ニュースリリース

第104回マーケティングサロンレポート「日本マーケティング本 大賞2019」大賞 受賞記念マーケティングサロン 『1からのデジタル・マーケティング』

第104回 マーケティングサロン:東京
「日本マーケティング本 大賞2019」大賞 受賞記念
マーケティングサロン
『1からのデジタル・マーケティング』

日程:2019年12月20日(金)19:00-21:00
場所:BOOK LAB TOKYO(渋谷区道玄坂)
ゲスト:編著者/西川 英彦 氏(法政大学 経営学部 教授 / 日本マーケティング学会 副会長)
    編著者/澁谷 覚 氏(学習院大学 国際社会科学部 教授)
    パネルディスカッション・コーディネーター/安成 蓉子 氏(MarkeZine編集長)
 
【サロンレポート】
 本サロンは、「日本マーケティング本 大賞2019」において大賞を受賞された『1からのデジタル・マーケティング』について、編著者である西川英彦先生、澁谷覚先生をお招きし、お話を伺うものです。サロン前半は、西川先生と澁谷先生から、デジタル・マーケティングを理解する上で前提となるデジタル社会の基礎理論と、伝統的マーケティングとデジタル・マーケティングとの違いや関係について、お話いただきました。後半は、マーケター向け専門メディア『MarkeZine』の安成蓉子編集長をコーディネーターにお迎えし、パネルディスカッションを行いました。
 

【概要】
西川先生のご講演:
 デジタル・マーケティングは、環境の変化が早く、テキスト化が難しいという意味で、“禁断の書”と言われてきました。体系的に整理したテキストがなかったため、『コトラーのマーケティング4.0』をはじめ多くの書籍や論文を参考にしながらテキスト化したのがこの『1からのデジタル・マーケティング』で、マーケティングの各分野に精通した専門家が集結して執筆しました。
 リアル社会では、リーチ(到達人数や範囲など情報の量)とリッチネス(内容の濃さなど情報の質)はトレードオフの関係にあることが分かっています。しかし、インターネットや情報端末がその関係性を大きく改善させたことで、リーチとリッチネスを共に高めることが可能になりました。企業と消費者がネットにつながった情報端末を通して、いつでもどこでも接点を持つことが可能というデジタル社会に突入しています。このことが今までのマーケティングの前提を大きく変えることにつながったわけです。
 Amazonは、従来の書店形態のビジネスと比較して、リーチとリッチネスを同時に高めることに成功しており、それが競争優位をもたらしています。例えば、テール商品(売上数の少ない多様な商品)をリコメンデーションすることで、ロングテールの恩恵を得て、リーチと同時にリッチネスを高めているのです。デジタル化により、企業は優位性を高めることが可能になりました。しかし、デジタル化すれば、どんな企業も自動的にリーチとリッチネスの両方を高められるわけではありません。両方を高めるデジタル化の「仕組み」の部分を考える必要があります。その上で、さらに第3の軸として「アフィリエーション」、つまり顧客の身になって顧客の利益を重んじた行動がとれるかが、優位性の鍵となってくるのです。
 

澁谷先生のご講演:
 伝統的なマーケティングでは、企業と顧客の関係性に焦点が当てられてきました。しかし、SNSにより顧客同士のコミュニティが先にデジタル化してしまっている現代において、顧客は顧客同士で情報を取得し合っているのが現状です。つまり、CtoCのコミュニケーションの重要性が増しているのです。
 日本語では「デジタル化」という場合に、従来アナログで行われていたプロセスを単にデジタル技術に置き換えるケースと、ビジネスモデル自体をデジタル技術によって変革するケースがあります。前者をDigitization、後者をDigitalizationと表現することもあります。
 企業から市場や消費者に向けて行うBtoCのマーケティング・コミュニケーションを、単にソーシャルメディアなどのデジタル・コミュニケーションに置き換えることだけがデジタル・マーケティングであるわけではありません。企業が消費者相互のコミュニケーションの中に入り込んでいくという、従来のマーケティングとは異なる考え方をしていくことが、これからのデジタル・マーケティングなのかもしれません。消費者とともに製品開発を行う共創の考え方などは、その一例です。しかしまだその全体像はよく見えていません。
 消費者間の口コミには、オフラインとオンラインの軸と、インタレストグラフとリアルでの交流関係のあるソーシャルグラフの軸があります。デジタル世界では、オフラインと興味関心でつながるインタレストグラフにおいての情報交換も活発ですが、これを企業がどのようにマーケティングに利用できるかについては、期待されているほど簡単ではないのが実情です。
 
パネルディスカッション:
テーマ1:リーチとリッチネスの両立って本当ですか?
(安成様)「リーチとリッチネスの両立」という言葉を表面的に受け取ると、マーケティングを狭いプロモーション領域で捉えてしまっている人は、違和感を持つでしょう。そんな方たちが、マーケティングの概念を正しく捉えるために、どうしたらよいのでしょうか。
(西川先生)例えばamazonも最初は単なるオンライン書店だったが、徹底的な顧客の視点で、ビジネスモデルを考えたことで成功しています。マーケティングとビジネスモデルをセットでやることが重要です。4Pでマーケティング・ミックスを考えるときに、一貫性のある(ミックスジュースのように“美味しい”)ミックスにするためには、ビジネスモデルを考えないといけないのです。
(澁谷先生)「デジタルでこれをする」というように、デジタルとアナログを切り分ける必要はないです。オンライン・オフラインに縛られずに考えることが重要です。
 
テーマ2:デジタル社会のマーケティング・ファネルとは?
(安成様)これまでのマーケティング施策は、パーチェスファネル上部の「認知」から下部の「購買」へ進めるプランニングが一般的でした。でも、今は最下部のロイヤル顧客を捉えて、いわば逆引きして考える時代に移行していると思います。このように視点が変わったときに、これまでのマーケティング論はどこまで通用するのでしょうか。
(澁谷先生)確かに、これまではマスメディアというツールを使用していたために、ロイヤル顧客を作るための漏斗型のファネルであったわけですが、本来は、個々の顧客の課題を解決していく顧客視点のファネルがマーケティングであろうと思います。
(西川先生)その上で特にデジタル社会では、データドリブンマーケティングにより、顧客がカスタマージャーニーのどの段階にいるのか、そのタッチポイントを解析していくことが可能となり、顧客視点になることが容易になったと言えるでしょう。
 
【Q&Aセッション】
 パネル後は、参加者の皆様からの質問で、活発な議論が行われました。
Q: 実務家に向けた理論的な示唆はないか。
(澁谷先生)カスタマージャーニーを丹念に構築することで、コミュニケーション、プロモーションのヒントが見えてくるはずです。
 
Q: Digitizationネイティブに対応していくにはどうしていけばよいか。
(澁谷先生)若い世代ほど、写真と映像で情報を得ています。
(安成様)Z世代の検索はインスタがメイン。Googleは検索結果がテキストで表示されるため、UIが前世代的と捉えられており、あまり使いたくないようです。
(西川先生)インフルエンサーは、「#PR」をつけることに「ハッシュタグが汚れる」という感覚があるそうです(笑。
(澁谷先生)顧客も広告臭があるものを避ける傾向がありますからね。
(西川先生)企業とタイアップして自らが製品開発をすればPRにはならないですから、インフルエンサーによる商品開発も増えています。
 
Q:BtoBのマーケティングでは、顧客の中に入っていくことに困難さを感じている。
(西川先生)トレンドとしては、BtoBがBtoC(Cは発注担当者)化しています。BtoBでも、企業の担当者がポイントを得られる仕組みなどが参考になるかもしれません。
(安成様)今は、顧客がネットなどで自ら情報収集をするため、営業の方はなかなか顧客に会うことができません。会えるのはすでに受注がきまった時、と言う状況も多く、非対面での情報提供の重要性がより高まっています。
(澁谷先生)商材にもよりますが、BtoBの意思決定モデルの流れは、課題の特定→情報収集→Request For Proposal(RFP)→選定→決済、です。今は、課題特定時に検索キーワードが決定し、絞り込まれてしまい、RFP時に初めて営業担当者の活躍の場が発生する状況になっています。つまり、広告が機能するのは、最初の課題特定時よりもさらに前の段階ということになります。
 
おわりに:
 クリスマス目前の渋谷の雑踏の中、短い時間でしたが、情報をデジタルで入手するのが当たり前になった時代の、マーケティングのエッセンスを伺うことができました。これで年内最後のサロンが無事に終了致しました。本年も講師、サロン委員、受講者の皆様のおかげで、サロンの活動を継続することができました。この場をお借りし、本年のマーケティングサロンに携わって頂きました皆さまに、心からのお礼を申し上げます。
 

写真左は澁谷先生・安成様・西川先生、写真右は集合写真
 

(文責:小谷 恵子)

 
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