マーケティングジャーナル
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
論文
小売形態考
─ 衣料品専門店チェーンのイノベーションと商品調達ネットワークを中心に ─
東 伸一
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2015 年 35 巻 1 号 p. 34-49

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抄録

本稿では,小売商業形態論における主要な研究の潮流を概観し,その重心が制度的な視点から小売経営論のそれへと長期的にシフトしている点を,現実に生起する流通現象の焦点と関連付けながら指摘することを試みた。これを受けて,わが国における「業態」概念の曖昧性,二面性とその背景にある日本型チェーンストアの一般型についての検討をおこなった。
これらを踏まえ,本研究の主題となる衣料品を品揃えする小売形態についての議論を展開し,一般に「SPA」という呼称のもと「業態」として認識される衣料品専門店チェーン群の生成過程を明らかにした。これらと類する性格をもつわが国の専門店チェーンの一部では事業規模の拡大が推進されて久しいが,そのチェーンストア・オペレーションの態様は,店頭での多品種・小ロットをベースとする非計画的で柔軟な品揃えを重視するものであり,それは商品調達や物流分野の統合度を低下させる性質をもつ。これは日本型チェーンストアの一般型と相通じる性格である。
これに対して,本稿での事例分析の対象としたユニクロは,日本型チェーンストアの一般的特徴である店頭(小売店舗形態)の柔軟性を維持しつつ,極めて高い水準で小売フォーマットのフロントエンドとバックヤードの連携をおこなっているが,その背景では商品調達をめぐる組織間関係のネットワーク,そしてそれらを管理・調整するための活動が作用していることが明らかになった。この点において同社のチェーンストア・オペレーションにはもうひとつの日本的側面が埋め込まれていることが示唆される。

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