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研究報告会レポート

第44回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「顧客企業のビジネス時空間における価値共創」

第44回価値共創型マーケティング研究報告会 (三都市カンファレンス:東京会場) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:顧客企業のビジネス時空間における価値共創
報告者:今村 一真(茨城大学 人文社会科学野 教授)
    須田 騎一朗(ユナイトアンドグロウ株式会社 代表取締役社長)
日 程:2025年3月8日(土)10:20-11:30
場 所:法政大学 市ヶ谷キャンパスおよびZoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
1.サービスとしての顧客ビジネスへの入り込み

今村 一真(茨城大学 人文社会科学野 教授)

 近年は、サービス中心の企業活動の確立が問われています。このとき、サービス中心の志向での実践が求められるといえますが、その考え方は製品中心の志向を批判して登場しました(Grönroos, 2006; Vargo and Lusch, 2008)。これは、志向の転換を促す一方で、製品志向 vs サービス志向のどちらか一方を突き詰める結果をもたらしています。また、サービス志向はソリューションのカスタマイズを強調する力になっていったといえます。ソリューションのカスタマイズは重要な差別化要素であるほか、企業は補完的なサービスを提供するだけでなく、組織アーキテクチャやビジネス関連の再構築に着手しなければならないからだともいえます。結果として、大幅な革新性を備えたサービス提供体制を必要とするともいえ、デジタルを伴うサービス中心の企業活動に転換するためには、機敏で共創的なイノベーションのためのプロセスが必要です。
 これは、デジタル・サービス化を従来のサービス化と区別して検討する必要があるという見方を強めます。デジタル化は顧客の価値提案を変え、企業が顧客との共創を通じて価値を創造し、進化する顧客ニーズに対応するほか、デジタル化は機敏性を促進しているという面もあります。より具体的には、価値共創への顧客やエコシステムのアクターにより大きな関与を促進するために、異なる働きかけが必要となります。こうした状況において、柔軟なサービス提供体制への転換とはどのようなもので、とりわけ企業のIT部門にどのような視点が必要で、実情に即した対応をどのように進めていくことができるでしょうか。とりわけ本研究会では、企業のIT部門の改革をどのように進めることができるのかに注目します。IT部門に入り込み伴走しながら改革を推進する企業の取り組みに注目するのが、今回の研究報告会のねらいです。
 今回注目した企業「ユナイトアンドグロウ」は、「シェアード社員」が顧客企業に関与することで、顧客企業のアクティビティに関与しながら力を発揮していくといえそうですが、いったいどのようにして妥当性の高い提案を確立するのでしょうか。どのような手順で改善を進めながら、望ましい成果へと到達するのでしょうか。そして、妥当性の高いサービス提案をどのように確立しているのでしょうか。デジタル・サービス化の進展する企業において、IT部門の改革を伴走する同社の実践に注目することで、toBの事例ではありますが、価値共創マーケティングの対象となる、顧客の生活世界への入り込みの実践を検討していきます。
 
2.講演「シェアード社員」ビジネスモデルについて

須田 騎一朗(ユナイトアンドグロウ株式会社 代表取締役社長)

講演の様子 企業の成長にとって、情報システム部門は本当に重要です。ところが、良いシステム・エンジニアと出会うのは難しいし、マネジメントの評価も難しいのが現状ではないでしょうか。とりわけ中堅中小企業では、IT社員の必要性を認識してもらうことは容易くなく、費用の捻出でも問題になることが多かったです。同社が創業した最初の5年間は確保したIT人材を配置する顧客企業が見つからなかった。ところが根気強く取り組みを続けて黒字化していくようになると、顧客との関係が維持されてノウハウも蓄積されるようになります。社員間でノウハウを共有しながら事業活動を続けていくうえで、特徴的な社風が生まれていきました。
 創業者の須田氏はかつて起業家を志向していました。最初の起業はコールセンターでした。その経験が、ほかの企業が手掛けないアプローチへの探求につながっています。現在のユナイトアナンドグロウ社もまた、コールセンターのときと同じように、プロダクトを持たない会社としてスタートしました。いわば、誰もやらない、あるいは誰もやれない仕事を担うビジネスにしようとする考え方は、こうして生まれたのです。
 コーポレートIT部門の業務が難しいのは、企業内のあらゆる部署と連携して「何でもやってほしい」というニーズの部分でした。サービス精神や課題解決力、人間力が求められるうえに、専門的な技術も必要です。こうしたプロフェッショナルが求められていたのです。そこで同社は、社員の時間と知識を顧客間でシェアリングすることにしました。システムを計画・発注・運用する仕事(顧客の社員がする仕事)を準委任契約で代行するようにしたのです。当初は黒字化するのに手間取りましたが、現在は軌道に乗るようになったのです。現在の“シェアード社員”(以下「社員」)は1人あたり3.5~3.7社を担当しています。これは、一般的なITコンサルタント企業が対応する企業数よりも少なく、きめ細かく顧客企業に対応することで、特徴的なビジネスを機能させることができています。現在は、横断的な働き方を社員が主体的に実践することによって、社員が自ら合理化効率化を進めるかたちが生まれています。
 当初は中小企業をターゲットに考えていましたが、社員の向上心も手伝って、現在は社員50~1,000名規模の企業を対象に社員を送り込んでいます。ユニークなのは、コンサルタントや人材派遣でなく、会員企業との準委任契約にすることで、フラットな立場で顧客企業の課題を聞き取って、社員が自己の判断でどのように問題を解決していくか考えるようにしていることです。いまでは同社の強みとなっているこの特徴も、実際には苦難の末に行きついたものでした。顧客企業にとって未解決な問題ほどブルーオーシャンであり、同社にしか挑戦できない領域です。そこで、顧客が最も困っていることだけフォーカスすることを重視するほか、そのための社員の助け合いも大切にしようとしました。
 同社は未解決な問題を見つけて率先して取り組む一方で、「やらないこと」も決めました。それは、①ソフトやハードは売らない、②製品紹介の謝礼をもらわない、③遠方のお客様とは取引しない、④大企業とはつきあわない、⑤下請けはしない・使わない、⑥値引きには応じない、⑦お客様を評価選別しない、⑧ベンダーとして中立の立場でいる、です。結果的に「混ぜればゴミ、選べば資源」といった考えが社内に定着するようになりました。手間でコストでしかないと思われるような業務の束も、その中に対処すべき業務として挑戦すべき課題は存在するのです。こうした思考で行動できる社員を育てて顧客企業に入り込むことで、特徴的な取り組みが浸透していきます。完璧な仕事はできませんが、前向きな考え方を持つことで顧客企業との関係は続いていきます。現在は顧客企業との関係が長期におよび、年間継続率80%以上でありながら、大口の顧客企業はありません。とはいえ、自然集客100%で事業活動が継続しています。こうして、採用する社員の性格や連携の方法をきちんと整理することで生まれてきました。
 現在はかなり事業活動が軌道に乗っているが、いまでも未解決な問題があります。例えば、①何を学習するべきか、②どのような顧客企業を見つけるべきか、③どれくらい仕事をしていくら稼げばよいか、④誰と誰がチームになるべきか、⑤顧客企業の課題は何か、といったものです。これらはいずれも単一の解答に収斂されるものではありません。その答えや対応を社員の判断に委ねるしかない面はずっと残ります。しかしそれを、同社はあえて強みとして考えることにしています。本当は「コントロールできない」のですが、現在は「コントロールしない経営」でいくしかないという考え方になっています。
 このほか現在の同社は、顧客企業との関係性の中で新たな提案ができる余地をつくっています。また、顧客企業は自社からの距離に範囲を決めてドミナントにすることで、社員は複数の企業をフォローできる体制の中で活躍します。そのうえで、「儲からない仕事を集積する」ことに注力します。こうすることで、ほかのITコンサルタントなどと競合することはなく、値付けで困ることがありません。これを前提に、いわば“儲かりそうにない仕事”に着手することにしています。それは、将来の粗利益の増加につながるといえ、同社の特徴的な成長の原動力になっています。
 
3.ディスカッション
講演の様子 本研究報告会の冒頭で、顧客企業のアクティビティに関与しながら、どのようにして妥当性の高い提案を確立するのか、どのような手順で改善を進めながら、望ましい成果へと到達するのかの解明の手掛かりとして須田氏にご講演いただきました。すると、これらの問いはすべて、社員が自ら考えて実践することに帰結していました。但し、社員がアクセスするさまざまな資源はエコシステムと呼べるでしょうし、それは価値共創を通じた関係性で説明できるようでもありました。社員の主観にそのかたちがデザインできる必要があり、価値は事後的にしか説明できないものとなります。顧客企業がこうした社員の活躍や貢献すれば関係は継続するといえ、それが驚異の年間継続率80%以上、自然集客100%で営業活動を不要とする同社の成長の原動力だと考えられます。質疑でもこうした観点から理解を深めようとする意見が相次ぎ、議論が盛り上がりました。
 
講演の様子 顧客企業の問題解決を主導する社員が顧客企業に入り込み、「儲からない仕事」を発見して着手することで未解決の問題を克服していく。また、社員の主体的な思考に基づく実践は「コントロールできない」ものとなります。しかしそれは、価値が事後にしか生じないからやむを得ないといえるほか、顧客企業にとってサービス提供の必要性が意識される結果を招きます。これが顧客企業との関係性の持続につながり、かつ社員の連携による問題解決の水準の向上、サービス提供の幅の確保などが推進されることで、同社の特徴的な挑戦はさらに支持されながら機能することにつながります。まさに価値共創マーケティングの実践が確認できるといえ、本日も有意義な機会となりました。今後ともこうした活動を続けて参りますので、引き続きよろしくお願いいたします。
 
(文責:今村 一真)

 
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