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第20回マーケティングサロンレポート
「今年もやります“Choi Labo”in KANSAI ― 寄り添う力:マーケティングをプラグマティズムの視点から―」

第20回 マーケティングサロン:大阪
「今年もやります“Choi Labo”in KANSAI ― 寄り添う力:マーケティングをプラグマティズムの視点から―」

日程:2014年5月27日(火)18:30~20:30
場所:アサヒラボ・ガーデン(大阪市北区)
ゲスト:日本マーケティング学会会長・流通科学大学学長 石井 淳蔵 氏
テーマ:マーケティングを支えるプラグマティズムの哲学
サロン委員:小林哲、清水信年

 
【サロンレポート】
 昨年開催し、好評だった“Choi Labo”in KANSAIを再び。ゲストスピーカーである日本マーケティング学会会長の石井淳蔵氏に、出版されたばかりの『寄り添う力』(碩学舎)でその重要性を説いているプラグマティズムについての議論を中心として、最近のマーケティング研究や日本マーケティング学会、大学教育などについてのお考えを語っていただきました。

 

【概要】
実践、研究、教育のトライアングル
 石井氏が学長をお務めになる流通科学大学では、「実学の流科」をモットーにしています。企業や自治体から与えられた課題に対して、学生たちは講義で学んだ知識や自分たちなりの経験・感性を駆使して解決策を見出し、それを当事者に提案。いわゆるアクティブ・ラーニングやPBL(Problem Based Learning)と呼ばれる取り組みに、学生は在学中何度も挑戦します。
 
 当サロンを主催する日本マーケティング学会では、「実践と理論の融合」を標榜しています。ビジネスの最前線で格闘する実務家の実践と、研究者が蓄積してきた知見や理論とが交わることで、それまでにない新しい価値を社会に創出することを目指します。世の中の事象を完全に説明できる唯一の理論、「真理」の追究といったようなことは、当学会ではあまり強調されていません。
 
 いずれもキーワードは「実践の学」です。実践と教育、そして研究のトライアングルが、マーケティングの知を発展させるのだという考えが重要であることを、まず石井氏は自らがトップを務める2つの組織を例にして強調されました。
 

石井淳蔵・日本マーケティング学会会長 参加者は70人を超えました。

写真左から、石井淳蔵・日本マーケティング学会会長、会場の様子(参加者は70人を超えました。)

 

プラグマティズムの志向
 「実践」は、「理論」の限界を乗り越え、「現実」の壁を打ち破る。プラグマティズムにとって重要なこの主張の例として、まず石井氏は島根県・隠岐諸島にある海士町(あまちょう)を紹介なさいました。なかなか解決策が見いだせない離島・過疎地の問題に関して、山内町長を中心とした地元民やIターンの人々が次々と新しい取り組みを展開し、全国から注目されるようになった海士町。昨秋に訪れた石井氏は、そこで「実践のすごみ」を感じたと言います。
 
 1976年に立ち上がった大和ハウスの店舗開発事業部は、営業担当者が地道に各地の地主やオーナーとの密接な関係を築く一方、ユニクロのように地方の洋服店だったような成長過程の企業の出店計画をサポートすることにも注力し、現在は売上4000億円・営業利益550億円を稼ぐビジネスとなっています。石井氏が強調するのは、流通論の教科書に必ず書いてあるような「取引数最小化の原理」、すなわち多数の作り手と多数の買い手の間を商人が結びつけることで流通が効率化する、といったような理論では説明できないという点です。大和ハウスが生み出したこのビジネスは、そもそも多数の作り手(土地を貸そうと思う者)と多数の買い手(それを借りてチェーン展開する企業)とを、自分で創ったものだからです。
 

演台から離れて熱く語る石井氏
演台から離れて熱く語る石井氏

 
マーケティングの精神=創造的適応
 では理論は必要ないのか、というわけではなく、「理論と現実の統合としての実践」という考え方を石井氏は提示します。たしかに理論、すなわち合理的な説明は「後づけの話」になってしまう危険がありますが、しかし一方で、小倉昌男や本田宗一郎、中内功といった優れた経営者たちが理論を重視していたことも確かです。マーケティングにおいて重要なのは、相手(顧客)が求めることを合理的に理解しつつ、その相手に寄り添い思いをめぐらせながら新しい価値を提供しようと試みる「創造的適応」であることが、改めて強調されます。
 
 そのことを示す例として、風邪薬の購入を娘に頼む母親、中卒で地方スーパーに入社したお茶くみの女子社員、大手製薬メーカー・エーザイの研究開発者、香川県の下請けシューズメーカーだった徳武産業、患者に寄り添う診療を行なうケアモア・メディカルグループ、といった多くのお話をご用意いただいていたのですが…。石井氏の熱い語り口によって1時間を予定していた講演時間はあっという間に過ぎてしまい、後半は残念ながら少々駆け足となってしまいました。上記の事例は、すべて先生の新刊『寄り添う力』で紹介されていますので、当日ご参加だった方もお越しになれなかった方も、ぜひお読みください。
 

懇親会も盛り上がりました。
懇親会も盛り上がりました。

 
【サロンを終えて】
 学会長のご講演ということもあって、多くの会員の方々にご参加いただきました。運営するサロン委員メンバーにとっても、非常にやりがいのある充実した回となりました。終了後の参加者からのアンケートでは、多くの興味深い事例に出会えたこと、マーケティング実務が知の発展にも寄与する重要性について認識できたこと、など多くの感想が寄せられました。サロンが、まさに理論と実践とを融合する貴重な場である、ということを再認識できた夜となりました。
 
(サロン委員:小林哲、清水信年)

 
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