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研究報告会レポート

第4回ファッション・マーケティング研究報告会レポート「福山デニム産地の持続的活性化についての考察」

第4回ファッション・マーケティング研究報告会(東京) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:福山デニム産地の持続的活性化についての考察
報告者:内海 里香(文化ファッション大学院大学 教授)
    黒木 美佳 氏(株式会社ディスカバーリンクせとうち 企画生産部マネジャー / 繊維産地継承プロジェクト委員会「HITOTOITO」副委員長)
日 程:2025年9月20日(土)17:00-18:30
場 所:青山学院大学 青山キャンパス 17号館8階 17803教室
 
【報告会レポート】
 第4回研究報告会は、日本のファッション産業における大きな課題「繊維産地・産業の活性化・持続可能性」について取り上げました。本研究会のリーダーである内海がまず、自身の研究成果から「全国の繊維産地の概況と主な産地の比較分析」について報告、ファッション製造における川上機能の集積とそれらの連携により形成された繊維産地において、一部機能が廃業となり機能連携ができない危機に陥っている例があること、その一方で、独自の創造性、技術の専門性を兼ね備えた一部の企業は海外企業から評価され、業績を高める事例も見られることなど、繊維産地・産業の現状について解説しました。
 そして、日本の繊維産地の中でも天然繊維を主として扱う産地(桐生:絹織物、尾州:毛織物、福山:綿織物)を取り上げ、それら産地を繊維工業の製造品出荷額、事業所数、従業員数を2021年実績と2010年とで対比すると、福山産地が、事業所数・従業員数をほぼ維持し、製造品出荷額を大幅に伸ばしていることが指摘されました。その要因としては、福山産地は古くは備後絣の産地として綿織物に関する専門性・技術性を有していましたが、その製品に関してデニム生産に転換し、ここ10年ほどの間でデニムという繊維カテゴリーがユニクロなどのSPA、欧州ラグジュアリーブランドも手掛ける製品となって大きく成長したこと、また近年、地域ブランドを創造して、製造業者が直接最終消費者に営業活動を行うD to Cなどで表に出るようになって、デニム産地としての市場認知を高めていることなどが挙げられました。
 福山産地の持続的活性化の要因について、マーケティング視点で整理すると、まず価値の創造においては、①主製品がデニム製品であること、②製造技術の独自性、専門性の高さ、③「カイハラ」という紡績から織布、整理加工までの一貫生産ラインを持つ代表的な企業の他に、中堅企業が連携して独自の地域ブランドを開発、製造・販売する動きが活発化、④サステナビリティを重視する取り組みを積極化ということが指摘されました。また、価値の伝達の側面では、①自社が創造する価値を顧客(取引先)、学生(将来の産地の担い手人材)に伝達する目的から工場見学やワークショップ等の情報発信を積極的に実施、②地域内の企業連携や産地内の若手勉強会、産地ツアーの開催、大学講演など様々な広報活動を実施していることが挙げられました。最後に、価値の提供においては、一般消費者向けの販売拠点「FUKUYAMA MONO SHOP」の開設や地域発の有力セレクトショップ「PARIGOT」が「JAPAN DENIM」のMD製造販売に参画し、東京でも販売したりしている点が述べられました。
 
内海による発表資料の抜粋
内海による発表資料の抜粋
 
研究報告会の様子 次に、この福山産地の持続活性化を担い、ユニークかつ主体的な取り組みを行っていることで各方面から注目を集めている、株式会社ディスカバーリンクせとうちの黒木美佳氏から「福山デニム産地の過去・現在・未来」と題して、ご報告頂きました。
 黒木氏からは、今やデニム・ジーンズの発祥地である米国ではデニムは生産されておらず、代わって「ジャパンデニム」の海外での認知度と評価が高まっていること、その背景には、セルヴィッジデニム(古いシャトル織機で織られた70~80cm幅の耳付きデニム)、ジーンズのシルエットや細部にまでこだわった製造手法(縫製技術)といった質の高い製品づくりがあると指摘されました。
 また、デニム生産量日本一のまちである福山には、デニムに関連する事業者が無数におり、さらには作業着ユニフォームに関しても全国の60%のシェアを占める産地になっていること、絣、デニム、作業着ユニフォームと「ワークウェア」づくりのDNAが地域に脈々と受け継がれていることが指摘されました。そして、この産地を守り、更に発展させるために現在取り組んでいることとして、「産業ツーリズム」、「産地内連携プロジェクト」、「サステナビリティ」、「人材育成・技術継承」があり、特にサステナビリティに関しては、不要になったデニム製品を回収して廃棄物の削減やその有効活用を目指す「FUKUYAMAアップサイクルプロジェクト」や持続可能な産地型サーキュラーエコノミーを実現するプラットフォームを目指すプロジェクト「REKROW」が紹介されました。
 さらに、縫製技術者の養成・技術継承を目的とする地元の縫製企業8社によるプロジェクト「HITOTOITO」デニムスクールについても詳細な報告が行われました。
 
【報告会を終えて】
 今回の研究報告会の主題である「日本の繊維産地・産業の活性化・持続可能性」は、本研究会のリーダーである内海と企画運営メンバーである篠原航平氏が実際に取り組んでいる研究テーマであり、篠原氏が報告した第1回研究報告会に続き、今回この研究報告会を開催できたことを有難く感じています。
 日本の高度経済成長を支えた一つの産業である繊維産業・産地が現在置かれている状況は決して楽観できるものではありませんが、それでも日本人ならではの創意工夫、真摯なものづくりの姿勢、古いものを大切に保存・継承していく様子が、繊維産地に行くと数多く見られます。
 また、近年、LVMHが日本の繊維産地の企業に積極的に投資をしていることからも、日本の繊維産地・産業の国際競争力が実は高いことが証明されてきています。鉄鋼や自動車といった重工業製品に比べると、その付加価値額は非常に低いかも知れませんが、それでもこれからの人口減少・少子高齢化社会の中で、地方経済を支えている繊維産業はもっと評価されても良いのではないでしょうか。
 グローバル化したファッション産業・SPA企業によって、ファッション産業は世界で2番目に地球環境に負荷を与える産業とされてしまいました。それから脱却する一つの方法・解決策として、我々はもっともっと繊維産地や繊維企業、産地発のスローファッションに対する関心を持つべきだと改めて感じさせてくれた研究報告会でした。
 最後に、今回ご報告頂いた株式会社ディスカバーリンクせとうち 企画生産部マネジャー / 繊維産地継承プロジェクト委員会「HITOTOITO」副委員長 黒木美佳氏、並びにご参加頂いた方々に厚く御礼を申し上げます。
 
ディスカバーリンクせとうち:黒木氏とご来場者を交えての記念撮影
ディスカバーリンクせとうち:黒木氏とご来場者を交えての記念撮影
 
(文責:内海 里香)

 
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