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研究報告会レポート

第25回価値共創型マーケティング研究報告会レポート(大阪リサプロ祭り)「製造業のサービス化」

第25回 価値共創型マーケティング研究報告会(大阪リサプロ祭り) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「製造業のサービス化」
日 程:2018年8月25日(土)
場 所:関西学院大学 梅田キャンパス

 

【報告会レポート】
1. 「製造業のサービス化の深化」

清野 聡(岡山理科大学 経営学部)

 80年代に製造業のサービス化と言われた時代には、サービスはあくまでも製品販売を促進するための一つの策に過ぎなかった。製品をより多く売り、競合他社に競り勝つために、製品だけでない競争優位をサービスで得ようとしていた。しかし、次第に顧客の使用プロセスを意識し、顧客が抱える課題を解決するソリューションを一人一人に合わせた形で提供するようになってきた。そしてそのようなサービスが顧客との長期的な関係性を構築し、安定的なビジネスが可能となった。そんな中Vargo and LuschがSDロジックを提唱し、交換価値から使用価値、文脈価値へと転換する必要性が明確となってきた。また、Grönroosはノルディック学派のサービスマーケティングの視点から顧客と直接的な相互作用を行う価値共創を規定した。
 このように製造業では販売を行う上での競争優位の源泉としてのサービス化から顧客の文脈で価値を生み出すためのサービス化へと移り変わってきた。

 

2. 「パナソニックが目指す顧客との価値共創」

中村 真一 様(パナソニック株式会社 ナレッジサービス推進室室長)

 冒頭、事業内容、パナソニックの生い立ち、いかに経営理念の浸透に力を入れているかについて紹介があった。「無理に売るな、客の好むものを売るな、客のためになるものを売れ」との松下幸之助の言葉は非常に印象的である。いかに商売のためだけでなく顧客の価値を生み出すことを重要視してきたかがよく分かる。
 中村様がご担当のナレッジサービスは、2018年にパナソニックが創業100年を迎えるにあたり、顧客に役立つことを自社が保有のナレッジを活用して行われるサービスである。これまで蓄積したナレッジを企業支援という形で、4つのサービスを行っている。1つ目は、人材育成、研修などヒューマンスキル、テクニカルスキル習得、人事評価制度といった「ひとづくり」の支援である。2つ目は、開発設計の支援、工場診断、品質改善といった「ものづくりノウハウ」に関する支援である。3つ目は事業戦略構築、プロジェクトマネジメント、販路拡大、トレンド予測といった「戦略づくり」の支援である。4つ目としてはISO取得、株主総会運営など企業価値向上にむけた「しくみづくり」の支援である。いずれも顧客企業の抱える課題に対して、それぞれの状況を踏まえ、一社ずつ最も適した形でオーダーメードでの対応を行っている。これらは企業を対象とした価値共創の取り組みである。
 一方、一般消費者に対する価値共創の取り組みも行っている。大阪のグランフロントに構えるパナソニックセンター大阪では、顧客の生活世界実現を支援する「リライフストーリー」という取り組みを行っている。従来、展示場では居住空間を作るためのものを売るため、商品の特徴を説明する、商品が役立つ場面を説明するという形で商品の販売促進を行っていた。リライフストーリーでは、顧客が実現したい憧れのくらしを現実にするための支援を行っている。ナビゲーターやコンシェルジュと呼ばれる社員が、従来別々であった商品、ガーデニング、介護、不動産、金銭設計などをひとまとめにし、顧客の送りたいくらし実現を支援する。クレドと呼ばれる顧客への対応の心得を全員で共有し、商品の販売ではなく、顧客のくらしを実現することを優先している。顧客との接点からは顧客の要望に関する情報、好みなどの情報を収集し、商品へのフィードバックを行っている。また、試作品の実証実験の場としても活用している。
 また、近年モノづくりの領域ではB to Bにも力を入れており、これまでとビジネスの形態が変わってきている。一般の消費者と異なり、商品開発の段階から接点を持ち、要望の理解からはじめ、販売後の保守サービスを行い、また新たな要望が出ればそれに対応するなど、短期の関係ではなく長期の関係を築いている。
 パナソニックでは更にIOTの活用により、顧客との距離を更に近づけようとしている。従来はパナソニックと顧客の間には販売店が介在しており、直接的な接点を持たなかった。しかし、IOTを活用することで商品企画の段階から製造、販売に至るまで顧客と接点を持つことが可能となり、より顧客の要望を叶えやすくしている。
 以上、中村様よりパナソニックにおける取り組みを紹介していただいたが、パナソニックという日本を代表する製造業も、顧客と直接接点を持ち、モノを単に提供するだけではなく、顧客の価値を実現するという発想で事業を変化させていっていることが非常によく分かる。
 

ディスカッション

パネラー
 中村 真一 様(パナソニック株式会社 ナレッジサービス推進室室長)
 清野 聡(岡山理科大学 経営学部)

 パナソニックがナレッジサービスのようなサービスを提供するようになった背景には、100周年を迎えるにあたり顧客に役に立てることがないかと考えた時、100年分の失敗に関する知見が社内にたまっており、それが生かせるとパナソニックでは考えた。加えて、このサービスを通して社外の人たちと接することで社内で手に入らない知見が手に入ると考えたのである。一方、リライフストーリーの取り組みは、上からの指示ではなく、社員自らやるべきことは何かを考えた結果、生み出された事業である。顧客と接する現場の社員はモノを売るだけでは限界があると既に認識していた。
 当初は企業機密を社外に出していいのかと言う議論があったくらいしか、特に苦労はなかったが、各企業に訪問するとエアコンを売りつけられると誤解されることが非常に多かった。サービス化にあたってはモノづくりと考え方が大きく異なるため、スムーズに移行することが難しいとされるが、社内に大きな障害がなかったのは、やはり顧客の生活世界で価値を生み出すという発想がパナソニックの社員の中に既にあったためだと思われる。
 リライフストーリーを行うにあたっては、単に商品紹介ができるだけでは不十分であり、ヘルパー、インテリアコーディネーター、2級建築士などの資格を取得する社員がおり、商品だけではなく生活全般を見ることができることが必要となる。顧客との接点では、目の前の顧客がどういう要望を持ち、どんな期待をして訪れたのかを理解できることがまずは重要であり、それに応えられる準備や情報提供を行う。その一方で、現時点では時間軸では販売までの対応であり、販売後に各顧客の家庭を訪問するまでには到っていない。しかし、購入した顧客には必ずアンケートをとっており、その中には、夢の暮らしが実現した、介護で訪れたがコンシェルジュに相談して人生が変わった、といったコメントもあり、従来のモノを販売するだけに留まっていないことが分かる。
 将来のナレッジサービスの展望については、現在200社の顧客を1000社くらいにして多くの企業に広げたい、そして、製造業だけでなく、食品などの異業種にもお役立ちを広げていきたいとのことであった。
 また、製造業のサービス化には製造業は顧客との間に流通、商社を介在しており、顧客との接点を持っていないという課題があり、顧客のことを知るには不十分であり、流通が鍵になるとの見解であった。やはり、製造業では従来顧客との接点が少ないこともあり、サービス化にあたっては接点をどのようにして設けるか、が製造業にとって大きな課題であることが明らかとなった。
 会場からは、顧客の要望を聞いているとパナソニック以外の製品を勧めることになることがあるのではないか?との質問があったが、パナソニックだけにこだわらず顧客にとってどの製品を使うのが一番良いかだけを考えているとのことであった。このあたり従来のモノづくり企業と一線を画し、サービス的な思考が根付いている。
 
 創業者松下幸之助の時代から、単にものを売るのではなく、顧客のためになることをするのが松下(パナソニック)という会社であり、それを社是などでしっかりと社員に浸透させており、そのような文化が顧客の文脈価値を生み出すサービス化の原動力となっていると、今回の研究会を通じて感じさせられた。
 
(文責:清野 聡)

 
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