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研究報告会レポート

第5回マーケティング・ツールとしての知的財産研究会(春のリサプロ祭り)レポート「貝印が目指す知的財産マネジメント」

第5回 マーケティング・ツールとしての知的財産研究報告会(春のリサプロ祭り) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「貝印が目指す知的財産マネジメント」
報告者:地曵 慶一(貝印株式会社 執行役員、経営戦略本部 知的財産部長)
日 程:2019年3月16日(土) 9:00-10:30
場 所:青山学院大学 青山キャンパス 17号館3階

 

【報告会レポート】
 第5回の研究報告会では、貝印株式会社・執行役員・経営戦略本部・知的財産部長の地曵慶一氏から、「貝印が目指す知的財産マネジメント」というテーマでご発表頂きました。 
 まず、貝印の会社概要について、本年111周年を迎える企業であること、日本初の国産替刃カミソリを製造するなどカミソリに代表される刃物を中心としつつ、調理用品や化粧道具、衛生用品等も販売するメーカーであり、海外展開も実践していることを具体例や商品実物の回覧もしつつご説明いただきました。
 つぎに、貝印ではグッドデザイン賞を10年連続で20回以上も受賞してきており、知的財産権の中では、従来、特に意匠の出願に注力を置いてきたといえる点について説明頂きました。
 しかしながら、現在は同社が大転換期にあり、経営に近いところに知的財産部が創設され、全社の中期経営方針に「知財強化」を組み込んでおり、①IPランドスケープ②戦略的知財発掘等を行っている点についてご説明頂きました。
 中でも注目すべきご発言は、「マーケティングと知財は最も強く交流すべき部門同士であり、コラボすることはむしろ『自明』だと考えている。」というものでした。
 これまでの同社の知財機能は「他部門から依頼を受ければ仕事をする。」という「受け身」の仕事が過半数であったが、これではコンプライアンスに属する業務に留まり、プレゼンスも上がりにくかった。本来、商品開発フローに照らせば、「企画」より前段階から関与することが重要であり、さらに上市した後まで関与することが必要であるというご説明を頂きました。
 ついで、知財の本質的な機能には2つある点、すなわち、①独占排他権としての機能と②情報ソースとしての機能(技術文献)を説明頂いたうえで、①に関して、特許のプロほど少しテクニックを使えば特許権を取得できることから、特許権の価値をあまり認識していない場合があるが、実は、一般の人(消費者等)には「特許はいいもので、すごいもの」という認識があると同氏は考えており、事実、差別化されていなければ取得できないがゆえに差別化の「証(あかし)」ともいえるため、これは商品価値としてあるいはプレミアム化を示すものとして使えるもののはずである、という説明を頂きました。さらに、➁に関して、特許出願の内容は1年6か月後に全件公開されるものであるため、情報ソースとしてみた場合、他社・他業界の「研究所の中」を「合法的にのぞけるツール」であるという説明を頂きました。
 さらに、特許情報を使って同業他社の技術力や注力分野等を可視化した「パテントマップ」について言及があり、開発系部門だけではなく営業系部門にも出したところ、「こんなことまでわかるのか?」と驚かれたとのエピソードに触れられ、情報というのはニーズのあるところに出さないと意味がないというコメントを頂きました。
 
 そして、特許権は既存の技術と異なるからこそ、特許権が付与されており、範囲の大小こそあれども「差別化」を国が証明していると言える点、そのため、その価値を社内に伝えることが知財部門に求められるのではないかというお話を頂きました。
 最後に、以上の点を踏まえて知財部門に求められる人材像についてご説明を頂きました。
 
【報告会を終えて】
 今回の御発表は、本研究会の基本テーマとなっている、マーケティング部門と知財部門がどう関係すべきかという点について、極めて明快にかつ実践している内容に基づいてご説明があり、報告者自身、非常に示唆の多い内容でした。朝一番からの報告会からであったにも関わらず、想定を超える30人以上の方々にお集まり頂き、多数の質疑応答があり、最後の拍手の多さもさることながら、発表者との名刺交換を求める列が長い時間途絶えなかったことからその価値は聴衆の方にも伝わったものと推察します。
 引き続き、本リサーチプロジェクトを続けて行きたいと考えております。
 
(報告者:プロジェクトリーダー 杉光一成)

 
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