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研究報告会レポート

第5回カスタマー・エンゲージメント研究報告会レポート「サービス・ドミナント(S-D)ロジックの核心」

#いまマーケティングができること

第5回カスタマー・エンゲージメント研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら

テーマ:サービス・ドミナント(S-D)ロジックの核心
報告者:前田 進 氏(千葉商科大学大学院 客員教授)
    金澤 敦史 氏(愛知学院大学 准教授)
    齋藤 典晃 氏(高千穂大学 准教授)
    庄司 真人 氏(高千穂大学 教授)
    神田 正樹 氏(京都先端科学大学 専任講師)
日 程: 2021年3月19日(金)17:30-20:00
場 所:Zoomによるオンライン開催

 

【報告会レポート】
 今回の公開報告会では,我々研究会のメンバーが執筆した『サービス・ドミナント・ロジックの核心(仮題)』(同文舘出版,発刊予定)の内容を紹介するとともに,2008年以降のサービス・ドミナント(S-D)ロジッの研究動向について議論しました。
 今回は,5人の執筆者をお招きし,報告いただきました。第一報告では,前田氏から「S-Dロジックの中核としてのナラティブ分析」というタイトルで報告いただきました。S-Dロジックが最初に提案されて以降,基本的前提(FP)が修正されたり追加されたりし,近年,ナラティブとして収束したことが紹介されました。前田氏には,そのナラティブの主要概念として,(1)アクター,(2)資源統合,(3)サービス交換,(4)制度と制度配列,(5)サービス・エコシステムを紹介していただきました。
 第二報告では,金澤氏から「S-Dロジックにおける価値共創とプラクティス概念」というタイトルで報告いただきました。金澤氏には,アクター間での価値共創を促進させたり抑制させたりするプラクティスの意味や役割について説明いただきました。これに関して,金澤氏は子育ての事例を取り上げ,世帯主である夫が就労して専業主婦の妻が子育てするという従来の伝統的な子育てプラクティスが,男性の育児休暇の取得促進運動や働き方改革の推進などによって,次第に夫が家事や子育てを行うようになってきた過程で伝統的なプラクティスが変化していると説明いただきました。
 第三報告では,齋藤氏から「S-Dロジックの新たな展開-制度視点の意味-」というタイトルで報告いただきました。齋藤氏には,S-Dロジックの基本的前提11(FP11)が追加されたことについて,その背景をご説明いただきました。S-Dロジックは,サービス・エコシステム内でアクター同士が資源を統合し,価値が共創されると見なしますが,その価値共創には制度が不可欠だということでした。さらに,齋藤氏には,資源性という概念を紹介していただきました。S-Dロジックでは「資源は存在しない,資源となるもの」として資源を捉えています。これについて,齋藤氏は,石を例に挙げ,スカンジナビア地域では石は装飾用に用いられることがあり,ハワイでは音楽の道具として用いられていると紹介しています。石はそれだけで資源と見なされることは少ないが,それぞれのアクターが居住する地域によって装飾用の資源となったり,音楽の道具という資源となったりするということでした。
 第四報告では,庄司氏から「SDL視点によるイノベーションの核心」というタイトルで報告いただきました。庄司氏は,S-Dロジックの視点からサービス・イノベーションについて解説しています。S-Dロジックにおけるサービス・イノベーションとは,知識やスキルを適用する(サービスの)仕組みをイノベーションすることであるとのことでした。その事例として,UberやAirbnbなどのシェアリング・サービスを挙げています。これらのサービスは,従来のサービスと異なり,提供業者が余剰な有形資産(自動車や住居)やスキルなどの無形資産を提供し,受益者が自らの知識やスキルを提供することで価値が共創されています。これらの事例から,シェアリング・サービスには,(1)相互評価,(2)キャッシュレス化,(3)資源共有という3つのイノベーションが含まれているということでした。
 最後に,第五報告では,神田氏から「カスタマー・エンゲージメントからアクター・エンゲージメントへ」というタイトルで報告いただきました。最初に,S-Dロジックにおけるエンゲージメント研究の動向が紹介され,その後,アクター・エンゲージメントの定義および今後の研究の方向性が示されました。
 
【報告会を終えて】
 S-Dロジックは,2004年に最初に提案されてから20年足らずの間に大きく進歩してきました。サービスとサービスが交換されるという新しいレンズおよびマインドセットは,20年の間に社会学から制度やプラクティスといった概念を援用し,サービス・エコシステムという概念を生み出しました。
 我々の研究会では,これらのS-Dロジックの直近の10年間の進歩をトレースし,それを『サービス・ドミナント・ロジックの核心(仮題)』という書籍にまとめました。今回の公開報告会では,S-Dロジックの近年の研究動向と,その一領域であるカスタマー・エンゲージメント研究の動向についても参加者の方々に多くの示唆を与えることができたと思います。
 

金澤敦史氏の報告(左)と齋藤典晃氏の報告(右)
 

庄司真人氏の報告(左)と神田正樹氏の報告(右)
 
(プロジェクトリーダー:井上 崇通)

 
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