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研究報告会レポート

第16回医療マーケティング研究報告会レポート「COVID-19 クラスター発生の教訓と対策」

#いまマーケティングができること

第16回 医療マーケティング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「COVID-19 クラスター発生の教訓と対策」
日時:2020年8月3日(月)19:00-20:45
場所:ZOOMによるオンライン開催
進行:昭和大学大学院 保健医療学研究科 的場 匡亮

 
「介護施設のコロナ・クラスターを経験して‐経営者の立場から」

演者:古城 資久 社会福祉法人あそか会 理事長

 社会福祉法人あそか会は東京都江東区を中心に病院や介護施設等を運営している。今回、クラスターが発生した北砂ホームでは、4月18日(土)に最初の発熱者が発生、病院では誤嚥性肺炎という診断で入所を継続した。ところが、その後発熱者が10名にまで増加し、病院に転院していただきPCR検査を実施したところ、9名の陽性が判明した。そこで、入所者や職員等180名全員のPCR検査実施を企画したところ、保健所経由では日数がかかることが判明した。時間をかけては状況が悪化してしまうとの判断から、運営する病院を活用し、検査会社の協力を得て、自ら実施をした。
 ホームの職員80名のうち、出勤停止者等を除くと出勤可能なのは正職員6名のみという状況となり、介護崩壊の危機に直面した。PCR検査で陰性であった入居者の病院への移送も検討したが、一度の検査で陰性であったとしても、移送先で発症し、感染を広める可能性を考慮すると、法人内の職員15名を北砂ホームに投入する方が良いと判断した。また、デイサービスの利用者についても希望者へのPCR検査を実施した。以後、自宅待機となっていた職員の復帰、陽性者も徐々に減少し、5月30日(土)に全フロアの消毒を行い、6月1日(月)にクラスターは終息と判断、デイサービスの再開をした。一連の経過で陽性者は51名(職員7名含む)、有症状者27名は全員入所者で残念ながら6名がお亡くなりになった。
 当時、経営者として考えたことをいくつか述べる。一つは新型の感染症は医療の中では災害医療に準ずるものであり、「自助・共助・公助」の順で判断すべきで、「指示待ち・援助待ち」や「(誰かがxxxして)くれない族」になってはいけないということであった。また、指示はシンプルにし、優先順位が低いもの(患者の命に直結しないもの)は無視することとした。
次に、職員は疲弊させないよう、過度に頑張らせないよう、休養のとれる人員配置を心掛け、(職員・施設・法人を)孤立させず、全員で援助する、経営者としては誰も見捨てないことを方針として表明した。また、災害時には様々な事情から協力をしない職員が出てくることを念頭に、そういった職員を非難しないよう、互いにいがみ合うことのないように伝えた。最後に経営者としては、職員の善意に甘えないよう、できる限りの危険手当を支給することとする一方で、今だけは24時間医療従事者、介護従事者であることを求めた。
 3つ目に法人・病院は風評被害をゼロにすることはできなくとも、倒産の危機に瀕する手前で食い止めるためになすべきことを考えた。それは「徹底した情報公開」、「積極的な情報発信」、「マスコミへの協力」である。ありのままを見て頂けば、風評被害があったとしても同時に励ましの声を得ることができる。最大の致命傷は地域社会・患者様・利用者様の指示を失うことだと考えた。最後に、資金繰りについてシミュレーションを行い、当座貸し越し、コミットメントライン、期日活返済借り入れなどの検討をし、可能な限りの運転資金の調達を行った。
 終息後はコロナ第二波への対策を検討し、機材の購入、感染症関連物品の備蓄、PCR検査体制の整備、医療介護連携の強化、運営病院の感染症協力病院への指定などの手を打った。特に共助、公助なくとも自助で生き延びられるよう、またコロナに積極的に関与することで経営を良化、安定させる可能性について考慮した。コロナ・クラスターは発生してしまった時点で負け戦となる。コマンド&コントロールは勝ち戦の時こそ機能するが、負け戦には負け戦ならでは戦いがあり、現場判断が重視される。決してあきらめず、経営者としては決める事と責任を取る事だけを考えることが重要となる。
 
指定コメント・「新型コロナウイルスに関する危機管理広報初動マニュアル」紹介 

鈴木孝徳 井之上パブリックリレーションズ 代表取締役社長 
高野 祐樹 同執行役員 
横田 和明 同執行役員
関口 敏之 同シニアアカウントエグゼクティブ

 PRとはPublic(一般社会、組織内外、国内外の様々な対象)とRelations(関係構築)をすることである。井之上PRでは「個人や組織体が最短距離で目標や目的を達成するための、『倫理観』『双方向コミュニケーション』『自己修正』に支えられるリレーションズ(関係構築」)活動」と定義している。特にPRは「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を統合するマネジメント活動であるという点から、目標やターゲットの設定、戦略やプログラムの構築、実行、分析表というサイクルを自己修正しながら循環することを重視している。そして、危機管理は、将来発生しうる様々な危機を予め想定し、有効な対策を策定し、必要に応じて対応していくこととなる。
 今回作成したマニュアルは、「パンデミック時の広報」についてクライアントから相談されたことをきっかけに、危機管理のスペシャリストである白井邦芳教授(社会情報大学院大学)と連携し、社内横断的にチームを結成して策定した。緊急事態宣言下で策定し、4月より無償提供を開始し、約30の医療法人、医療機関を含む750の自治体、企業、団体に提供をしている。全15ページからなるマニュアルは、①従業員(職員)にコロナ感染者が発生する前に備えておくべき広報準備、②従業員にコロナ感染者が発生した際の広報初動アクションという2つのテーマから成っている。コロナ禍での危機管理広報の3つのポイントは「“自社の従業員から感染者は必ず発生する”という考え方に立つ」、「正しい情報キャッチし、正確な情報発信をする」、「社内外へのコミュニケーションについて事前に手を打っておく」ことにある。危機管理広報は、危機発生前のリスク・コミュニケーションと発生後のクライシス・コミュニケーションに大別される。被害の拡大を防ぎ、企業(団体)の信頼・信用を回復することを目的としつつ、個人が特性されないようにする、公表範囲は2次感染の拡大防止に必要な範囲とするなどの配慮も求められる。
 
井之上PR 新型コロナウイルスに関する危機管理広報初動マニュアル 紹介ページ
https://www.inoue-pr.com/news/877/
 
ディスカッション
 井之上PR鈴木社長から古城先生に向けた「PRの考え方をすでに持ち、実践ができたのは、どういったきっかけがあったのか」という質問を皮切りに、発生時の家族等とのコミュニケーション、医療機関や介護施設で実施されている面会制限の課題と対応、PR専門人材の育成など幅広い議論が交わされました。最後に運営委員の川上先生より、PRの力をさらに広く知っていただくための活動の重要性についてコメントを頂き、予定時間を大幅に超過した白熱の報告会が終了となりました。
 
(文責:医療マーケティング研究プロジェクト リーダー 的場 匡亮)

 
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