リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第8回医療マーケティング研究
報告会レポート
「医療におけるマーケティングとデザイン」

第8回 医療マーケティング研究報告会
テーマ:「医療におけるマーケティングとデザイン」
日 程:2015年9月12日(土)15:00-17:30
場 所:博報堂関西支社 WingA/B会議室(大阪市 中之島セントラルタワー15階)

 
【内容】

1.マーケティングとデザインのインタフェイス (3:00-3:20pm)
  早稲田大学ビジネススクール 教授 川上 智子 氏

 今日は、デザイン中心とデザイン思考の関係について、マーケティングとデザインのインタフェイスについて、病院の知覚品質とデザインに関する実証研究の結果についてお話をします。
 デザイン中心主義の歴史は意外と古く、たとえば『知識創造経営論』ではソニーの事例が紹介されています。盛田昭夫氏が60年代にデザイナーを17名雇用し、80年代にはトップレベルの意思決定権限を持ったといった話です。
 デザイナーと技術者との関係をレビューすると、80年代以前はエンジニアリングデザインの内容をいかに美しく機能的にスタイリングするかという話だったと考えられます。90年代以降は、インダストリアルデザインとエンジニアリングデザインとの関係で、インダストリアルデザインの情緒的便益と技術的な設計の機能的便益との関係でデザイナーの方が強いというのがソニーの事例です。
 2010年以降、デザイン思考が注目されていますが、顧客経験の設計と問題解決がポイントで、代表例がIDEOの観察とプロトタイプによる視覚化です。顧客の潜在ニーズは観察で理解し、すぐに視覚化して、言語や数値ではなくプロトタイプで評価することを強調しています。
 あるいは、ベルガンティの研究では、市場プル型の限界を示しつつ、主体はあくまでも企業側にあり、かつデザインプッシュ(デザイン中心)では、企業と顧客の間にデザイナーという解釈者がいることをモデル図として示しています。
 ベルガンティの研究では、横軸が意味の変化、縦軸が機能の変化を示す図において、デザインは、技術的な革新性を問わず、新しい意味を生成すると指摘されています。そして、時計のスウォッチの例などで、デザインが新しい意味を生み出すということを具体的に説明しています。
 ただし、私はベルガンティには反論があり、市場プルも技術プッシュもデザインプッシュも、すべて機能的便益と情緒的便益に影響するという立場を取ります。たとえば、医療の例で言えば、治療・回復・安心・快適すべてに市場・技術・デザインは影響すると考えられるためです。
 用語について、一部の日本人研究者が良く使う意味的価値は同義反復で、おかしいという主張もしています。なぜならば価値は知覚であり、便益・意味をコストで割ったものだからです。したがって、私はマーケティングの用語である機能的便益と情緒的便益を使っています。
 ここからマーケティングとデザインのインタフェイスの問題に入っていきますが、何か革新・改善する場合、マーケティングと技術で考えることが多いわけです。この2つの機能がとくに重要だという認識ですが、ここにデザインが入るというプロセス図が描けます。
 デザインの役割を考えるうえで、私は、ノーマンのアフォーダンス概念を手掛かりにしました。アフォーダンスは、ノーマンによれば事物の特徴、そのものをどう使うかを決定する最も基礎的な特徴のことです。たとえば、椅子は支えることをアフォードするもので、駅のベンチがガラスだと割れる、板だと落書きされるといったことをノーマンは議論しています。
 ノーマンの議論で私が特に参考にしたのは、デザイナーとユーザーの関係が企業と顧客のマーケティング関係に類似しているという点です。デザイナーはデザインモデルを持ち、ユーザーはメンタルモデルを持っています。ユーザーは周囲のシステムと相互作用をしています。デザイナーとユーザーは、互いの持つシステムイメージを互いに共有できない関係にあります。
 マーケティング部門とデザイン部門を比較してみると、共通点は外部のユーザーや顧客とコミュニケーションする点、価値提案は可能だけれどもそれをコントロールできない点、専門知識によるバイアスで、典型的なユーザーにはなれない点などが挙げられます。一方、相違点はその専門知識の内容が違うということです。

 
第1報告 早稲田大学ビジネススクール 教授 川上 智子 氏
第1報告 早稲田大学ビジネススクール 教授 川上智子氏
 

 以上がマーケティングとデザインの関係で、ここから病院の知覚品質とデザインの実証研究について簡単にご報告します。医療というのは信用財で、サービスの中でも、経験しても品質が判断できない最たるものです。
 先行研究では、2015年に出たばかりのDesign Issuesの論文で、病院のデザインに関する空間的な品質の研究があり、デザインは治癒や回復に好影響があること、ただしそれは、マーケティングの使用価値や文脈価値と同様、雰囲気というコンテクスト(文脈)に媒介されることが示されています。
 私は今回、北大の松尾先生が開発された医療のサービス・システム・モデルをフレームにしました。ドナベディアン、サーバクション、サーブクォルを統合した、最も包括的モデルだからです。松尾先生のご了解を得て、単独で実証研究を進めています。デザインは、医療サービス・マーケティングの7Pの物的証拠にも関連しています。詳しくは、川上・木村(2013)をご参照ください。
 サンプルの概要ですが、去年12月に実査し、最初836人に聞いて、本人・家族が1年以内に病院(20床以上)に通院・入院している人200人を年齢・性別で層別サンプリングして抽出しました。その結果、有形性は正の影響があり、視覚デザインは今回のサンプルでは影響が認められませんでした。この結果には、今回ご報告いただく永井社長のHITO病院のような優れたデザインの病院が、回答した消費者の認識できる範囲にあまり存在していないことも影響していると考えられます。
 マーケティングとデザインのインタフェイスは今後、有望な研究分野です。医療分野では、デザインは治療・回復や顧客の経験の改善に良い影響があると言われていますが、実証研究は未だ進んでいません。今回の探索的研究をさらに推し進め、現実の進展を追いかけながら、概念や測定尺度を洗練化させていきたいと考えています。
 

2. マークのデザインとマーケティング (3:25pm-4:05pm)
  株式会社博報堂 関西支社 亥角 稔久 氏

 医療におけるブランドづくりは、患者さんやその家族に対して、医療サービスの経験を通じて、医療サービスを提供する約束を実行していくことだと考えています。企業が提供する商品やサービスと医療サービスの違いは、医療サービスの利用者は、ストレスを抱えながら利用し、生活が強いられ、欲しいというよりは、むしろ必要なサービスであるということ等が挙げられます。
 メイヨークリニックの病院ブランディングの事例が有名ですが、日本でもこれだけ有名なのはなぜでしょうか。広告や宣伝もせず、マーケティング部門ができたのは1986年になってからのことです。創始者のウィリアム・メイヨーが患者第一の医療を約束して以来、それを実現してきたのです。日本の病院にも実際に聞いてみますが、最初の問診からしっかりやるというのは、なかなか簡単にできることではありません。
 メイヨークリニックの医療サービス・マーケティングの7Pを分析してみると、各要素があって初めて、ブランディングという話が可能になるのだと感じます。患者やその家族、または生活者の不安を安心感に変えること、こうして作られる全幅の信頼感が医療機関におけるブランドであると考えられます。
 今回は、ブランドを情緒的差別化と機能的差別化の2つの軸で考えてみました。病院の競争が激しくなってきている昨今、優れた技術・機能だけがあればいいのか、あるいは、マーケティング的な誇張だけがあればいいのかというと、どちらかだけではダメで、2次元で考えることが重要です。
 それでは、機能的差別化と情緒的差別化を両立させていくにはどうすればよいのでしょうか。今日は、成分ブランディングの理論を取り入れて、考えてみます。何か商品を買う時に、技術や素材の成分があるために、それを買おうと思うのが成分ブランディングです。インテルやドルビー、ゴアテックスなどが代表例です。
 成分ブランディングの期待効果は、競合する生産財・技術メーカーとの差別的優位性の確保が可能ということで、特許の期間を超えても持続する競争優位が確立できる可能性があります。プル効果による販路拡大や需要の安定化も可能です。
 インテルの事例では、Intel Inside、あるいは日本では「インテル・インサイド」として展開されています。1990年にアメリカで始まりました。ブランドの背景として、386のように数字による商品名が商標登録できないという事情もあって、メーカーの協力の下、広告費の一部を支払うことで、併記が可能になりました。
 ブランド化に対して、PCメーカーも当初は非協力的でしたが、小売業に消費者からの要望があがってくることで、協力が進んだそうです。成功の鍵は、メーカーを説得したことと、Co-brandingということで、広告費の一部負担を行うことで両立させたことだったと考えられます。
 シャープの除菌イオンも同様の事例です。シャープが取った手法は、アカデミック・マーケティングです。これは、効果効能を大学や第三者機関と共同で、学術的に検証・理論化した手法です。この事例の成功の鍵は、自社がリードする効果効能の争点化、つまり、消費者の商品選択ポイントとして意識させる争点化(アジェンダ・セッティング)、効果的なブランドシンボルの設定や自社で取り組むためのモジュール化です。
 2つの事例を比較検討してみると、いずれの事例においても、視認性の高いロゴ・マーク、呼びやすいネーミング選定が行われていたことが共通点として浮かび上がってきました。そこで、この考え方を医療の分野で応用してみることにします。医療系の成分ブランディングは無いのかということを考えてみたいのです。
 病院が約束する価値とは何でしょうか。まず病院が持つファクトとして、エビデンスや知的財産、患者本位等があります。一方、顧客が期待する価値は、安心・安全、機能性、専門性、予防、健康等があります。患者の治療への貢献だけでなく、培われてきたエビデンスや知的財産による生活者の健康な生活づくり、両方を持ち得た価値づくりが必要だと考えています。医療における成分ブランディングの効果としては、他病院との差別化、需要安定化だけでなく、優秀な人材の獲得なども期待できます。
 皆さん、最近、病院系のレシピ本が増えていることにお気づきでしょうか。これらの活動をシンボルマークというアイデンティティとして考えていきたいと思います。この機能を先ほどの成分ブランドのような形で、いろいろなものに活かしていくという考え方です。病院の顔を作るという作業ができていくと考えられます。
 「かるしお」というシンボルマークがあります。国立循環器病センターは国内唯一の循環器病のナショナルセンターですが、一人ひとりが健康でいられる社会をつくるために「かるしおレシピ」が開発されました。何とか日本一おいしい病院食を作りたいというところからの発想だったと言います。患者だけでなく、予防医学として何かできないかというのが始まりだそうです。
 日本人は、平均寿命は長いのですが、介護を要さない生活と考えると10歳ぐらいの差があります。循環器病疾患がその大きな要因であることから、健康寿命の延伸のために、食生活を改善していこうというわけです。博報堂の調べでは、健康寿命延伸に役立つ食生活改善の実行度は約3割にすぎません。しかし、シンボルマークを見て、食生活を改善したいという気づきがあれば、意識の変化があるということもわかってきています。
 これは既に発売されているエースコックの商品ですが、かるしおマークがついた商品です。国循推奨ということで、やさしくおいしくということで、商品価値を与え、売られています。他の商品にも、かるしおマークが付き始めています。
 認証を受けた商品マークがコミュニケーションされることで、世の中の人々が自身の行動を認知し、ブランドを認知し、それを認証する価値を求めて企業が増えていくという流れが今、生まれつつあります。ナショナルセンターだからできるということではなく、川崎医科大学付属病院、萬田記念病院、神戸市立医療センター中央病院などでも、実際に商品化された事例が出てきています。「見える化」されることで、エビデンスに基づいた商品が世の中に出ていくことに価値があると考えています。
 現在、進行中の活動が、健康生活認証の国循基準プロジェクトです。平成26年の健康寿命延伸産業創出推進事業の委託事業として、国循と博報堂で始めました。医療機関として患者さんに寄り添うだけでなく、健常者への活動として何ができるだろうかと考えての活動です。健康生活認証の展開を通じて、たとえば予防医学として循環器病の疾患リスクを下げる運動促進やヘルスケア機器への応用など、行政との連携、企業との連携、さらには生活者へのサービスという新たな展開へつながっていくのが理想的です。
 1つの理念を基に、病院の機能性を基にした展開が、今後の医療サービスとして発展していくのではないかと考えています。病院の機能性を活かした成分ブランディングを実施するうえでは、シンボルをただ作るだけでなく、きちんとマネジメントしていくことが必要です。すなわち、事務や産学連携の担当者が兼務するという形では不十分であり、必要な人的資源をきちんと投入し、実現していくことが重要なのです。

 
第2報告 株式会社博報堂 関西支社 亥角 稔久 氏
第2報告 株式会社博報堂 関西支社 亥角稔久氏
 

3.病院のデザインとブランディング (4:10pm-4:40pm)
  株式会社博報堂デザイン 代表取締役社長 永井一史氏

 今日は1人のデザイナーとして病院のデザインやブランディングをどう考えたかという話としてお聞きください。ブランディングとは固有価値(=らしさ)の魅力を統合的に高める行為として、日々仕事をしております。
 ブランディングの中で特にデザインによるということを考えた時に、価値を定義するだけでなく、具体的なかたちに落とし込むところまで関与するのがデザインの役割だと思います。デザインの領域もモノやサービスも含むので、かなり広がってきていますが、今日はとくに形(カタチ)のところを中心にお話したいと思います。
 今日は、病院のブランディングのケースとして四国のHITO病院をご紹介します。私自身、病院の仕事は初めてでした。自分で本を買って勉強したり、話を聞いたりして、医療に関する知識を得ながらプランニングしました。
 愛媛県の個人病院の石川病院が地域の大規模中核病院として生まれ変わることが決定し、前院長の代から、娘さんの代に院長が変わり少し経ったタイミングでの依頼でした。新しい女性院長として思い切って今までの病院と変えたいというお考えでした。
 ブランディングのプロセスは、ごく普通に、リサーチし、価値を定義し、それを具体化していくという流れです。自分自身、あまり病院に行くことが好きな方ではなかったので、まず病院をよく知ることからはじめました。病院の仕事をたくさん経験していらっしゃるディレクターの方とご一緒だったので。その方から、都内で見た方がいい病院のリストを頂きました。
 まずA病院です。とてもきれいな建物です。吹き抜けがあって、気持ちいい病院だなと思いました。花屋やレストラン、サインもしっかりできています。ただ、インフォメーションのコーナーは、貼るスペースは整備されていても、あまり計算されたものではないと思いました。タリーズが入っているのがとても印象的でした。
 次はB病院です。外来は雰囲気があって、サインなども非常にきれいに作られています。ただ、動線がすごくわかりにくくて、既存のサインのうえに紙でつくった案内のチラシが張ってありました。情報デザイン的にうまくいかなかった例ですね。
 これがC病院です。コミュニティストリートといって、ストリート沿いにフードコートなどがあって、半パブリックな空間になっているというのが特徴です。残念ながら、食堂はそれほどクオリティ感がありませんでした。
 四国の病院も数か所回ったり、今までになく意識して、病院を、小さなクリニックを含めて見たりしました。感想としては、ひとつひとつを比較すれば違うものの、病院とはこうあるべしという規格が決まっていて、画一的な印象を持ちました。みんな似ているなぁというのが、率直な感想でした。
 ただ、タリーズはとても印象に残りました。日常生活の上質な部分が病院の中に持ち込まれることで、非日常的な病院と日常をつなぐ役割があるのだなと感じ、この後のデザインを進めるうえで大きなヒントになりました。
 病院内の関係者にもヒアリングに行きました。そうして見つけた課題としては、周辺の病院とは異なる独自価値の創出、良質な医師の確保、そして地域の中核病院へのリ・ポジショニングです。地域フレンドリーな個人病院から、中核病院という位置づけに変わるということ。第2次救急で受け容れすぎて、医療従事者は尋常ではない忙しさになっていました。だからこそ、少しステージを変えたいということもありました。いい医療をするためには、いい医師が必要で、そのためには魅力的な病院でなければならないという考え方です。
 石川病院のDNAは、誰も見捨てない、患者を家族のように思うということで、とても心打たれました。また、石川院長の思いとして、美術館のような空間や空気の質をつくりたいといわれて、患者さんの心や気持ちまで考えたいということで、なにか方向性がつかめたと感じました。
 院長のお話として、病院という場所は機能重視で、いろいろな医療器具が廊下に出しっぱなしにしてあったりするけれども、そういうのは嫌だと言われました。デザイナーとしてはとても理解できるお話ですが、とても女性的な感性だと思いました。そのような感性を、病院の個性に反映したいと考えました。
 新しい石川病院らしさを考えた時に、真ん中に置く価値として“患者をひとりの人として向き合う”“病を診るのではなく人を診る”と定義しました。一見、医療の目指す方向性としては当たり前の言葉に聞こえるかもしれないけれども、全人格的な人としてのリスペクトが背景にある部分が、普通に言われる患者第一とは違うと思いました。
 ブランディングであるからには、その価値に従って、医療と医療以外で実現していくわけですが、私が関与できるのはもちろん医療以外の部分です。ネーミング・ロゴ・ビジョン・空間デザイン・院内アイテム・コミュニケーションツールなどを作っていきました。
 ネーミングは3つの案が選択され、病院内で受容性調査が行われました。その結果、HITO病院に決まりました。院長が強い意思を持って選ばれました。定義した価値の意味が一番反映されているネーミングだからだと思います。
 次にロゴデザインのフェーズです。いくつか提案して決まりました。行動規範はHITO病院の頭文字を取り、Humanity、 Interaction、 Trust、 Opennessで説明しています。ロゴで表現された赤い線は生きることの支えを意味しています。
 次は、空間デザインです。メインの空間デザインはかなりの部分を担当しました。エントランスからロビーにかけてHITO ROADという名前がついています。病気でうつむきがちなときも、照明を見上げて元気になっていく予兆を感じてもらう場所として考えました。
 こちらが外来、病室、特別室の写真です。特別室は値段が高そうに思われるかもしれませんが、実はそれほど高くありません。これは、緩和ケア病棟の共有スペースです。自分自身が人生の最後に過ごす場所として、どんな場所にいたいかと考えました。リビングのような、暖炉があって、文化性を感じる書籍などがいっぱいある場所がいいなと思いました。本物の暖炉にしたいと言った時には、さすがに、やめてくれと言われましたが。本棚には、童心に返って楽しめる本なども取り揃えました。
 食堂としては、SORA Diningというダイニングを作りました。最上階にあるので空を見ながら食事できるということと、見学した他の病院の食堂って「食を抑制する」感じがしたので、おいしく食べられる感じが大事かなと思い、食欲が増しそうなことを考えて、空間を作りました。
 屋上テラスのスペースも、周囲にぐるりと、あらゆるところに座れるベンチを作りました。医師と患者・看護師・家族といった、さまざまな関係性の人たちが、向き合ったり、離れて座ったり、並んで座ったり。座る位置をフレキシブルに変えられるデザインを考えてみました。
 さまざまな院内文書にはユニバーサルフォントを利用しました。名刺や封筒、紙袋、カレンダーも作りました。それから、HITO病院のシンボルとして、よく患者の声や入院患者の声を集めるアンケートボックスなどがあると思うのですが、一番目立つところに、シンボリックな「声の箱」を置きました。
 付帯施設すべてのネーミングとロゴデザインもやっています。四国中央市の珈琲蔵というお店に入ってもらったのですが、そこにCUPSという名前をつけて店内のデザインをしたり、売店もHITO PLUS SHOPという名前をつけたりしました。ピクトグラム(絵文字)もオリジナルでデザインしました。
 院内のアートも、ホスピタリティとして重要な要素です。アート・マネジメントの専門家に入ってもらって、アートの選定も全てやりました。コミュニケーションツールに関しては、ウェブサイトや院内広報誌も新たにデザインしました。それから竣工した時に建物写真を出して、協賛社の名前を入れた広告を出すことが良くあるのですが、それは絶対に嫌だと思って、協賛の名前を入れずに、メッセージ広告を地域の新聞で展開しました。HITO病院のコンセプトにある赤いラインを新聞紙上でも象徴として入れています。
 結果的に、HITO病院という名前だったこともあると思うのですが、ローカルなテレビなど、マスメディアでかなり露出しました。HITO病院では、今回のデザインとブランディングの結果、医師や看護師の対応が良くなった、病室や診察室の居心地が良くなったという調査結果が得られています。インターナル・マーケティングも今回最も重視して行ったことの1つでしたが、職員の満足度も高く、十分な効果があったと考えています。

 
第3報告 株式会社博報堂デザイン 代表取締役社長 永井 一史 氏
第3報告 株式会社博報堂デザイン 代表取締役社長 永井一史氏
 

4. 全体質疑(5:00-5:30pm) 司会:早稲田大学ビジネススクール 川上 智子 氏

 質疑では、医療関係者、デザイン関係者、マーケティング関係者他が40分以上にわたり、活発な議論を展開しました。変化しつつある医療の社会システムの中で、今後も病院や医師が中心であり続けるのかも含めて、ミクロとマクロをつなぐ新しいビジネスモデルや社会システムの構築が必要とされています。
 病院のデザインやブランディングについても、まずは個別病院の戦略レベルから始めつつ、徐々にその重要性に対する認識を浸透させていくことが重要です。なぜなら、医療サービスにおいて、機能的便益はもちろん情緒的便益によって、治癒や回復が促され、安心や快適感がもたらされるためです。
 デザイン中心やデザイン思考による患者やその家族の顧客経験の向上、デザインベースのインターナル・マーケティングによる職員満足度の改善など、医療分野以外の専門家の知見を取り入れることで、新たな「探求と創発」が可能になります。
 日本マーケティング学会の「探求と創発」というコンセプトは、今回ご登壇いただいた博報堂デザインの永井社長のご発案によるものです。このコンセプトを医療マーケティング研究会の指針として再確認し、医療とマーケティングとデザインの関係についても、簡単に答えを出さずに、異なる立場の視点を重んじながら、考察を深めていきたいと考えています。
 末筆ながら、今回の研究会の開催日(9/12)、NPO法人日本HIS研究センター主催の第19回全国病院広報研究大会においてHITO病院が最優秀賞を受賞されました。永井社長、おめでとうございます。
 ご参加いただいた皆様にも、ご多忙のところ、ありがとうございました。休日にもかかわらず、会場をご用意下さった博報堂関西支社の皆様にも、心より御礼申し上げます。皆様の温かいご支援のおかげで、研究会が運営できています。次は11月に、マーケティング学会のカンファレンスにて、お目にかかりましょう。

 

(文責:医療マーケティング研究会プロジェクト リーダー 早稲田大学 川上 智子)

 
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