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第9回マーケティングサロンレポート
「月に行ったトランク『ゼロハリバートン』の出世魚戦略〜海外老舗ブランドの買収とブランドの再構築」

第9回 マーケティングサロン
「月に行ったトランク『ゼロハリバートン』の出世魚戦略〜海外老舗ブランドの買収とブランドの再構築」
日程:2013年8月29日(木)19:00~21:00
場所:日本マーケティング協会 東京本部
ゲスト:エース株式会社 常務取締役・MD本部長 加来 剛 氏
サロン委員:富川淳子・堀田治・小南陽子

 

ゼロハリバートン1938年アメリカで創業、アルミニウム製アタッシュケースで有名な『ゼロハリバートン』。アポロ11号による月面着陸の際、月の石を入れて持ち帰った「月面採取標本格納器」を製造したことで知られるこのブランドを2006年エース(株)が買収し、「ブランドの伝統を買い、力のあるブランドに生まれ変わらせる」ために高級路線を強化する成長戦略に取り組んだ。その戦略は名付けて“出世魚戦略”。
今回のサロンでは、実際にブランド再構築の戦略立案と実行を担当された加来剛氏のプレゼンテーションが約1時間。その後の10分間の休憩時間は、名刺交換のほか、会場に展示した『ゼロ』のトランク5種に実際に触れ、デザインや使用感、感触を確かめる機会とした。
以下に加来氏によるプレゼンテーションの内容を要約して報告する。

 

ゼロハリバートンブランドの買収の経緯
1940年大阪で創業したエース(株)は、バッグとラゲージの総合メーカーとして、現在、25,000アイテムの商品を扱っている。かつてはサムソナイトをはじめ、海外ブランドはライセンス契約による取引をしていたが、自社ブランドこそが収益をもたらすという判断により、2006年以降は自社ブランド化を進めているという。
エースは海外ブランド買収の際には3つの条件を明確にしている。その1つ目は、エースが事業の柱としている「バッグ」、「ラゲージ」、「旅行」の範疇に入るもの。2番目は、伝統やストーリーなど、短期間では作れないブランド独自の価値を持っていること。そして3番目は、ニッチでもその領域で強いブランドであること。
1938年アメリカで創業した『ゼロハリバートン』は上記の3つの条件を適えていたため、エースは初の海外ブランド買収先として『ゼロハリバートン』を選び、2006年まずは委託していた製作工場は従来のままにして、営業権だけを買収した。

 

Yellow tail strategy(出世魚戦略)について
出世魚はその成長過程で名前が変わる。『ゼロハリバートン』というブランド名は変わらないが、「良いものを食べて大きくなっていこう」という意思を込め、戦略に「出世魚」と名づけたという。
買収当初、全てアメリカ人に経営を任せ、しかも製品の製作体制は買収前と同じ組織だった。このように組織が磐石の体制ではなかったにもかかわらず、売上を増やそうと経費をかけたが、それはただ販売網を広げたにすぎなかった。その結果、修理体制などが整わず、ブランドイメージに傷がつくという事態に。これが一番の痛手となり、早急な立て直しの必要に迫られたのである。
2013年にゼロが75周年を迎える時期をスタート時点と定め、2011年リブランディングのための中期経営計画「出世魚戦略」を立て、実行に取り掛かった。戦略立案にあたって行ったSWOT分析の結果の一部を紹介すると
*強み―「月に行ったトランク」というヒストリー、幅広い製品ラインナップ、アルミ製品の優位性(アルミ製品は簡単に作ることができない。大規模な設備投資が必要)
*弱み―販路が狭い、サプライチェーンの構築ができていない、型代に費用がかかるためデザインが変化していない
*機会―トータルプレミアムラゲージの座が空いている、アルミのラゲ―ジのコンペティターがいない
*脅威―安定したモノづくりが望めない
この分析を参考にして立案した「出世魚戦略」の説明に入った。2006年当時は製品製作部門を買収していなかったが、この時期以降、自社で管理。中国の自社工場を利用し、アルミのラゲージのデザインおよび製作を開始することにした。ただ、デザインにおいて、1946年に採用、外装の強度を高めるために凹凸をつけた“ダブルリブ”は、『ゼロ』のプロダクトへの信頼を示すシンボルのため、大胆なデザイン変更はしない。従って、パーツにこだわり、超軽量の素材の開発やリモデルを行った。さらにトランク売り場にくるのは7割が女性。売り上げ拡大を目指せば、女性向けの商品を作りたくなるが、男性(ヤングエグゼクティブ)を狙うというモノづくりの軸はぶれないようにするなど、このブランドに愛着を持つユーザーや『ゼロハリバートン』のブランドイメージを損なわない工夫をしたという。
また、内外の価格格差が大きいほど並行輸入品が増えてしまい、低価格で売られ、ブランドイメージにダメージを与える。他社の内外価格差を徹底的に調べ、『ゼロ』のプライスを決めた。そのほかに、モノづくり、販売、宣伝、流通の3つのバランスが大事として、MDの確立、生産スキーム、マーケティングサポート、傷つきやすいアルミ製品は店頭の取り扱いが大事なので、売り上げ拡大の道としてしっかりした良い代理店と契約するなどの具体的な戦略内容の説明があった。
日本に続き、今年はシンガポール、NYに旗鑑店をオープンさせた。「月に行った世界で唯一のトランク」をイメージした内装に仕上げたNY店の写真も紹介。2013年をスタート年とした出世魚戦略は順調な推移が見込まれているが、2006年から今年まで7年間の苦労が並ではなかったことを想像させる「失敗談ならいくらでもある」という言葉で最後、プレゼンテーションを締めくくった。また、サロン終了後、「私にとっても、異業種の若い人たちに会える機会になってよかった」と加来剛氏。サロンが参加者だけでなく、ゲストにとっても有意義な集いであることを示す嬉しい感想であった。
(注:加来氏はブランド名『ゼロハリバートン』の商品を示すときには『ゼロ』と表現していた)

 

集合写真
青い『ゼロ』のトランクを持つ女性の隣が、エース(株)の加来氏。

 

研究会の様子
質問は各テーブルごと、1名が代表して行った。

 

軽食
今回は九段下のべ―カ―リ―『FACTORY』に軽食を1人分ずつ小袋にいれるラッピングと会場までの配達を依頼。サロン受け付け時に飲み物と袋を渡すスタイルをとった。食べきれなかったら、その袋ごと各自が持ち帰れるうえ、「片づける」「捨てる」という手間と無駄が省けた。袋の中は生ハムを挟んだベーグルサンドとドライフルーツたっぷりのバ―。

 

(サロン委員 富川 淳子)

 
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