リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第11回価値共創型マーケティング研究報告会レポート
「価値共創とマーケティング・システム」

第11回 価値共創型マーケティング研究報告会
テーマ:「価値共創とマーケティング・システム」
日 程:2015年9月27日(日)14:00-16:30
場 所:大阪産業大学梅田サテライトキャンパス

 

【報告会レポート】
 第11回研究会は「価値共創とマーケティング・システム」と題し、価値共創の視点から実際の企業活動を考察し、その意義や有効性について検討いたしました。
 
 報告者と内容は以下の通りです。
 
「オタフクソースにおける価値共創マーケティング -4Psマーケティングとの対比から-」

菅生 一郎 氏(広島大学大学院 社会科学研究科 博士課程後期)

 菅生先生は、最初に価値共創マーケティング研究の潮流やどのような議論が展開されているのかについて、整理されました。つづいて、4Psマーケティングと価値共創マーケティングの違いを確認したうえで、価値共創マーケティングにおける顧客への関与とはどのようなものなのかに言及します。さらに、価値共創マーケティングの分析視角の検討や企業システムの捉え方が、新たに検討課題となっていることもお示しになりました。菅生先生のご指摘は、本研究会で議論を重ねてきた内容であり、それは4Psマーケティングと大きく異なることが明らかとなります。
 事例分析は、広島市に本社を置くオタフクソースに注目した内容でした。同社はソースをはじめとする調味料を開発・製造・販売する企業ですが、それだけに留まりません。今回は、同社の特徴的な取り組みを、大きく①インターナル・マーケティングの視点、② B to C にみる共創プロセスや、消費プロセスにおけるマーケティング、③ B to B にみる消費プロセスにおけるマーケティング、④ B to B & C にみるハイブリッド戦略、の4つで捉え、優れた実践事例をご披露いただきました。同社の分析からは、4Psマーケティングの実践とは明らかに異なる特徴が、数多く発見されました。
 これらから明らかなのは、消費プロセスへの関与にB, Cの垣根はないということです。特徴的なインターナル・マーケティング事例や「お好み焼き士」の授与からお好み焼きの実演販売など、それぞれの活動が消費プロセスを網羅するために補完し合う効果を生んでいます。特に、同社の実践で優れているのは、消費プロセスごとにコンタクトを設計するということです。このコンタクトこそ、どのような相互作用を想起するかに直結しており、同社が脈々と価値共創を重視して成長を遂げた大きな要因です。
 菅生先生の報告からは、消費財メーカーであっても、消費プロセスへのさまざまな入り込みが可能であることが明白です。オタフクソースの事例全体を通じて、価値共創マーケティングの意義が幅広く示されました。
 

「顧客に向けたサービス・プロセスの構築とマネジメントの変革 -群馬ヤクルト販売の改革事例から-」

今村 一真(茨城大学人文学部 准教授)

 米国を中心として進展したサービス・マーケティング研究には、ある特徴があります。それは、企業にとって管理を目的としたものであり、このことはサービス・エンカウンター研究の展開を見ても明らかです。サービス・エンカウンター、知覚品質といった、現在ではサービス・マーケティング研究の議論に欠かせない概念が、これまでの研究の中でたくさん生まれてきました。これらは演繹的な検討が繰り返されることで、成果をもたらしたといえます。しかしそれは、企業にとって管理の対象内におけるサービスであり、顧客からの支持獲得や顧客維持をゴールとした検討へと目が向けられ続けた可能性があります。
 ところが、近年注目されているサービス・ドミナント・ロジックやサービス・ロジックにみられる価値共創の議論は、企業側の貢献を限定的に捉えているばかりか、管理対象外のサービスを含んだ検討が進んでいます。当然、サービス交換の捉え方も、範囲も内容も異なります。こうした視点からサービス・マーケティング研究を再考すると、議論されていない領域が存在するのではないか。報告者は、こうして先行研究の空白となる領域を特定し、新たな分析視角によって事例分析することの意義を示しました。
 事例分析は、ヤクルト販売の実態に迫ります。これは、ヤクルト本社並びに全国の販売会社が、当初より4Psマーケティングと異なる企業経営を志向していたことによります。特に群馬ヤクルト販売は、顧客との対話を重視して改革を大胆に成功させました。中でも特徴的なのは、ヤクルトスタッフに積極的な顧客への関与を促すところであり、信頼関係づくり抜きに宅配の意義が示せないと考えたことです。改革を推進した星野社長は、この点を徹底的に重視し、担当エリアを縮小するなどして、顧客との対話の促進を実践します。現在では日本トップクラスの実績を誇る同社ですが、これは、ヤクルトスタッフの啓蒙に留まらない、徹底した顧客への関与に向けた転換があったといえます。
 研究から明らかになったのは、信頼関係づくりのなかに市場創造があることです。ヤクルトスタッフが信頼を獲得しないままでは、ヤクルトを販売することができません。また、絶えず信頼関係づくりを実践するということは、顧客の日常に入り込むことが求められます。これは、企業が管理しようとする枠の外で生じていることであり、そこにはヤクルトスタッフの利他的な誠実さが不可欠です。こうしたヤクルトスタッフと顧客とのあいだに生じる相互作用こそ、従来の研究が捉えなかったサービス・プロセスであり、新たな分析視角による検討は、先行研究の空白を埋める大きな意味があるのではないか。報告者は、価値共創の視点を応用することで、新たな研究上の発見があることを指摘しました。
 

ディスカッション

パネラー
  菅生一郎氏、今村一真
ファシリテーター
  村松潤一氏(広島大学大学院)

 本研究会は、報告者と参加した全員がディスカッションする点に特徴があります。報告内容の質問や意見に加え、応用可能性や実践的課題との接続など、毎回幅広く意見交換が行われます。今回も「価値共創の意義は十分に理解されながら、幅広く一般化しないのはなぜか。何が障害となっているのか」といった意見が指摘されました。今回の報告で示された事例を2つとも価値共創マーケティングの成功事例とすれば、両社とも社内では明確に4Psとの違いが認識されています。しかし、これを模倣することが困難だとすれば、それは、一般にはまだまだ、マス・マーケティング以上の効率性と即効性が確認できないからではないか。あるいは、あまりにもマス・マーケティングの合理性や妥当性が人々の中で共有されているからこそ、それとは異なるマーケティングが認識されないのではないか。このような意見交換が行われました。
 学術的には、消費概念を水平的あるいは垂直的に拡張する議論がすでに生じています。これに基づく新たなアプローチや分類にも着手する必要があり、本研究会が理論と実践を接続させながら検討する視点も進化していきます。このような問題意識も、参加者の皆さんと共有しながら議論することができました。
 
 次回はカンファレンスでの活動が11月29日(日)(於 早稲田大学早稲田キャンパス)にてございます。ここでは、群馬ヤクルト販売の事例に注目し、大阪会場で描ききれなかった現場での優れた実践を、多くの参加者にご覧いただきたく存じます。また、第12回の価値共創型マーケティング研究会は2016年3月6日(日)(於 広島大学東京オフィス、時間は未定)にて開催予定です。会員の皆様のご参加をお待ちしております。

 
菅生氏 今村
写真左から、菅生氏、今村

 
ディスカッションの様子 ディスカッションの様子
ディスカッションの様子

 
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