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研究報告会レポート

第2回スポーツマーケティング研究報告会
(春のリサプロ祭り)レポート
「スポーツマーケティングの理論と実際」

第2回 スポーツマーケティング研究報告会(春のリサプロ祭り) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「スポーツマーケティングの理論と実際」
日 程:2017年3月18日14:45-16:15
場 所:中央大学ビジネススクール(中央大学後楽園キャンパス 3号館 11階)
 

【報告会レポート】
1. 「スポーツマーケティングの意義と特性」~何故、世界のスポンサーマネーの7割がスポーツに使われるのか~
  原田 宗彦(早稲田大学スポーツ科学学術院 教授)

原田宗彦 日本のスポーツ産業は米国に比べると小規模である。それは、我が国において「体育」から「スポーツ」への脱皮が進まなかったこと、そしてプロスポーツといえば企業プロスポーツ(実業団リーグ)という時代が長く続いたこと等が一因として挙げられよう。実際に、北米におけるスポンサーマネーの内、実に7割ものお金がスポーツに使われるとの予測(2017年予測)も出てきており、日本との規模感の違いがよく分かる。
 では何故、スポーツはそこまで人々を惹きつけるのか。スポーツは経験を伴い、常に予測が不可能なため、感情の振れ幅が大きいと考えられているが、その点に企業が着目していることは言うまでもない。また、スポーツは誰にとっても分かり易いセグメントフリーのコンテンツであることも特徴の一つである。教育的なバックグラウンドやLGBT、所得等関係なく楽しめるという意味では、感情面での訴求力は非常に大きい。そして、忘れてはならないのは、スポーツは仲間とともに共感する「遊び(レジャー)」であるということである。一般的に商学部で扱われる“マーケティング”と“スポーツマーケティング”の違いを理解する上では「遊び(レジャー)」とは何かについて考えることが必要不可欠ある。なぜなら、売り物の本質を知らずに、スポーツマーケティングを語ることはできないからである。
 スポーツマーケティングは「するスポーツ」と「見るスポーツ」で生起するスポーツ消費者のニーズと欲求を満たすために行われるすべての活動と定義されるが、さらに領域を整理すると以下二つに大別される。スポーツ用品やスポーツサービスの価値を高めるマーケティング=スポーツのためのマーケティングと、スポーツを利用して製品やサービスの広告価値を高めるマーケティング=スポーツを利用したマーケティングである。例えば、プロスポーツチームの経営にまつわるファンサーベイ(Jリーグ観戦者調査等)は、スポーツのためのマーケティングであるし、スポーツを触媒とした都市戦略や街づくり(横浜ベイスターズが行う横浜スポーツタウン構想等)や実業団チームによる企業イメージの向上(Panasonicがラグビーを活用したタフパッドの販促等)はスポーツを利用したマーケティングに該当する。
 経営学でよく引用されるSEDAモデルでスポーツマーケティングを整理すると、スポーツプロダクトの中核要素をなすパフォーマンスは自らの哲学や信念を表現する「アートの領域」に位置付けられる。また、スポーツプロダクトの拡大要素であるチームマネジメントやべニューマネジメント等は「デザインやエンジニアリングの領域」に、今後さらなる拡張要素として活用が期待されるビッグデータ、IoT、SNS等は「サイエンスの領域」に位置付けられる(図1、図2ご参照)。デジタルプラットフォームを起点にスタジアムの内外、マッチデイの有無に関わらず、ファンとつながる仕組みをつくる「サイエンス」の役割は、CRMの観点からこれから益々重要になるであろう。
 パフォーム社のおかげで放送権料が急上昇したJリーグは「DAZN(ダ・ゾーン)」によって、放送から通信へビューイングデバイスの革命的変化を起こしたと言える。国内において通信の放送権料を獲得したのはダ・ゾーンが初めてであり、消費者行動的には非常に興味深い現象である。こうした現象は、まさに「サイエンス」によって経験価値の「エンジニアリング」が起こった好事例であるといえる。
 
図1
図1
 
図2
図2
 

2. 「スポーツプロダクトの多様性と広がり」~モノとコトの価値を高めるマーケティング~
  藤本 淳也(大阪体育大学 教授)

藤本淳也 一般的な“マーケティング”と“スポーツマーケティング”の大きな違いは、扱う「顧客」や「プロダクト」にある。Sport MarketingをSport+Marketingと捉えた場合には「Sport(=スポーツ製品、スポーツイベント、スポーツ空間、スポー選手・チーム・リーグ等)って何?」からディスカッションする必要があるし、Sport Market+ingと捉えた場合には、「Sport Market(=スポーツ市場、スポーツ消費者、スポーツ消費者セグメント)って何?」をディスカッションする必要がある。スポーツマーケティングに対する理解を深めるには、誰(Sport Market)に、何(Sport Products & Services)を提供するのか、について考えることが重要である。
 ここでは、スポーツプロダクト・サービスの特性について考えたい。はじめに、最も重要な特性として挙げられるのが、①スポーツには勝ち負けがあり、順位がつくということである。劇団四季等のアートを見に行くのとスポーツを見に行くのでは、スポーツは「筋書きのないドラマ」があり、「明確に勝敗が別れる」という点でアートとは決定的に違う。アートのストーリーが毎回変わってしまうようでは、その作品の信頼性は著しく低下する。そのため観客は純粋に鑑賞を楽しむことができず、ストーリーへの共感が生まれにくくなる。一方で、スポーツはプロセスと結果を楽しむものであり、そこから共感が生みだされ感情が揺れるのである。ここまで感情が揺れる商品はスポーツ以外には見当たらないのではないだろうか。次に、②ブランド毎に強い・弱いというイメージが存在することである。試合の勝ち負けがチームのブランド、選手のブランドに大きく影響していることは想像に難くない。さらに、③スポーツ消費者への依存度が高いことである。スポーツ消費者は、自身によって「経験価値」を創りだすという点である。マラソン大会を例に挙げると、わざわざ参加費を払って走っている出場者自身がその大会の雰囲気をつくり、その参加者たちを見ることで、自分も走りたいと思う人たちが出てくる。つまり、スポーツ消費者の「経験」そのものが、新たな消費者を生み出すという構造が出来ているわけである。最後の特性は、④スポーツは「公共性」と「公益性」を有しているという点である。例えばJリーグクラブへのアイデンティティが高いほど、地元行政に対する理解度と評価が高いという調査結果がある。行政側もクラブを支援した方が住民の行政サービスへの理解やサポートを得やすくなる、と考えることもできる。これは、スポーツが広く社会一般への利益や利害に関係していることを表している。
 ここからは、スポーツプロダクト・サービスの特性を「モノ」としての価値、「コト」としての価値という側面でみていく。まず、「モノ」消費とは、所有に重きを置いて物品を買うことである。好きなスポーツブランドの、シューズやウェア、健康器具や、好きなリーグやチーム、選手のロゴ入りのグッズの購入である。手に入れることを目的とした消費である。「コト」消費とは、体験や思い出、人間関係に価値を見いだしてお金を使うことである。スポーツの試合観戦、ファンイベントへの参加という間接的なものから、自らがアスリートとしてスポーツイベントに参加するといったような、多様性ある消費行動である。当然、この「モノ」と「コト」は相乗効果があり、ふたつを掛け合わせることで、より深くなるとともに、新しい消費価値を生み出すことができる。最近では、カープ女子の出現・活躍による新しい展開や、ホラーイベントを組み入れた鹿島スタジアムの企画などが登場している。
今後、さらに多様化し拡張していく、スポーツプロダクトとスポーツ消費者に注目していきたい。
 
3. 「スポーツ消費者の心理と行動」~スポーツをする人・見る人が、一般消費者と異なるわけとは~
  松岡 宏高(早稲田大学スポーツ科学学術院 教授)

松岡宏高 スポーツ消費者は、一般消費者とは異なる特性を持っている。はじめにスポーツ消費者を「スポーツをする人」と「スポーツを見る人」の二つに大別し、その動機と求める便益の多様性について考えてみたい。
 「スポーツをする人」は身体的便益だけではなく、その先に心理的・社会的便益も見据えている。それは、仕事終わりですぐに飲みに行く人と、すぐにフィットネスクラブへ行く人ではどちらが他者からより良く見られるか、といったことを考えてみても分かり易い。「スポーツをする」という行為の本質的価値は本来身体を動かすことにあるはずだが、その手段的価値としてはライフスタイルの改善、さらにはセルフイメージの向上といったところにまで波及していく。
 一方で「スポーツを見る人」は、目の前で繰り広げられる卓越したパフォーマンス、予測不能な試合展開から生み出されるドラマ性、そしてチームや選手の成功によって得られる達成感等を本質的価値と感じている。しかし、フィールド外の事象から享受できる便益も確かに存在する。先行研究(本間・松岡, 2016)を紐解けば、スポーツ観戦による日常からの逃避、そして仲間との交流や楽しい時間の共有がスポーツ消費者の手段的価値になり得ることが分かる。マーケッターが「スポーツを見る人」の本質的価値(スポーツそのものに直接関わる本質的なニーズ)をコントロールすることは非常に困難であるが、その手段的価値(スポーツに直接関わりがない手段的ニーズ)を満たすことはできる。近年、ファンサービスの一環として多様なニーズに応える野球スタジアムが生まれているのもそのためであろう。例えば、米国のスタジアムでは試合中にも関わらず、特設グラウンドでベースランニングに興じる子供達の姿があるし、広島のスタジアムでは寝そべりつつ飲み食いし、試合観戦する大人の姿が見られる。もはや、野球を見るのがメインなのか、遊んだり、飲んだりすることがメインなのか判断がつかないが、いずれも本質的な便益でない部分で顧客のニーズを満たしている好事例だといえる。
 次にスポーツ消費者の特性、とりわけスポーツファンの特性について考えてみたい。一般的には「製品・サービスの質が低い」→「不満」→「もう買わない、もう行かない」という消費行動を辿るはずである。こうした消費行動を、スポーツに当てはめた場合「負け試合・ミスが多く試合のレベルが低い」→「不満」→「もう見に行かない」となるはずが、スポーツファンの中には「それでも、また見に行く」という不思議な消費行動を起こすことであると知られている。そのブラックボックスには、スポーツファンのチームに対する心理的コミットメントが関係していると考えられる。先行研究では、チームアイデンティフィケーション(同一意識)が高い観戦者は、試合満足度の高低に関係なく一定して再観戦意図が高いが、アイデンティフィケーションが低い観戦者の再観戦意図は試合満足度の高低に左右される(Matsuoka et al., 2003)ことが明らかになっている。
 また、スポーツファンのユニークな行動として、バーギングとコーフィングがある。バーギングは成功している他者との関係を強めようとする習性で、コーフィングは失敗している他者から離れようとする習性である。この両方の習性をスポーツファンは顕著に持ち合わせている(Cialdini et al., 1976)。お気に入りのチームが勝ったときには周囲に対してファンであることをアピールし、チームを利用して自己を高める(バーギング:We won)。反対に、負けたときにはファンであることを表現せず、チームから離れることによって自己イメージの低下を防ぐという行動をとる(コーフィング:They lost)。スポーツファンの消費行動を分析するにあたっては、上記の心理的コミットメントだけではなく、その他変数(例えば観戦動機、観戦経験、スポーツ経験等)も影響を及ぼすものと想定されるため、今後さらに議論の余地がある。

 
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