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研究報告会レポート

第4回ユーザー・コミュニティとオープン・メディア研究報告会(札幌リサプロ祭り)レポート 「初音ミク」10年の軌跡

第4回 ユーザー・コミュニティとオープン・メディア研究報告会(札幌リサプロ祭り) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「初音ミク」10年の軌跡
ゲスト:クリプトン・フューチャー・メディア株式会社 代表取締役 伊藤 博之 氏
日 程:2018年5月12日(土)16:00-17:30
場 所:小樽商科大学札幌サテライト

 
【報告会レポート】
テーマ解題:ユーザー創発のパワーとコミュニティ・ジェネレーション
片野 浩一(明星大学 経営学部 教授)

 当研究会は、ユーザーが自発的に参加するオープン・メディアとそのコミュニティから創発される製品コンテンツの普及と拡大について研究しており、発足当初からユーザーが生成するコンテンツ(user-generated content:UGC)に注目し、ニコニコ動画やYouTubeなどのオープン・メディアにおけるユーザー創発のパワーを実証的に研究してきた。なかでも、「初音ミク」現象は、代表的かつ先端的な事例である。われわれは「初音ミク」を複数の価値から形成される複合体として捉えた。  ①VOCALOIDソフトウェア、②キャラクター、③バーチャルシンガー、そして、④コミュニティ、であり、バーチャルシンガーやコミュニティとしての「初音ミク」は、売り手である企業よりも、使い手であるユーザーにより、その価値が支えられている。「初音ミク」コンテンツは、ユーザーの趣味や娯楽にとどまらず、さまざまなビジネスやエンターテイメント産業、そして文化にまで大きな影響を与えることとなった。そのユーザー・コミュニティの創発からインスパイアされて生まれる様々な二次創作物の連鎖とクリエイティブ・ユーザーの行動に関する研究成果については『コミュニティ・ジェネレーション』(千倉書房刊)として上梓した。
 
講演:「初音ミク」とユーザー生成コンテンツ
伊藤 博之(クリプトン・フューチャー・メディア株式会社 代表取締役社長)

1. Virtual Instruments

 クリプトン社は、これまで仮想楽器(バーチャル・インスツルメント)を開発して提供しており、オーケストラもすぐに呼べるところが売りである。この技術を使えば楽器だけでなく、人の声もバーチャル・インスツルメント化できると考えた。

2. UGC(user-generated content:ユーザー生成コンテンツ)

 2002年にヤマハ株式会社がVOCALOIDエンジン(音声合成技術)を開発し、これを使って、2004年に当社初のボーカロイド・ソフトウェア「MEIKO」、続いて2006年に「KAITO」を発売した。この2つのソフトウェアは、音声合成技術×コンピュータミュージック×キャラクター、から成り立っており、声のトーンに大きな価値がある。このあと、YouTube(2005年)とニコニコ動画(2006年)という、後に普及する大手動画共有サイトが相次いでサービスを開始するという偶然にもインフラが整備されてから、2007年8月に「VOCALOID2 初音ミク」の発売を迎える。「初音ミク」の発売直後から、さっそく、動画共有サイトにイラストやフュギュア、アニメなどの二次的著作物(ファンアート)が多数投稿され、創作連鎖が巻き起こった。当社の原著作物(オリジナル)からクリエイターの二次創作、三次創作とN次創作の派生的なネットワークが拡大した。
 ここで、問題となってきたのが権利のクリアランスである。キャラクターを含む著作物の所有者には排他的な著作権(all rights reserved)が発生するが、現在の法制度のままではクリエイターのN次創作が著しく制限される。そこで当社では2007年12月に独自に投稿サイト「piapro:ピアプロ」を開設して、その中で作者が限定された権利を主張できるライセンス(some rights reserved)をピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)として制定し、クリエイターの創作活動を支援する環境を整えた。(このライセンスは後に世界的に普及するクリエイティブコモンズ・ライセンスを採用する)このPCLによって、二次創作を行うクリエイターが、オリジナル作者に「ありがとう」を伝える場ができ、共感の連鎖が形成されることになったのである。

3. CG concert

 その後、「初音ミク」はさまざまな分野の技術・芸術・文化とのコラボレーションに乗り出す。「初音ミク」×「アート」では、オペラや歌舞伎、クラシックコンサートでの公演や有名ファッションブランドとの共演が展開された。「初音ミク」×「テクノロジー」では、SEGA社の人気ゲームソフトシリーズとして登場し、テクノロジーを生かした生コンサートも世界各国の主要都市で世界ツアーとして展開中である。また「初音ミク」×「北海道」では札幌雪祭りでの雪ミク関連イベントも毎年恒例である。

4. 「初音ミク」とは結局何者なのか

 人は創作することが好きである。また創作した人を尊ぶ。当社の調査によると動画を観るのは若年女性に多いが、人のクリエイティブ(創造性)が「初音ミク」を媒介にして顕在化したのではないかと思う。では、「初音ミク」現象はなぜ日本発であったのか。外国でも果たして生まれ得る可能性はあったのか。それには日本の文化的な背景が関係していると考えられる。日本の伝統芸能の一つに人形浄瑠璃がある。人形浄瑠璃は「劇」と「語り」の接点に立つ舞台芸術であり、浄瑠璃の語りに合わせて人形が演じる人形劇である。三味線の伴奏に合わせて使い手が人形を操る。その姿は、音楽に合わせてクリエイターが「初音ミク」を操作し、人形と同じようにクリエイターが「初音ミク」という器に魂を込めている姿が重なる。
 
まとめ:
 伊藤氏の講演後に、会場参加者との質疑応答が交わされた。「初音ミク」にはなぜ強力なライバルが出現しなかったのか。二次創作するクリエイターは、「初音ミク」の育ての親として、どうして他人が育てた二次創作物をも一緒に応援するのか。といったユニークな質問があり、講演テーマに関する議論と考察が深堀りされた。「初音ミク」登場から10年がたち、その軌跡から今なお進化を続けるストーリーを生みの親みずから語っていただいた。次の10年の進化と軌跡もぜひ紹介していただきたいと考えている。
 
 最後に、今回の札幌リサプロ祭りでは、ユーザー・イノベーション研究会(リーダー西川英彦・法政大学教授)ともコラボを行い、株式会社ローソンの白井明子氏から紹介された「ユーザー創造アバター、ローソンクルー♪あきこちゃん」の歩みも、「初音ミク」と同様にユーザー参加で進化を遂げており、とても興味深い比較事例となった。
 当日は遠い開催地であるにも関わらず、多数の会員にご出席いただき、改めて感謝申し上げたい。
 
(文責:片野 浩一)

 
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