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研究報告会レポート

第2回宇宙航空マーケティング研究報告会レポート「『アポロから50周年×令和初の中秋の名月企画』人類の宇宙進出に求められるマーケティングとは?! 〜月のマーケティングから月面フードまで〜」

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テーマ:『アポロから50周年×令和初の中秋の名月企画』
人類の宇宙進出に求められるマーケティングとは?!
〜月のマーケティングから月面フードまで〜
日 程: 2019年9月13日(金)
場 所:宇宙ビジネス拠点(X-NIHONBASHI)

 

【報告会レポート】

本イベントの趣旨、及び「月をマーケティングする(日経BP社発行)」の概要紹介
湊 宣明(立命館大学大学院 テクノロジー・マネジメント研究科)

 湊氏は当イベントが開催されるまでの経緯・当イベントの趣旨・「月をマーケティングする」の概要を自身のJAXAでの勤務経験や教員としての活動を元に述べ、「月をマーケティングする」のメインテーマである宇宙ミッションとマーケティングに関して、宇宙計画・宇宙ミッションへの興味・関心・感情移入を目的変数とし、その変化を報道・メディア、一般国民、企業等の3つの視点と時代背景を体系的に説明しました。
 宇宙ミッションには莫大な費用と時間がかかります。そのため、宇宙ミッションの価値を高める工夫や価値を伝えるための広報戦略が必要になります。アポロ計画では、米国の時代背景やNASAによるマーケティングも相まって、人類は月に到達する瞬間に大変な興味・関心を持ちました。結果、宇宙のもつ価値は非常に大きなものとなり、企業等をはじめとした宇宙に関わる産業が広がりました。
 宇宙ミッション達成へのマーケティングの重要性と、パネルディスカッションで行われるこれからのマーケティングになにが求められるのかを考える導入となりました。

 
【パネルディスカッション①】

「アポロ計画から学ぶ、日本が月を目指すために必要なマーケティングとは?」

 はじめに、各登壇者5分程度の自己紹介を行いました。その後、マーケティングの視点からみたアポロ計画の成功・失敗をベースに、登壇者による活発な議論が展開されました。

 
登壇者 自己紹介
竹内 靖朗(日経BP『月をマーケティングする』担当編集者)
竹内氏は自己紹介を「月をマーケティングする」の出版に際する話を担当編集者の立場から述べられました。特に担当編集者独自の視点から語られる、著者の内の一人であるデイヴィッド・ミーアマン・スコット氏の話は大変会場を賑わしました。

 
佐藤 将史(一般社団法人SPACETIDE)
佐藤氏は日本及び世界の新たな宇宙産業の発展をミッションとしたSPACE TIDEのディレクター兼COOを勤めています。月面開発計画・宇宙計画の過去と未来を軸に、様々な業種の企業が、これからどのように月面開発に関わっていくのかを述べました。宇宙に関する熱い想いは、会場を夢中にさせました。

 
落合 美佳(JAXA国際宇宙探査センター)
落合氏はJAXAに新たに発足した国際宇宙探査センターに勤務しており、JAXA独自の立場からこれからの国際宇宙探査シナリオを述べました。また、月の南極・北極を中心に燃料等に使えるだけの水が存在する可能性を示唆した上で、人類が月や火星に行く目的・意義について持続可能性を踏まえて説明しました。

 
荒井 誠 (電通宇宙ラボ/宇宙航空マーケティング研究会)
荒井氏は株式会社電通 宇宙ラボの主任研究員をされており、宇宙マーケィングの推進に深く携わっています。宇宙開発に向けて人々が抱く夢・ビジョンの必要性から、それらを実現するためのイノベーション・コミュニケーションのあり方について述べました。

 
以下、会場で行われたQ&Aの概要です。
Q. 宇宙計画におけるマーケティングが果たす役割は?
A.(竹内氏)国民の関心を引きつける役割があります。ただ、アポロ計画では月面からのテレビ中継がどんどんリッチなものになっていったのに、国民の興味はしぼんでいった。予算をつぎ込んでもただ成功しないということに気づきました。
 
Q. どのように宇宙コンテンツをリッチにしつつも、国民に飽きられないようにするか?
A.(佐藤氏)一般の人も楽しめるような体験コンテンツを発信することが大切だと考えます。特に民間企業から発信することが大切ではないでしょうか。
 
Q. JAXAの立場から宇宙マーケティングに関して感じたことは?
A.(落合氏)宇宙計画に関して、どれほどパッションがあっても続かないところがあります。各企業・個人が自分ごととして月に行く理由・意義を考えることが必要だと考えます。いかに宇宙計画を一度きりのものではなく、サステイナブルなものにするのかを考えなければいけません。
A,(荒井氏)官民関わらず、求心力のある組織がミッションをたてて引っ張っていくことが大切です。また、今後、宇宙開発における倫理的な配慮も必要となっていくと思います。
A.(湊氏)官主体で宇宙計画を進めるだけでは、持続可能なミッションとはいえません。民間が主体となり、持続可能なミッションを考えたマーケティングをする必要があると考えます。
 
Q. 宇宙マーケティングをどのように考えるか?
A ,(佐藤氏)これからはSDGsを主体として、宇宙市場を一緒に事業を作っていく必要があると考えています。
A,(荒井氏)持続可能性を考えると、現在の宇宙産業の受注型の意識をなくし、企業等の力を積極的に活かし宇宙開発を民営化することが、エコシステム構築には肝要ではないかと思います。
A,(竹内氏)宇宙の話題はロマンがあります。これを上手にコンテンツとして開発していく必要があり、宇宙に行きたいというワクワク感を捉えてコンテンツにすることが大切なのだと思います。
A.(湊氏)宇宙開発は登山と似ていると思います。人々が山に登るのは、登れたらすごいと思う山がそこにあって、その山に実際に登ることができるからです。自分が登れないと思う山には人は登らない。毎年多くの人が富士山に挑戦するのは、富士山に登ることがすごいと思えることであり、かつ、実際に自分が登ることができるから。宇宙への挑戦も人々が純粋にすごいと思えないといけない。同時に、その挑戦を人々が“できる“状態にする、関わりを持てる状態にしてあげる。アポロ計画ではそれがアメリカ国民へのマーケティング活動として行われ、宇宙ミッションの持続可能性につながった。従って、宇宙マーケティングでは、相反することかもしれませんが、”すごい“と思える状態を維持することと、それを人々が”できる“状態にすることのバランスがとても重要だと思います。
 
 パネルディスカッション①終了後、宇宙への考え方が変わったという声を多数聞くことができました。
 
 
【パネルディスカッション②】

月面×フード×マーケティング 〜人類は月で何をたべるのか、食が月面ビジネスをリードする?!〜

 はじめに、各登壇者5分程度の自己紹介を行いました。その後、宇宙と食に関する登壇者による活発なディスカッションが実現しました。

 
 
登壇者 自己紹介内容
小正 瑞季(リアルテックファンド/Space Food X代表)
小正氏は宇宙をはじめとするこれからの食について、自身の所属するリアルテックファンドでの活動を通じて述べました。また、小正氏はSpace Food X代表をしており、その知見を活かした宇宙だけでなく地球の食問題を包括した話は、会場を大変賑わせました。

 
増田 拓也(株式会社シグマクシス)
増田氏は株式会社シグマクシスの活動を通じた、宇宙および地球上における食料の生産・供給に関する課題解決ならびにそれに伴うマーケットの早期創出について述べられました。生活者の視点から食の問題を考える新しい食の取り組みについてご紹介いただきました。

 
浅野 高光(株式会社ワンテーブル/株式会社エムエスディ)
浅野氏はマーケティングを使ってビジネスを作る会社である株式会社MSDの取り組みを実際の活動を通じて述べられました。特に、ワンテーブルという防災・備蓄の視点から考える食問題へと取り組みは、宇宙防災備蓄食という宇宙でも防災でもなく日常から食べられるものが宇宙で食べられるようになるという新しい考えを展開していただきました。

 
榎本 麗美(宇宙ビジネスを応援する宇宙キャスター/星空準案内人)

榎本氏はキャスターである立場から、報道・メディアとして宇宙に関する報道について述べられました。宇宙に関するテーマは内容が専門的で、視聴率が伸びにくい現状があるそうです。また、自身が宇宙に携わるようになったきっかけを体験談とともに説明していただきました。

 
菊池 優太(JAXA新事業促進部/宇宙航空マーケティング研究会)
菊池氏は現在JAXAに勤められており、その知見を元にパネルディスカッション②のモデレーターをされました。またトークテーマの選定やわかりやすいワード選定などを行い、雰囲気の良いディスカッションを進めていただきました。

 
Q. なぜ「食」に着目したのか?
A,(増田氏)食は全世界共通の行動であり、市場として巨大なためです。さらに、人間の活動として生きる為に必要なものでありながら、楽しみがたくさんあります。
A,(小正氏)地球上で食に関する優れた技術をあつめたら、宇宙市場でも勝つことができると思ったのがきっかけです。
A,(榎本氏)宇宙の話題は少し実感が湧きにくいですが、食は身近に存在するので、想像しやすいテーマだと思います。宇宙食としてあげられている培養肉も宇宙分野だけでなく、SDGsの課題解決に期待されているのは面白いです。
 
Q.「宇宙×食」に取り組む上で、感じていることは?
A,(浅野氏)宇宙の情報・技術を民間にも公開して欲しいと思います。宇宙で人間の生理現象やその解決技術を応用することで、地球上で困っている人や問題を解決できるのではないかと考えます。
A,(増田氏)日本の文化や歴史が強みになると思います。これらはお金を出して買えるものではありません。また、宇宙の閉ざされた環境で食の供給方法を考える事は地球上でサステイナブルにするために必要だと思います。
 
Q.「食」は月探査ビジネスを加速するドライバーになりえるか?
A,(榎本氏)食は生活に身近なものです。これを宇宙でたべるという想像が強力なドライバーになるのではないかと思います。
A,(浅野氏)食はわかりやすいアクションなので、ドライバーになると思います。また、食によって宇宙に参入する障壁がへりました。これも非常に大きなドライバーではないでしょうか
A,(増田氏)食は人類の共通テーマとしてすばらしいと思います。宇宙に関する特別な知識がなくても、日々の食事についてのディスカッションは行うことができます。これは宇宙への関心をもたせるきっかけになるのではないでしょうか。
A,(小正氏)宇宙と地球で食に関するソリューションは同じです。地球上で課題を解決することと宇宙で課題を解決することがより繋がっていくことができたら、十分魅力的なドライバーとなり得ると思います。
 
 パネルディスカッション②終了後のネットワーキングにおいても、新しい時代の食を考える好機であり、ディスカッションを聞いて宇宙が身近なものに感じたといった声を多数聞くことができました。
 
(文責:平山 大貴)

 
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