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第47回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「価値共創マーケティングの理論と実践」 |
第47回価値共創型マーケティング研究報告会(カンファレンス2025) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:価値共創マーケティングの理論と実践
日 程:2025年10月12日(日)13:10-14:30
場 所:法政大学 市ヶ谷キャンパス
【報告会レポート】
1.「価値共創マーケティング研究の到達点」
村松 潤一(岐阜聖徳学園大学 経済情報学部 教授)
第一報告においては、価値共創マーケティングという新たな概念を提示することになった契機と経過が説明される中で、その新規性が何処にあるかを改めて明らかにする機会となりました。即ち、価値共創とは生産プロセスではなく消費プロセスをその舞台とし、企業がそこに入り込み、顧客にとっての価値である文脈価値を共創することをいい、さらに、その向上を意図するものが価値共創マーケティングであるとしています。そして、具体的に伝統的マーケティングと何処がどのように違うかが示された上で、価値共創マーケティングのマネジメント体系が4Cアプローチ、文脈マネジメント、組織のマネジメント、成果のマネジメントの視点から明らかになりました。最後に、価値共創マーケティングの到達点として、その成果をどのように捉えるかを明らかにする段階にあるとし、試論として、交換価値ではなく文脈価値に紐づけられたプライシング、市場メカニズムとは異なる生活世界での新たな調整メカニズムを構築することが必要であることが指摘され、それが現時点での研究課題となっていることが述べられました。このように全体を通して、研究成果と課題を俯瞰した報告が行われました。
2.「価値共創型サービスビジネスモデル開発に関する取り組み」
宗 陽一郎(株式会社神戸製鋼所 技術開発本部 デジタルイノベーション技術センター 専門部長)
メーカーにとって、メーカーであればあるほど製品を売ることを主眼としてきたといえ、それは神戸製鋼所も同じでした。ところが、事業を存続するうえで、あるいは新たに台頭する新興国メーカーとの同質的競争に屈しないために、これまで製品に対し従属的な関係に過ぎなかったアフターサービスに脚光を当て、いかに顧客企業との価値共創を実りあるものにできないか、宗氏は研究を始めたといいます。
神戸製鋼所が顧客企業に納品する製品は、顧客企業にとってコア事業の基幹システムである場合が殆どです。稼働停止は許されず、定期的な点検や修繕が必要であり、顧客企業との関係は継続的に機能します。時には顧客企業もメーカーも故障の理由がわからないこともあるほか、あるいは業務改善や効率化を図るうえで、いかに顧客企業に貢献し得るかをともに考える機会もあるため、いかに価値共創の機会を見逃さず、あるいは機会を創出して成果に結びつけることが重要になるのではないかといえます。
こうした問題意識に基づいて始まった実務家とアカデミアとの共同研究によれば、技術的支援だけでなく顧客企業との共同作業であり、相互学習のプロセスであることがみえてきました。特に、稼働停止せず問題解決するためには、ともに状況を共有しながら複雑になる業務となる課題を克服しながらサービス提供を可能にしている実態が浮かび上がりました。もはや、アフターサービスが提供時の製品品質の回復を目的とするならば、その寄与に留まらない活動があることを踏まえて、この部分を全社的に再認識することでサービス中心のビジネスモデルに転換できないか模索しているところです。
仮に、サービス中心のビジネスモデルを定義しようとすれば、サービス提供を可能にするエコシステムを説明できなければなりません。なぜならサービス提供に必要な資源をある程度特定できない限り、安定的にサービスが機能しないからです。そこで今後は、サービス・エコシステムに基づく行動様式の標準化が推進できないか、さらにそこにIT活用比率を高め、効率的かつグローバル展開を拡大しながら企業の成長を可能にしたいと考えています。
3.「企業が取り組む健康づくり支援における価値共創とその展開:花王株式会社の支援サービスを例として」
上西 智子(東北大学大学院 経済学研究科 博士研究員)
本研究会の成果物である『価値共創マーケティングの深化』「第Ⅱ部ケース編」において、「第17章 企業が取り組む健康づくり支援における価値共創」をご担当になった上西氏から、その内容をコンパクトにご紹介いただきました。なおこの章では、本研究会代表である村松(2017)によって提示された「価値共創マーケティングの対象領域と理論的基盤」のなかで論じられている「ソリューションビジネスと価値共創・価値共創マーケティング」の概念をもとに、近年のソリューションとして関心の高い健康づくりに焦点した国内企業の取組み(花王株式会社(以下、花王)の事例)を4Cアプローチの観点から検討しています。そのうえで、本報告においては、ソリューションビジネスでの企業と顧客の価値共創における役割と関係性(支援者と被支援者)についても説明を加えるなど、本研究会でこれまでに蓄積されてきた知見や理論についての紹介がありました。ここでは、近年の健康づくり・健康課題への関心についても、国際社会と国内の動きやその関連性、とりわけ従業員の健康づくりにおける「健康経営」という考え方の最新の方向性などが示されています。また、従業員の健康づくりに先進的に取り組む健康経営企業のトップランナーであり、この企業内における健康づくりや健康課題解決に向けた独自の健康づくりは自治体や他の企業、さらには生活者に向けて積極的に展開している花王の取組みを検討した内容についても報告がありました。そのうえで、特に花王の健康経営では、社員と家族が参画する実践型の活動が推進されており、その優れた事例は4Cアプローチの観点で整理できることを明確にしています。興味深いのは、健康と生活習慣の見える化の取り組みにおいて健康づくりの支援者と被支援者が直接的なコミュニケーションによって「動機づけ」されている点などであり、本研究会が対象とする価値共創の実践事例として捉えられるものです。何より、ソリューションにおける価値共創と価値共創マーケティングの展開を関連づけて検討することの意義を示唆するものであり、大変有意義な報告となりました。
4.ディスカッション
カンファレンスでのリサプロらしく、多くの参加者に恵まれ熱気に満ちた研究会となりました。成果物として刊行された『価値共創マーケティングの深化』の実際に関心をお持ちの方も多かったという印象です。あるいは、生活世界にフォーカスしたほかの研究会の動向やオーラル・セッションで報告された親和性の高い研究成果も増えているからでしょう。カンファレンスでこれらを一度に感じることができる、貴重な機会だったかもしれません。ぜひ、今後の研究会活動に期待していただきたいと思いますし、さまざまな理論的含意がもたらす示唆に加え、新たなマーケティングの視座がどのように機能するのかをめぐり、更なる探究を多くの皆さんと進めることができればと思います。次回研究会は11月8日(土)13:00-(オンライン)を予定しております。引き続きよろしくお願いいたします。
(文責:今村 一真)

