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研究報告会レポート

第7回ユーザー・コミュニティとオープン・メディア研究報告会レポート「ネット集合知:医師と製薬をつなぐ集合知プラットフォーム・ビジネス」

#いまマーケティングができること

第7回 ユーザー・コミュニティとオープン・メディア研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:ネット集合知:医師と製薬をつなぐ集合知プラットフォーム・ビジネス
日 程:2021年2月5日(金)19:00-20:30
場 所:Zoomによるオンライン開催

 
【報告会レポート】

第1部 ソーシャル・クリエイティブなネット集合知
片野 浩一(同リーダー、明星大学 教授)

 近年のユーザー共創から生まれるネット集合知と呼ばれる日本語には2つの意味がある。1つはコンピュータ技術の分散ネットワークを生かして多数のユーザーの知識と能力を集めて特定の目的や課題の解決を目指す過程で生まれる「集団知性(collective intelligence)」の意味である。その共創プロセスには特定のリーダーや企業が管理・調整を行なう。2つ目はこの分散ネットワークから派生的に生まれたもので、多数ユーザーの知識や能力を集約的に集めるというより、ユーザー個人の自律性や創発性を拡散的に生み出して多様な利用場面でアウトプットを出していく「群衆の叡知(wisdom of crowds)」である。そして、これらがアウトプットされる場面は、大きく問題解決プロセスとユーザー生成コンテンツ(user generated content: UGC)の2つに分かれる。
 このようなソーシャル・クリエイティブな集合知の最近の事例に、「みんなで翻刻」がある。このコミュニティでは一般の多数ユーザーが協働して災害の歴史資料、古文書を解読するプロジェクトが運営されている。2017年に京都大学の歴史地震の研究グループ(京都大学古地震研究会)を中心に地震史料の翻刻(テキスト文字おこし)が始まり、これまで5,000人以上が参加して600万文字の史料が解読されている。一般ユーザーが利用しやすいように、翻刻をサポートする日本語起こしのソフトウェアやテキスト編集ツールも用意されている。
 2つめの事例は、ソニー・ミュージックエンターテイメントが運営する小説投稿サイト「monogatary.com」であり、与えられた「お題」に対して一般ユーザーが自由に小説を創作して投稿するコミュニティである。専属の音楽制作スタッフがヒットしそうな小説を原作にして歌詞と曲を制作する集合知性を生かす仕組みがある。2019年には「タナトスの誘惑」という小説から制作された楽曲「夜に駆ける」(YOASOBI)がYouTubeで3億回を超える大ヒットとなった。音楽やドラマの原作となる一次創作コンテンツの源泉を作りだすネット集合知のビジネスモデルである。
 

第2部 医師と製薬をつなぐ集合知プラットフォーム・ビジネス
天坊 吉彦(メドピア株式会社 取締役)

 

 
 メドピアグループは、「Supporting Doctors, Helping Patients.」のミッションのもと、医師や薬剤師などの医療従事者をサポートしながら、その専門家ネットワークと集合知を活用して個人向けのヘルスケアをサポートする企業である。全国の医師が参加する医師向けコミュニティ「MedPeer」のプラットフォーム事業は、国内医師の3人に1人にあたる12万人以上が参加するコミュニティであり、ユーザーである医師のユーザー生成コンテンツ(UGC)が日々投稿される。そこで薬剤や疾患など多様なテーマで医師同士がフォーラムや薬剤評価掲示で情報交換され、さらにエキスパート医師が臨床の疑問を解決する症例相談などが活発に行われる。
 まず症例検討会では、主催病院から検討する症例(ケーススタディ)が提示され、これに多数の医師が診断経験を投稿する。検査や所見情報を元に最終的な診断名が公表され、主催側から総括コメントと優秀な投稿コメントが発表される。実名公表で質の高い経験と知見が集まる。
 エキスパートコメントでは、知名度の高いエキスパート医師(600名程度が登録)が1つの疾患について5名程度が担当してコミュニティから症例相談を受ける。薬剤評価では疾患別に使用される薬剤がどのように評価されるかについて、グルメサイト方式のように、わかりやすく項目別に点数で満足度が表示される。このほか、1問1答のアンケートやフリー掲示板もある。
 元々は掲示板コミュニティからスタートして、さまざまな話題を提供する場を育ててきた。15年程度をかけて会員数は2010年に3万人、2015年に10万人、2019年に12万人を超え、会員拡大と活性化に努めてきた。なかでも投稿するアクティブユーザーを増やすことが重要であり、会員医師の生活リズムに合わせたテーマのタイムリーな情報発信(朝、昼、夜・休日)を心がけている。一方でコミュニティが荒らされることは少なく、不適切な投稿があると会員間で抑制するような自律的な浄化作用も見られ、コミュニティの健全性が保たれているのも強みである。会員医師は50以上の診療科に専門分化しており、専門の個々のコミュニティ内をいかに活性化するかが大切である。
 収益化(マネタイズ)について、創業後7期連続で経常赤字が続き、8期より黒字に転換した(2020年9月期の連結売上高53億円、営業利益11億円)。ビジネスモデルは、製薬企業や医療機器メーカーなどの市場とマッチングして契約し、マーケティング支援サービスを提供して収益を上げる。当初は製薬メーカーの広告配信モデルから出発して成長するが、その後にメーカーとのパートナーシップ企業にポジショニングをシフトし、医師コミュニティの集合知が製薬メーカーにとって有益であるようなマーケティング・プラットフォームを目指している。
 
 講演後に、天坊氏と出席者との間で質疑応答が行われ、医師コミュニティの育成と運営がいかに難しく時間がかかることを学んだ。
 
 2020年度もご参加いただき、ありがとうございました。2021年度も引き続き、「ネット集合知」をテーマに研究報告会を企画してまいりますので、どうぞよろしくお願いします。
 
(文責:片野 浩一)

 
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