。松林先生の産学官連携のオープン・イノベーション,河上氏のリーン・スタートアップも視点として重要です。そして10年どころか創業60年,競争の激しい寿司業界で新市場を創造した芝寿しの梶谷氏のお話からは,ファミリービジネスの意義と事業承継の重要性も示唆されました。
短期的には,よりアジルなブルー・オーシャン戦略のあり方,逆に超長期的には,定常経済を目指すブルー・オーシャン戦略といったように,興味深い研究視点も発見することができたように思います。末筆ながら,ご登壇者の皆様,コーディネータの松林先生,そしてご参加下さった皆様に,あらためて心より御礼申し上げます。どうもありがとうございました。
文責:「マーケティングと新市場創造」リサーチ・プロジェクト リーダー
早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所(WABOSI) 所長 川上 智子