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研究報告会レポート

第28回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「価値共創とインタラクション」

第28回 価値共創型マーケティング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「価値共創とインタラクション」
日 程:2018年12月2日(日)
場 所:大阪産業大学(梅田サテライトキャンパス)

 

【報告会レポート】
報告1「健康経営における情報のインタラクション」

上西 智子 氏(東北大学)

 上西先生は、健康経営を標榜する企業を対象に研究を進めていらっしゃいました。健康管理サービスにおける事業主と従業員との協力関係の構築を考えたとき、価値共創の視点で捉えた議論が可能なのではないか。こうした問題意識に基づいて、研究を進めていらっしゃいました。
 興味深いのは、従業員の行動変容をどれくらい捉えた健康経営が推進できるのかという問題提起にありました。健康状態の理解とともに、生活習慣の見直しが促進されるかという情報リテラシー教育は、インタラクションそのものです。また、健康管理の文脈は、インタラクションによって確認できるといえます。
 今後、健康管理サービスにおける情報リテラシー・マネジメントのあり方への検討が、ますます進んでいくことが期待されています。
 

報告2「インタラクションを促進する触媒的機能」

宮脇 靖典 氏(首都大学東京)

 宮脇先生は、サービス・ドミナント・ロジックのいう資源統合の問題は、インタラクションを前提とするにも関わらず、インタラクションが行き詰まるということはないのか、資源統合を無批判に理解してあらゆる関係を価値共創というべきなのかといった問題意識をお持ちでした。資源統合を促進させる要素抜きに価値共創が語れないとした場合、促進の役割を果たすプレーヤーが存在しているといえるのではないか。このプレーヤーが活躍することで、想定されていない資源統合が促進されるのではないか。こうした問題意識から、研究を進めていらっしゃいました。
 宮脇先生が注目したのは、触媒「カタリスト」の存在です。都市再生における触媒的役割を果たす、複数のプレーヤーの実践にご注目になりました。事例研究を進めていくと、アクター間の能力の問題、意志の問題が無視できず、アクター間の隙間を埋める足し算の作用、あるいは調整と説得の支援となる引き算の作用が、カタリストには求められると言えそうです。この触媒的機能がどこで発生するのか、どこで機能するのが良いかという問題について、研究の必要性を示唆していただきました。
 

講演「インタラクションを育むまちづくりの触媒的アプローチ」

松原 永季 氏(スタヂオ・カタリスト 代表)

 松原氏が若かりし頃、建築の世界はポストモダンの議論があふれていたといいます。意味ある議論でもある一方で、何らかの新規性を求めるトレンドでもあったといえます。当時の松原氏は、歴史的文脈軽視への違和感を持ちながら職務にあたっていたといいます。しかしながら、松原氏の考え方を一変させる出来事が起こります。それが、阪神淡路大震災です。地域が焼け野原になり、かつての街並みが失われ、復興が求められるようになるのですが、望ましい街づくりとは何かが問われます。「新しい街は機能的だがかつての良さが失われた」「地域の人にとって求められる街づくりとは、どのようなものなのか」こうしたことを建築家も一緒に考える必要があると、強く印象付けられたといいます。もっとも厳しい批判は、「建築家の無責任な提案が蔓延り、機能しない町が増えてしまう」というものです。これは東日本大震災でも見られる現象だといいます。昔も今も、街づくりには何らかのトレンドがあり、それを反映したものが生まれるのですが、住民が期待する街づくりなのか、望ましい街づくりとは何なのかを考えなければ空虚な街づくりが繰り返されます。
 こうしたなか神戸市では、阪神淡路大震災以前から、地域のまちづくり協議会、神戸市に加え、まちづくりの専門家を交えた協働・参画によって、この問題に立ち向かっていきます。震災後は街づくり協議会が増えたこともあり、協働・参画には専門家が必要になり、何といっても専門家らしい知見の提供が求められるようになったのです。
 今回の研究会では、神戸市長田区駒ヶ林地区の密集市街地における街づくりの事例が披露されました。地域住民との交流を通じて地域資源を発掘し発信する実践が示されました。イベントの企画運営を通じて魅力を発信し、地域内外の人々の交流が促進された末に、基本目標や行動指針など、一歩進んだ具体的な街の将来について議論が始まります。同時に防災に強い街づくりも推進しなければなりません。コミュニティが機能するイベントと同時に子どもが参加する防災訓練も取り込み、併せて建築基準法上問題のある細街路を整備するなどしながら、防災性の高い街づくりが進められていきます。こうして近隣住環境計画ができあがります。いよいよ、路地を生かした街づくりが具現化していきます。
 一連の実践から明らかなのは、人の立場や意見を聞くことの大切さです。肯定的な態度で臨むことが重要で、正しく聞くことが大切だといえます。現場はその人の話を本当に聞きたいかどうかが問われており、自己一致・純粋性が重要だといえそうです。一般に、市民と行政は対立関係が生まれやすいといえます。あるいは依存関係になっていても不思議ではありません。対立、依存いずれも自立的ではない訳です。そこに本質は存在しない可能性があります。そこに第三者が介入することで、対立や依存の関係が変わるといえそうです。三者間の役割が明確化していき、それぞれが能動的な態度で問題解決に向かうことができるといえます。肝心の第三者は、このプロセスをデザインする必要があるほか、プロセスは記録して整理する役割を果たしていく必要があります。
 さまざまな実績をお持ちの松原氏ですが、まだまだ社会は「触媒」の職能が未確立だといえます。「触媒」人材の不足も指摘できそうです。まだまだ課題は多いものの、「触媒」を必要とする社会は数多く現存しているといえ、議論の余地が多くあるといえそうです。
 

ディスカッション

ファシリテータ 大藪 亮(岡山理科大学)

 大藪先生のリードによって、インタラクションの長さ、有効性をめぐって議論が進みました。健康経営の事例でいえば、働き方改革が進む企業が少なくないほか、インタラクションの中で機能するアクターをカタリストというのならコンサルタントとは異なり戦略的な性質に大きな違いがある。事後創発的な成果こそカタリストの役割であろうということ、そして、こうした理解に基づいたカタリストの活躍は、地域のために自覚した者によって異なり、長期で関与するカタリストは街づくりのために40年近く従事する専門家もいるということが示されました。一方で街づくりの実践事例としては、専門家の抽出が明確でなく、現状では建築士が指名されるケースが少なくないのですが、防災の枠を超えて地域に求められる主体性ある発展をめぐる専門家というと、まだまだ確立された専門性ではないといえそうです。
 ところで、インタラクションの重視はどのような価値共創を捉えるのでしょうか。インタラクションはどのようなゴールを捉えることができるのでしょうか。こうした問いに対し、上西先生は、バラバラな課題がつながっていくというところに意味があり、日本社会の課題とつながったことに成果があるとお考えでした。日本社会の課題との結びつきは、当初想定されていなかったものも数多いようです。事後的に成果が確認されることは少なくなく、待ったなしの挑戦とともに成果が意識されるといえます。宮脇先生は、丹念な事例分析から明らかなこととして、都市再生、企業再生という、現状では立ち行かない事態に対し有効ではないかとお考えでした。ある意味で問題意識や現状認識を共有する状況下において、同じ立場で主観をすり合わせることができるとお考えでした。ではゴールとは何か。これについて宮脇先生は、不連続な未来に対応していくために、ゴールは絶えず修正され続けると考える方が自然ではないかと、独自のお考えが示されました。従来のマーケティングが重視した市場を捉えようとするとき、ゴールは明確に意識されなければならず、売上の増加がゴールかもしれません。しかし、不連続な未来において現状認識を共有することから問いを立てることが重要だといえます。しかしながら、市場を舞台にした議論の枠をどのように超えながら、一方で何らかの方法で市場を捉えた解釈で理解できる視点に落とし込めるかどうかも問われています。まさにマーケティングの理論化努力が示されたといえます。松原様は、さまざまな実践事例を基に、地域の主体性の回復が大切だとの認識をご披露になりました。地域のことは地域で決められることが大切です。この当たり前のようで当たり前に機能しない問題に対し、カタリストの活躍が期待されます。地域によって実態はさまざまですが、自立的な主体の確立が当面の目標だといえそうです。
 アクター自体の変化が起こることにインタラクションの意義があり、これを価値共創と捉えている。こうした認識が、この研究会では共有されたような気がします。まさに、サービス実践のあとに価値が生まれ、アクターによって価値が認識される局面を捉えた議論だと感じました。
 
(文責:今村 一真)

 
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