2012年から団塊世代が65歳を超えて前期高齢者となり始めたことで,高齢者市場への関心が再び高まってきているという。しかし,従来の高齢者市場に関する議論は,団塊世代を中心とした特性記述や断片的な事例列挙が多く,必ずしも関連分野における多大な知見を十分に活用したものではなかった。例えば,高齢者市場は異質なセグメントの集合体であるとし,その多様性を指摘する議論は多いが,多様性を分析する視点や枠組が提示されることは少なかった。いま必要なのは,単に高齢者市場の多様性を指摘するだけではなく,その多様性を生み出すメカニズムについての理解,あるいは,分析の視点や枠組の提示であろう。このような問題意識から,本稿では,高齢者市場における構造変化や多様性の源泉を読み解く上での基本的な視点について検討していく。具体的には,ジェロントロジーなどの中核概念でもある「エイジング」(aging)に着目し,それを個人・世代・社会という3つの水準で捉えることによって,高齢者市場における多様性の諸相とそれを生み出すメカニズムを明らかにしていく。