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第12回マーケティングサロンレポート
「日本発プレミアムブランドのつくりかた~アウトドアブランド・スノーピークの作り方、伝え方~」

第12回 マーケティングサロン
「日本発プレミアムブランドのつくりかた~アウトドアブランド・スノーピークの作り方、伝え方~」

日程:2013年10月15日(火) 19:00~21:00
場所:日本マーケティング協会 東京本部
ゲスト:株式会社スノーピーク 代表取締役社長 山井 太 氏
サロン委員:長崎秀俊・佐々木竜介・京ヶ島弥生

 

【サロンレポート】山井太氏
“スノーピーク”をご存知でしょうか?
新潟県三条市に本社を持つ企業であり、アウトドアのトップブランドです。品質の高さと独自の製品作りゆえに、熱狂的ファンが存在、高価格にもかかわらずヒット商品を数々生み出しています。
今回のサロンは、アウトドア用品としての「スノーピーク」を立ち上げ、日本はおろか世界で評価されるまでに育てた同社の山井太社長に、ブランド成長の軌跡を紹介いただくことで、プレミアムブランドがいかにして作られるかを考える機会としました。

 

会場の様子 スノーピークの商品
写真左から、ゲストの山井太氏、スノーピークの商品

 

●スノーピークというブランド
スノーピークの始まりは登山用品。金物問屋 山井幸雄商店(後のスノーピーク)の創業者であり、登山家でもあった山井幸雄氏が、当時の用品に物足りなさを感じ、自らユーザーの視点で開発した商品にその名を冠しました。その後88年、息子である山井太現社長が、スノーピークブランドのキャンプ用品を販売。それまでなかった “ハイエンド”の商品を市場に提案することで、オートキャンプブームの引き金を引きました。
日本におけるオートキャンプの最盛期は90年代初頭で、その頃の参加人口は2000万人。それが今では700万人と3分の一近くに縮小していますが、同社の現在の売り上げは93年度の1.3倍。それをハイエンド商品のみの展開で成し遂げています。ここ数年の経済環境が景気後退によるデフレトレンドにあることを考えると、この成長には驚きを覚えます。
ペグ(テントやタープを張るロープを地面に固定するための釘)が1本50円だった時代に300円の商品を出してヒットさせ、現在では他社より1万円高いテントを1万張り売り上げる。海外でも高く評価される “日本発のプレミアムブランド”、それがスノーピークです。

 

●徹底した顧客主義
山井社長のお話をお聞きしてまず思ったことは、スノーピークは顧客オリエンテッドなブランドだということです。
例えば永久保障制度。メーカーが自社の製品の品質に責任を持つのは当然であるとの考えのもと、同社のアイテムのほとんどすべてが修理のサービスを無料で受けることができます。まさに顧客のことを第一に考えられたこの制度は、他社に追随されない同社特有のサービスです。
「徹底してユーザーの立場に立った製品開発を行い、フィールドで実証することにより品質を磨く」という創業の精神を現在も実践する同社の顧客主義は、キャンプイベント「Snow Peak Way」の開催にも現れています。1回で5千人が参加するこの一大イベントのすごいところは、単なるプロモーションではないということです。山井社長をはじめとするスタッフは、このイベントの参加者ほとんどすべてと対話し、それを商品作りや企業活動につなげています。15年でのべ7万5千人もの顧客と直接話をした社長は、他にはいないのではないでしょうか。
イベントでの写真をスライドで見せながら、「私たちが一番作り出したいものは、こういったお客さまの笑顔だ」との言葉に、顧客主義の真髄を感じました。

 

●最初に行ったことは、ブランドステートメントを作ること
山井社長は東京の大学を卒業後、数年間ラグジュアリーブランドを取り扱う商社に勤務しました。86年に同社に入社したときは、自分で新しい事業を起こすつもりで新潟に帰ってきたそうです。
その際に選んだのがキャンプ用品でした。キャンプは本来、自然の中で、ぜいたくで豊かな時間を過ごすはずのものですが、当時の用品は粗悪品が多かった。そこで自分たちが欲しいものを作ろうというのが動機だったそうです。
入社した山井社長が最初に行ったことはミッションステートメントを作ることでした。社員からヒヤリングを行ったうえで、自分たちがやりたいことを4つの文章にまとめました。「The Snow Peak Way」といわれるこのステートメントは、今でもスノーピークの企業理念であり、同社のホームページでも閲覧可能で顧客の認知も高いとのことです。

 

スノーピーク企業理念
http://www.snowpeak.co.jp/about/01missionstatement.html

 

「わが社はいわゆる(ビジネスライクな)ブランディングをしていない」とのお話しもされましたが、そもそも従業員の多くが熱心な元顧客で、このステートメントは入社前にすでに共有されていることが多いそうです。
山井社長ご自身が年間平均40泊、多いときは60泊(2ヶ月!)をテントで過ごすキャンパーで、一番厳しいユーザーの目で自社商品を見つめており、山井社長がOKを出したもののみが商品化されるとのことです。その判断基準となるスノーピークらしさは従業員全員に共有されている。それが故にデザイン、商品コンセプトが統一されている。それがスノーピークブランドの強みです。

 

●マーケティングをしないマーケティング
サロンでは、「マーケティングをしないマーケティング論」についても話をされました。マーケティングをしないことで、顧客、売り物、売り方を選ぶ自由が得られるそうです。
今でこそ5千人を超える規模に成長したキャンプイベント「Snow Peak Way」ですが、98年に第1回を開催したとき、参加者はわずか30名でした。彼らは熱狂的な愛好者であったにもかかわらず、全員に「スノーピークは高い」と面と向かって言われたそうです。良いものを作れば高くても顧客はわかって買ってくれると思い込むのは、メーカーの陥りがちな罠です。同社はそこでその過ちに気付き、ビジネスモデルの改革を行いました。問屋を通じて商品を卸していたのをあらため、ショップと直取引を始めたのです。それにより実売価格8万円のテントが5万9800円になるなど、価格の引き下げに成功しました。
この改革では、もう一つ行ったことがあります。
「Snow Peak Way」では、「スノーピークの商品は買えない」とも言われたそうです。これには2つの意味があり、一つは近隣にスノーピークの商品を取り扱っている販売店が無いということ、もう一つは例え取り扱っていても商品が限定的で、自分が欲しい商品が必ずしも買えるとは限らない、ということです。
ここで山井社長は、取引先を広げるのではなくむしろ絞るという決断を下しました。その代わり取り引きする販売店にはすべての商品を扱ってくれと頼んだそうです。近くにあるけれど品揃えの薄い店を増やすより、クルマで30分や1時間かかるけど欲しいものが確実に買える店を作ろうと考えたのです。
これにより取引先は1000店から4分の一に減少しましたが、その代わり店頭販売が強化されました。スノーピーク商品の高い付加価値は見ただけではわからないので、店員にそのよさを伝えてもらわなければいけない。それが出来るお店とだけ取り引きすることで、ブランドを「伝える」力が高まったそうです。そうやって初めてブランドマネジメントが出来るとのことです。
以上を考察すると、実は伝統的な4Pマーケティングがしっかりと実践されていることがわかります。山井社長が“やっていない”というマーケティングは、ここでは定量調査の分析による意思決定のことのようです。顧客かどうかもわからない消費者のアンケートの回答を無味乾燥なデータにして無理やり何か読み取るのではなく、誰が自分たちの顧客なのかを見極め、彼らの顔を見ながらニーズを汲み取る。テクニックとしてマーケティングを使用するのではなく、顧客一人ひとりときちんと向き合う。それがプレミアムブランドを作り出した秘訣なのかもしれません。

 

●スノーピークのこれから
スノーピークは2011年4月に、ミッションステートメント「The Snow Peak Way」 実現のため本社を移転しました。新しいHeadquarterは、オフィスはもとより工場、ショップが一体となり、より垂直統合したものづくりが可能な環境となっています。
そしてなにより一番の特徴は、本社のまわりが直営のキャンプ場であることです。従業員が仕事をしていると、窓からキャンパーが見える。顧客の目の前で仕事をする、いつでも顧客と対話できる環境にあるこのHeadquarterは、まさにスノーピークの顧客主義の象徴と言えるのではないでしょうか。

 

【サロンを終えて】
今回のサロンが開催された10月15日はあいにく台風とぶつかってしまい、いつもより参加者が少ない中で行われましたが、それを逆手に取り、机をコの字に並べ、その中心に同社の焚き火台をはじめとする商品を配置する形式で実施しました。それにより、キャンプ場で炎を囲む雰囲気で山井社長のお話をじっくり聞くことができました。
一代でオンリーワンブランドを作り上げたストーリーはいくつもの示唆を含んでいました。作り手の思い入れが強いブランドを作るという側面がある一方で、それが思い込みになり独りよがりになると、衰退する危険性があります。自らがヘビーキャンパーであるだけでなく、顧客との対話を欠かさない山井社長の姿勢が、知る人ぞ知るプレミアムブランドを作り上げたのだと思います。
外の悪天候について、山井社長は開口一番「今日は絶好の商品耐久テスト日で、本当は室内で話している場合ではない」と放ち、笑いが起きました。経営者、ブランドマネージャー、マーケター、商品開発者など、山井社長はいくつもの顔を持っていますが、そのうちの一つ、アウトドア愛好家の顔も見せいただいたことで、サロンはよりいっそう楽しい時間となりました。

 
会場の様子 集合写真
写真左から、会場の様子、集合写真(前列左から4番目がゲストの山井太氏)

 

【参加者の声(事後アンケートから抜粋)】
・少人数で物理的にも心理的にもプレゼンターと近い距離でお話しがお伺いできる機会は大変貴重でした。
・今後も、今回のようなかなり実践的なお話が聞きたいです。
・Very fineと思います。
・リラックスした雰囲気で普段聞くことができないお話しでインスパイアされました。台風で開催も危ぶまれましたがかえって少人数で贅沢な場となりました。

 

(サロン委員:佐々木竜介)

 
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