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研究報告会レポート

第5回スポーツマーケティング研究報告会レポート「テクノロジーとスポーツマーケティング」

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テーマ:「テクノロジーとスポーツマーケティング」
日 程:2018年3月23日(金)19:00-21:00
場 所:早稲田大学 早稲田キャンパス3号館602教室
 

【報告会レポート】

1. テクノロジーとスポーツマーケティング(趣旨説明)
早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授 原田 宗彦 氏

原田氏 テクノロジーを使うことによって、スポーツはさらに進化する。その恩恵を受けるのは、競技者、観戦者、消費者等、ひじょうに幅が広い。また、スポーツデータなどの蓄積によって進化したテクノロジーが、さらにスポーツを良くするために使われる。このようにスポーツとテクノロジーは好循環していく。
 平昌五輪の開会式で、インテルはギネス記録となった1218台の“Shooting Star”(ドローン)による光のショーを実現させた。その他にも、インテルとKTそしてサムソンが連携し様々な5Gテクノロジーを展示した。平昌五輪はまさに「5G五輪」と呼ぶことができる。
 スポーツとITは、新たな観戦経験を提供する。最新デジタル技術を活用した新たな観戦スタイルとして、多視点ロボットカメラによる立体的な映像表現や、選手のパフォーマンスやスタッツをリアルタイムで楽しむことができるスポーツ映像の提供などが考えられる。またデータ分析によって、スポーツに対する理解が進み、技の見える化が進む。例えば、映像技術を活用した効果的なトレーニング、高度化・複雑化した技の判定の容易化・時間短縮化、リアルタイムでの指示・戦略確認への活用。審判の採点支援システムの3Dレーザーセンサーなどである。
 アメリカではデータのビジュアル化、コンディション管理、傷病予防、パフォーマンス分析、身体データ解析、トラッキングデータ分析、チケッティング、スケジュール管理などのスポーツとテクノロジーに関連する様々なシステムやサービスが急成長を遂げる。これについては、スポーツアナリティクスコンファレンス(SAC)がある。SACは2007年の175名参加者から2017年の3500名に急増した。スポーツにおけるデータ分析がメインテーマで、ファン・エンゲージメント、ハードのテクノロジー、大学スポーツ、チーム強化、ファンタジースポーツ、eSportsなどの関連トピックがある。また、ジョブマッチング、ベンチャー投資、プロモーション、商談会などのMICE機能も持っている。
 最後に、キャズムとハイプサイクルの二つの理論を紹介した。現在、新しいテクノロジーの運用や新しい商品、技術が話題になっているが、実際将来にどこまで発展するか、注目したい。

 

2. AI活⽤によるスポーツマーケティングの⾰新
日本IBM GBS SPORTS Initiative 担当部⻑ 岡田 明 氏

岡田氏 AIの主要機能として自然言語処理と映像処理がある。AIを活用したIBMスポーツの事例として、スポーツコンテンツの作成が紹介された。まずあらかじめアナウンサー、観客、プレイヤーのエキサイティングする場面を学習してある。そして、アナウンサーが言っていること、観客のアクション、プレイヤーのアクションを理解することによって、喜んでいたり、エキサイティングなシーンを検出し、コンテンツを自動的に作る。このようなコンテンツをすぐにホームページやSNSを通してオーディエンスに届ける。
 IBMとスポーツといえば、IBMはグランドスラムのスポンサーシップを25年間やっていた。デジタルテクノロジーを入れたり、分析したり、新しいサービスを作っていた。昨年のUS Openの事例を映像で紹介した。具体的には、始める時にサーブを、終わる時にアナウンサー、観客とプレイヤーの反応を認識し、自動的に切り取ってハイライト動画を編集する。今のAIのテクノロジーは進歩している。例えば動画をAIに見せたら、画像の中に要素やコンテキストを自動的にタグ付けし抽出できる。他社の事例としては、San Francisco 49ersが30sec.ioというAIを活用した事例を紹介した。
 AIを利用し画像や映像の編集などの事例に加えて、言葉やテキストの抽出など技術の活用事例も紹介された。例えば、ウィンブルドンの2週間の開催期間でのデジタル上のウィンブルドンに対する発言をデータ化し、AIを使って解析した。これによって、グローバル配信コンテンツの意思決定に活用した。同じように、イベント会場でのファンの声をリアルタイムに可視化し、会場の運営にも活用した。
 マーケティング領域でどのようにAIを活用しているのかを集計した結果、チャットボットとして一番使われている。業界別に見るとメディア業界で多く使われている。IBM自体もWatsonというAIを使いメディアプランニングの最適化をしている。
 IBM Sportsは観るスポーツに力を入れ、「Fan Engagement」、「Team Performance」と「Stadium Optimization」の三つの場面を分類し活動している。そのうちAIを活用した場面は「Fan Engagement」が多い。
 次にアトランタにあるMercedes-Benzスタジアムの事例を紹介した。Mercedes-Benzスタジアムは7万1000人ぐらいのスタジアムであり、天井に巨大な4Kのディスプレー設置されており、NFLのアトランタ・ファルコンズとMLSのアトランタ・ユナイテッドFCの本拠地である。リアルタイム性を持った体験を実現するためにいろいろなIT技術を導入している。また、都市計画とも連動している。
 最後にシンガポールにあるタンピネスのスポーツホールの事例を紹介した。タンピネスのスポーツホールは複合型、世界の最先端の設備である。5000人のスタジアム、アリーナ、商業施設や市民向けのサービスセンターなどが中にある。地域住民に一万円付きのタンピネスハブのカードを配り、積極的に利用させる。このカードを利用しジムに行くと、トレニングデータが記録される、そして監視カメラでの顔認識でホール内の行動データも取られる。データの分析によって、もっといいプログラムを住民に提供する。
 データは今後どんどん貯まっていき、データの質と量が今後のビジネスの勝負を決める大きな要因になる。そして、最後に今後デジタルからリアルを含めた体験デザインが重要になる。AIはこの中で一つの入り口にすぎないが、結果データをいかに活用するかが重要である。
 

3. ファン・エクスペリエンスの構造とテクノロジーによる拡張
法政大学 スポーツ健康学部 准教授 吉田 政幸 氏

吉田氏 ファンはFanatic(熱狂的)な愛好者である(原田,2015)。スポーツファンは特定の種目、選手,チームなどに対して心理的な愛着を形成し,継続的に支援する者であり、成績不振や環境の変化などの影響を乗り越えてスポーツ関連の対象と結びつく(中澤・吉田,2015)。Huntら(1999)によると、ファンは環境的要因の影響を受けるファンと環境的要因の影響をあまり受けないファンに分類できる。さらに、環境的要因の影響を受けるファンには、一時的ファンと地元ファンを含む。環境的要因の影響をあまり受けないファンには、献身的ファン、熱狂的ファンと攻撃的ファンを含む。
 チームスポーツのファンの愛着を説明する概念の中で、チーム・アイデンティフィケーションが一番重要な概念の一つである。チーム・アイデンティフィケーションはスポーツチームと自己を重ね合わせた心理状態であり、チームスポーツにおける集団成員性である。自己をファンとして認識する事で、社会の中で自分の位置づけを自覚するとともに、自尊感情を高めている、またチームと同じ運命をともにするほどの共同体意識を形成する。
 次はファン・エクスペリエンスの概念を紹介する。ファンの経験はタッチポイントとの接触という意味の経験、プロダクトとしての経験とファンの反応としての経験がある。この三種類の経験はタッチポイントからファンの反応まで三段階で流れて行く。また、マーケティング研究においでは、ブランド・エクスペリエンス(Brakus et al., 2009)という概念があり、知覚、感情、行動、知性の四つの要素に構成されている。
 テクノロジーの活用がスポーツマーケティングの際に非常に重要である。まず、技術革新は新しい価値の創造、収益の増加、組織的成長に欠かせない。そして、情報検索、マッチング、カスタマイゼーションなどを通じてニーズ充足の度合いを高め、顧客満足につながる。また、ソーシャルメディアに代表されるeクチコミはますます重要になる。最後に、ファンによるスポーツ界への新しい貢献の形につながる。もともとチーム、ファン、選手・監督・フロントスタッフはトライアングルの関係を持っている。チームがファンに対してエクスターナルなマーケティングを行い、選手・監督・フロントスタッフとファンはインタラクティブなマーケティング、そしてチームと選手・監督・フロントスタッフはインターナルなマーケティングの形でつながっている。テクノロジーによって、このトライアングルが拡張する。チームとファンの間ではテクノロジーを通じた購買・消費、価値共創、ファン・エンゲージメントを実現できる。チームと選手・監督・フロントスタッフの間ではテクノロジーを用いたマーケット・リサーチの実施やマーケティング政策のデジタル化、スマートスタジアム化が実現できる。最後に、選手・監督・フロントスタッフとファンの間ではテクノロジーによる顧客データの活用、ICTを用いた双方向のコミュニケーションまたスマートスタジアムを活用したサービスを提供できる。 
ファンとテクノロジーの関係を考えるとき、価値共創は重要な概念の一つである。価値共創(Ranjan & Read, 2016)は協同生産と使用価値の二つの大きな要素に構成される。価値共創が起こると顧客満足が高まり、さらにファンロイヤルティにつながる。ロイヤルティよりもっとレベル高い心理状態はエンゲージメントである。ファン・エンゲージメントは商業的交換を超えた非商業的交換の中でスポーツ組織の成長に貢献するために行う役割外行動、例えば運営協力、向社会的行動、成績に対する寛容な姿勢などが起こる。
 次はスポーツプロダクトの構造とテクノロジーの関係性を述べる。今までのスポーツプロダクトは試合というコアプロダクトとサービスの二次元で説明されているが、テクノロジーによって、リアルとバーチャル、現在と過去、人間の能力で感じ取れるものとテクノロジーでないと捉えられないもののような三次元になる。
 コアプロダクトと周辺的サービスが消費者に与える影響を考える際、精緻化見込みモデル(Patty, Cacioppo, & Schumann, 1983)が有効である。スポーツファンにとって、試合が中心的なプロダクトであり、その周辺に飲食サービスや、グッズがある。中心的なルートから情報処理できる人に献身的、熱狂的なファンが多く、一方で一時的なファンは周辺的なルートからしか情報処理できない。すなわち、スポーツ関与が高い人は中心的ルールから情報処理し、関与が低い人は周辺的ルートから情報処理する。これらの二つのルートの情報処理が消費者の態度変容や行動変容に影響するが、テクノロジー自体は試合ではないため、周辺的ルートでの情報処理に該当する。
 スポーツ観戦の場合、テクノロジーはエンターテインメント性の向上に寄与しているが、そもそもエンターテインメントとは受動的な喜びである(Holbrook, 1994)。受動的な消費体験を能動的なエンゲージメントやロイヤルティに結びつけるためにはその間に存在する媒介変数を明らかにする必要があり、その要因こそがチーム・アイデンティフィケーションである。
 チーム・アイデンティフィケーションの理論的根拠は社会的アイデンティティである。社会的アイデンティティ理論とテクノロジーの関係性については、テクノロジーを通じたチーム・アイデンティフィケーションの向上が支援的行動につながることと理解できる。チームIDを高めるためにはチームの評判、チームの独自性、チームと自己の類似性を高めなければいけない。テクノロジーがエンターテインメントやファン・エクスペリエンス、ブランディングなどを高めることによってチームIDに影響できると考えられる。
 最後に、テクノロジーを巡る変化をまとめる。以前は異なるエンカウンターで別々に対応していたが、今日テクノロジーによって異なるエンカウンターの経験を統合することがきる。これまでテクノロジーは観戦を円滑にするためのサービスの一環であったが、現在は観戦経験やアイデンティティの意味を認識するためのコミュニケーションの一環になっている。さらに、快適性や利便性の向上による顧客満足を獲得していた伝統的なマーケティングと異なり、今では過去、個人と地域、リアルとバーチャルを結びつけ、受動的なファンを能動的なファンに変えるエンゲージメント・マーケティングへと変化してきている。   

 

4. スポーツ競技団体におけるCRMサービス開発:Jリーグ公式アプリ”ClubJ.LEAGUE”の事例から
電通 ビジネスD&A局 マーケティング・マネージャー 渡邉 典文 氏

渡邉氏1.日本のスポーツ業界には今デジタルマーケティングが求められている。

 世界的にスポーツビジネスは拡大している。放映権の拡大や、グローバルマーケットの広がりや、広告価値の拡大などが示されている。この背景の中でJリーグ自体のマーケット規模も拡大しているが、グローバル視点で見ると規模が小さいと言える。Jリーグのロイヤリティ別観戦回数の調査によると、4.2%の顧客が81.3%の観戦回数を作り上げており、コアファンに偏っていることが明らかになっており、マーケティング的な課題であると言える。また、Jリーグスタジアム観戦者調査によると、2回目、3回目観戦しに行く人が非常に少ない結果になっている。この現状を改善するためには潜在ファンを最初の観戦に導く仕組みができていない、折角観戦したトライアルファンがリピーターとして定着していかない、リピーターへのおもてなし・体験向上ができていないなどの問題を解決しなければいけない。具体的な戦略としては、ファンの行動をデータ化しやすいスマートフォンアプリをJリーグとファンとの継続的な接点として強化し、Jリーグを支えるコアファン・リピーターに使い続けてもらうサービスを実現する、そしてマニア・熱狂・コアファンを起点にして、ライトファン・Jリーグ興味層をスタジアム観戦へと導く。

 また、Jリーグは各デジタルサービスをパートナーと共にサービス提供するJリーグID戦略も展開している、
2.デジタルでファンの熱量を捉え、「誘い誘われ」を誘発する。

 スタジアム観戦には「誘われない限り、行かない」という現状がある。そのため、Jリーグ公式アプリClub J.LEAGUEではリピート観戦したくなるプログラムと「誘い誘われ」を誘発する仕組みを作っている。例えば、リピーターがアプリからペアチケットをもらって、潜在ファンをスタジアム観戦に誘う、潜在ファンが誘われから始まり、Jリーグと接点を持つうちにリピーターへと成長する仕組みを作った(明治安田生命Jリーグチャレンジ)。そして、実際のアプリの中の画面や全体像を見せながら、機能を紹介した。具体的には、コアファンを起点にライトファンを定着する仕組みのプロセスとして、友人であるコアファンからペアチケット権利が贈られ、Club J.LEAGUEをダウンロードし興味があるJリーグの試合を決め、はじめて観戦する。そして挟間の時間を楽しんで、観戦が習慣かし、最終的にコアファンになる。このプロセスの中で、アプリでスタジアムチェックインしたり、メダルを貯めてJチャレに挑戦したり、ニュース読んだりして、コアファンに向けたプロセスの進行を促進する。
 Club J.LEAGUEはAppStoreのスポーツのカテゴリーで2017年8月のローンチ時に1位を獲得すると共に、4.4ポイントの高い評価を獲得しているとともに、高いアクティブ率も維持している。アプリを利用し、スタジアムチェックインやチケット購入のデータも紹介した。今後のサービス成長についても、調査を実施し、サービスのポテンシャルも把握している。

3.スポンサーとの共創にこそ可能性がある
 Club J.LEAGUEで目指したことはファン・Jリーグ・スポンサーの三方よしを作ることである。例えば、明治安田生命Jリーグチャレンジでは、メダルが3枚貯まると「明治安田生命Jリーグチャレンジ」に挑戦できる。“当たり”が出ると、新たなファンを誘うためのペアチケットを受け取る権利が手に入れる。ここで、MYライフプランアドバイザーと出会うことでもメダルがもらえる。ペアチケットは明治安田生命さんから提供されている、2017年度の実績だと、男性が誘い、女性が誘われる構造が可視化されている。そして、Club J.LEAGUEで明治安田生命のDAZNキャンペーンも行われた。そのほか、Jリーグのトップパートナーであるイオングループの店舗に行くことでもメダルを貯めることができる。2017年度の実績では、高ランクユーザーではイオンチェクインが日常的にされている。そのほか、docomoやtotoとの連携サービスも提供している。
 日本においては、スポーツコンテンツが提供するサービスをスポンサーと一緒に作っていくことが必要である。ファンはスポーツコンテンツ側が提供するデジタルサービスを利用し、スポーツコンテンツ側からスポンサー企業にマーケティングベネフィットを提供できる、そして、スポンサー企業の顧客が新しいファンやデジタルサービスのユーザーになる。このようなエコシステムを作れると考えられる。
 

 
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