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研究報告会レポート

第8回プレイス・ブランディング研究報告会レポート「小さくゆっくり成長するイタリア:ネットワークで地域を再生する」

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第8回プレイス・ブランディング研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:小さくゆっくり成長するイタリア:ネットワークで地域を再生する
報告者:中橋 恵 氏(フリーランス・リサーチャー)
ファシリテーター:上田 隆穂 氏(学習院大学 教授)
日 程:2021年7月29日(木)19:00-20:30
場 所:Zoomによるオンライン開催

 

【報告会レポート】
 今回の研究報告会は、イタリア在住の中橋恵氏より、2021年に出版を予定している書籍『イタリアの地域再生』(仮題)の内容にも触れながら、コロナ禍を踏まえたイタリアの現状について、お話しいただきました。
 

 
 日本の約半分6000万人弱の人口のイタリアでは、新型コロナウィルスのパンデミックによって38万人も人口が減ったそうです。同国は観光大国でもありますが、それまでの観光産業は壊滅的な打撃を受けながらも、価値観の変化を伴った新たな動きが出ているということで報告が始まりました。
 まず、都市部での動きとして、ミラノ、ローマ、フィレンツェといった都市部におけるスマートシティ化や観光化の動きが紹介されました。ただし、スマートシティとしての定型モデルを追求するというより、各都市が地域の文脈に沿った独自な開発モデルを追求しているそうです。そのような中、パンデミックによって失業者が増加したことなどが原因となり、都市部の富裕層向けの再開発地区とそうでない地区などで、経済的・文化的な分断が起こり、治安も悪化しているとのことでした。
 文化面では、ダリオ・フランチェスキーニ文化観光大臣による、美術館・博物館の大改革の取り組みが紹介されました。インバウンドによる有名博物館は外国人で長蛇の列ができる一方で、イタリア人の美術館・博物館離れという問題がありました。そこで、彼はブレラ美術館やボルゲーゼ美術館といったイタリアを代表する美術館館長に、外国人や若手のスーパーディレクターを起用しました。例えば、ウフィッツィ美術館で起用されたドイツ人のアイケ・シュミット館長は、若者に人気のインフルエンサーと組んで美術館訪問番組を放映、若者の来館者数を40%も伸ばしたそうです。2021年5月に行われたイタリア博物館サミットでは、2020年は何とか持ち堪えたが、訪問者の客層を広げるためにもカルチャービジネスの新たなモデルが必要であり、そのためにはネットワークが重要だという結論になり、美術館同士の横の連携も積極的に行われるようになってきたとのことでした。アルベルゴ・ディフーゾに続き、ムゼオ・ディフーゾということで、大規模美術館と周辺の小規模美術館の共催チケット、レストランやお土産物屋なども含めたネットワークが構成されつつあるそうです。
 

 
 話題は食に変わります。長期にわたるロックダウンで、外国人相手のレストランの多くは廃業または廃業の危機にあります。そのような中、イタリア人は自宅での料理環境を見直す人が増加しました。地産地消、スーパーではなく小売商店での買い物、オーガニック食品の購買など、食と健康に対する意識が高まっているようです。都市農園を始める人たちも多く、連帯や共食、環境を考慮した食の動きが広がっているとのことで、多数の写真とともに様々食の動きを紹介してもらいました。
 

 
 また、観光化やスマートシティ化によって、貧困層や失業者が周辺部へ流れるようになったとのことで、郊外地区の事例が紹介されました。それは放火された店舗を周辺の店舗が助けようとする事例、治安の悪い地区でオープンした出版社から複合文化施設への進化、マフィアの拠点であった建造物を住民の手で再生した取り組みなど、イタリアならではの住民や小さな事業者たちのネットワークづくりの取り組みでした。
 最後は、人口5000人以下の自治体が約7割を占めるイタリアにおいて、特に消滅可能性の高い小規模な自治体での取り組みが紹介されました。山間部の小さな村に集まるオルタナティブ系若者の農業経営、完全廃墟の村からアルピニズムの拠点へと再生した村、ポストコロナで復活した一度は寂れたリゾート地の再生など。そして、最後に紹介されたのは廃村ツアーでした。イタリアには無数の廃村があるそうで、その全てにおいて再生できるわけではなく、日本の近い未来を感じさせるようでした。
 

 
 その後の質疑応答も活発に行われ、コミュニティではなくネットワークという言葉を意識的に使う意味、若者の起業をサポートする制度や仕組み、イタリアと日本の地域での取り組みの違いなどについて、活発に意見交換なされました。自らの足でイタリアを深く調べている中橋さんならではの、多数の写真とプレイス・ブランディングについての考察によって、今回も非常に盛り上がった研究会となりました。
 

参加者との記念撮影

 
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