流通チャネルにおいて,流通業者はしばしば別の企業と長期にわたる緊密な取引関係を結ぶ。しかし,流通業者の中には,取引のオファーを受けた時に,そのオファーを受け入れる企業とそうでない企業がいる。取引関係に関する既存研究は,取引が安定的に維持されるメカニズムについては検討していた一方で,取引を開始するメカニズムについてはあまり注目してこなかった。そこで本論は取引のオファーに対する受容の違いがなぜ生じるのかという問題について,経済的要因に注目する取引費用分析に交渉当事者のモチベーション要因として制御焦点を組み入れることで説明を試みた。卸売業者の実務家に対する実証分析の結果,卸売業者が小売業者からの取引開始のオファーを受け入れる意思は,関係特定的投資と制御焦点の双方から影響を受けていることが見出された。