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研究報告会レポート

第7回スポーツマーケティング研究報告会レポート「注目のeスポーツの最新状況とスポーツマーケティング」

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テーマ:「注目のeスポーツの最新状況とスポーツマーケティング」
日 程:2018年7月20日(金)19:00-21:00
場 所:早稲田大学 3号館601教室
 
【報告会レポート】

1. eスポーツとスポーツマーケティング(趣旨説明)
早稲田大学スポーツ科学学術院 教授 原田 宗彦 氏

 日本のeスポーツ界は、一般社団法人eスポーツ連合が創設されるなど今年になって急に動き出している。しかし8月にインドネシアで開かれるアジア大会ではeスポーツ大会がデモンストレーション競技として公開されるが、eスポーツ日本人選手はJOCの参加団体ではないため日本代表の一員ではない。ドイツでも同様のことが起きており、様々な話し合いが行われているが道半ばという状況だ。茨城国体でもeスポーツが決まったが、これは日本体育協会の加盟団体でもないためあくまで「文化プログラム」の範疇として行われる。
 スポーツ側からeスポーツをみて、リアルスポーツとデジタルスポーツがどう交錯していくのだろうか。リアルスポーツとは3次元空間内での身体的パフォーマンスをすること(フィジカルアスリート)、デジタルスポーツとはデジタル空間での映像的パフォーマンスをすること(ニューロアスリート)と区分けができるだろう。リアルスポーツとデジタルスポーツの交錯は例えば体育嫌いを失くす導入装置やスポーツへの社会化促進、新しい戦術の実証実験、審判技術の向上、仮想試合、雨天時の体育などスポーツの補完的機能を果たすのではないだろうか。eスポーツのプロモーションを契機に、このような議論への発展を期待したい。
 現在のスポーツマーケティングの守備範囲は、スポーツのマーケティングかスポーツを利用したマーケティングなのか、するスポーツか見るスポーツか、そして公共セクターか民間セクターかといった多様な分類項目があり、広い範囲をカバーしている。これをeスポーツに当てはめると、例えば参加型eスポーツ大会を利用した地域活性化やeスポーツ選手養成学校、スポンサーシップなどが考えられ、今後研究の素材としても期待される。
 ゲーム市場全体では2021年には約21兆円になるとされており、なかでもモバイルゲームが伸びるとされている。日本のゲーム市場は世界第3位の大きさであるが、eスポーツにおける日本の存在感は薄い。今後世界のeスポーツ市場は3億人が関与する17億円市場へと成長が見込まれ、期待が集まっている。また現在eスポーツ市場のみならず、全体的に東南アジアが伸びており、中間層が増えてきている。そういった中で欧州を遥かに凌ぐ8億人がeスポーツを楽しんでおり、成長率もすさまじく、注目されるエリアである。
 eスポーツのエコシステムにおいて、今後ゲームパブリッシャーが大会開催やチーム所有、選手育成など様々な動きをすることが予想される。しかし基本的にスポーツと違うのは、ゲームは様々なコンテンツを作ることができるので、コンテンツとしての可能性はスポーツに比ではないが、今後定着するかどうかはまだわからない。
 最後にスポーツMBAエッセンス卒業生が行ったeスポーツ関連のプレゼンテーションを紹介する。eスポーツをSWOT分析・クロスSWOT分析を行い、今後のeスポーツが行うべきことは社会貢献によるイメージアップであると結論付けた。またeスポーツは地域コミュニケーションにおいて新たな役割を果たしていくのではないか、さらに地域企業と協力し、レクリエーションやチームビルディングなどにも発展の余地があり、eスポーツの社会貢献の可能性について検討した。今後も活発な議論を期待したい。
 

2. 日本のおけるeスポーツ振興への課題と取組
一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)副会長 浜村 弘一 氏

 eスポーツの基礎的な部分から日本のeスポーツ界でどんなことが起きているのか、今後の課題についてお話する。
 eスポーツとは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、電子機器を使った娯楽、競技、スポーツ、エンターテイメントを指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称である。世界では何万人も入るような大きな会場で大会が行われ、観戦者も熱狂し、また日本人選手が上位の成績を残している大会もある。
 世界のeスポーツの市場規模は年々成長を遂げ2022年には現状の1.5倍 23億ドルにもなると言われているが、それ以上の成長を遂げるとの見方も出ている。またeスポーツとは放送コンテンツであるため、観客数も重要な指標である。現状2.8億人の視聴者が2021年には約2倍の5.5億人に増えていくとされており、その主はネット視聴であり、今後ますます一般層に普及していくものと思われる。視聴者の約半数は中国からであり、アジアを中心に広がっている。次に賞金について、eスポーツと賞金とは切っても切り離せない関係である。、世界の主なeスポーツ賞金大会を見ると、北米で実施された「DOTA 2」世界選手権の賞金総額2478万ドルというのはかなり高額で、これはゲーム売上げの何%かをプールして賞金を出すものである。日本国内を見てみるとそもそも賞金付き大会が少なく、賞金一つとっても世界とは差がある状況である。
 そのようななかで生まれたのが日本eスポーツ連合(以下JeSU)で、これまでeスポーツの3団体がそれぞれ目的を持って選手や大会を支援してきたが、日本代表選手を国際大会に派遣するにあたり意見がまとまらなければ派遣できないため、統合された。IPホルダーからの全面協力を得ているeスポーツ団体として、世界でも珍しいケースとして注目を浴びている。
今年2月に開いた闘会議2018では、イベント来場者数は7.2万人越え、ネット総来場者は513万人が視聴した。このイベントでプロライセンスを初めて発行し、現在でもライセンス保持者が増え続けている。IPホルダーがJeSUに協力したのは、JeSUのプロライセンス制度が大きな要因である。この制度により、明確にホワイトな環境下でIPホルダーの大会開催が可能となり、またの選手の身の潔白証明にも有効である。
 eスポーツの国際大会、今年のジャカルタでのアジア大会には日本人選手が3名出場する。2022年杭州アジア大会ではメダルを懸けた大会となり、24年パリ五輪では正式種目になるかはまだ確定していないもののeスポーツが爪痕を残すことが予想される。さらには2026年には名古屋でアジア大会が開催されるため、eスポーツの注目度が上がることを期待している。以上を念頭に置きJeSUは日本オリンピック委員会(以下JOC)加盟に対する動きを加速している。加盟への条件が一部クリアできていないのが現状であるが、準加盟への条件はクリアしていると考えている。しかしゲームはスポーツなのかといった意見もあり、加盟には至っていない。だが先日の平昌五輪では既にエキシビジョンが行われており、世界的にも五輪での正式種目への階段は着実に上がっていることは間違いなく、日本のeスポーツの動きも加速しているのが現状である。
 国内でも様々なゲームの賞金付き大会が開催され始め、ゲーム産業外の企業もeスポーツに参加してきている部分は注目すべきであり、eスポーツへの関心の高さが伺える。eスポーツ専用施設ができるなどの動きもある。海外でも本格的なeスポーツアリーナができ始め、観るための環境が整ってきている。また韓国ではeスポーツ試合の海外発信を前提としたアリーナがあり、eスポーツによってインバウンドを集客する構想まである。
 eスポーツは突然出てきた印象があるが、他のメジャースポーツと変わらない育ち方をしている。。eスポーツの場合、コミュニティイベントからアマチュアプレイヤーが生まれる。次第に賞金付きイベントが行われ注目度が上がり、地上波テレビでも放送されることによってゲームをしない層が選手を好きになり、eスポーツ観戦者となる。ゲームをしない人達までもがeスポーツを好きになるという野球と同じような構造が生まれた。今までゲーム産業はゲームをする人にしか物を売れなかったが、ゲームをしない人からもお金が稼げるようになった。今後eスポーツ産業が飛躍的に増加するために、スター選手の誕生が期待される。
 現在eスポーツに関する社会的認知度は高まりつつあるものの、JeSUの理念であるeスポーツの普及のためには、まずは選手の活躍の場が必要で、そこからスター選手が生まれ、競技への注目が集まると考えている。選手の活躍の場を増やすために考えた施策がプロライセンス制度である。結果、eスポーツの公認大会が増え、選手やチームが露出されるようになった。またJeSUとしては、ライセンスを取得した選手をデータベースで公開し、企業からスポンサードしてもらえるような、企業が選手を見つける場の提供をしようと考えている。こういった形で選手の収入が増え、安定した環境下でトレーニングができれば、国際競争力も上がると思われる。さらにeスポーツ認知度向上のためには、国際大会が重要だと考えている。国際戦になれば、一般のメディアでニュースとして取り上げられることが増えると予想される。世界規模の大会への日本代表選手の出場や各国との交流試合の実施を目指し、同時にチームや選手の地位向上も貢献したい。
 とはいえ課題は山積みであり、今後はeスポーツエコシステムの整理を行っていきたいと考えている。コーチや選手が集まって技能を上げていく場作り、選手育成のみならず、審判・運営者・実況者育成のために教育機関との連携、選手のセカンドキャリア支援にも取り組んできたい。
 今後も日本のeスポーツを発展させるべくご支援を頂きながら、JeSUの活動に注目してもらえればと思う。
 

3. eスポーツマーケティング研究の視点と重要性
大阪体育大学 学長補佐、大学院スポーツ科学研究科スポーツマネジメント分野 教授 藤本淳 也 氏

 スポーツ科学分野においてeスポーツは研究題材としてあまり取り組まれていない。2014年以降のeSportsに関する研究を検索すると、全体的に少ない研究数の中でeスポーツに関する動機研究が比較的数多くなされている。一方、Online Gameに関する研究を研究すると非常に多くの研究が取り組くまれている。つまり、スポーツ研究としての取り組みは少ないが、ゲーム研究としては既に発展してきている分野といえる。その内容は、ゲーム中毒やコミュニティ、動機、プレイヤー特性、ビジネス、マーケティングなどの研究が行われている。日本でも社会学や心理学系、情報通信から脳科学系に至るまで幅広い。eスポーツおよびオンラインゲームの研究現状としては、スポーツ科学からのアプローチは数が少なく、コンピューターや情報系の学術誌に論文が掲載されていることが多い。非常に多岐に渡る分野から研究が取り組まれており、研究対象として大きな割合を占めるようになってきていると考えている。今後さらに多くの分野の研究者に注目され、研究領域・分野としてさらに発展していく可能性が高い。
 私もスポーツファンの創造やスポーツビジネスの発展にどのようにeスポーツが関与できるのかについて研究を行っている。Jリーグやプロ野球機構もeスポーツに参入するなど、スポーツビジネス側もeスポーツを通じてファンの獲得や拡大目指している。スポーツマーケティング研究者は、その科学的エビデンスを示していく役割を担うことが重要であると思っている。
 スポーツマーケティングから取り組むeスポーツ研究の視点は「スポーツのためのeスポーツマーケティング研究」と「eスポーツを利用したスポーツのためのマーケティング研究」の2種類であり、両者最終的にはいかにスポーツとスポーツ産業を活性させていくのかに帰着する。eスポーツとスポーツの共通点・相違点は何か、eスポーツ消費者とスポーツ消費者の特性や意思決定プロセスの解明、eスポーツにおけるスポーツの価値とは何か、「eスポーツ×スポーツ」のビジネススキーム研究などが考えられる。eスポーツとスポーツの消費者研究では、eスポーツ実施や観戦がリアルスポーツへのエンゲージメントを高めるのか、が重要なリサーチクエッションとなる
 スポーツマーケティングの理論を用いて、eスポーツマーケティングの研究を行い、共通点や相違点を見出し、スポーツの発展につながるeスポーツのマーケティングをこれから行っていっていくべきではないか。いずれもまだスタート地点であり、スポーツのみならず多くの日本の研究者が関心を持って研究を進めていき、eスポーツとリアルスポーツのさらなる発展に貢献できるような研究が積み重なっていくことを期待している。
 

4. 今後のeスポーツプロジェクトの動向
(株)電通 コンテンツビジネス・デザイン・センター 金 永振 氏

 eスポーツは20代が8割のスポーツであり、スポンサー的には若い世代とコミュニケーションするにあたって、まず評価される。eスポーツがオリンピック競技として採択される可能性があり、更なる注目が集まっており、今後の正式種目に向けてIOCなどの動きは注視されている。また、様々な人が平等に競えるダイバーシティスポーツであることも、注目される一つの要因である。
 電通のeスポーツへの最初の取り組みは、JeSUとのパートナーシップであり、独占マーケティングパートナーとして締結している。JeSUの重要性は、スポンサーがeスポーツに取り組む上で重要となる、安全な運用が担保されたホワイトな環境づくりのためのプロライセンス制度と、海外競技大会への日本代表派遣を管轄する機関であり、関係省庁との窓口である点である。今後、日本のeスポーツの発展のために極めて重要な機関である。多くの企業がJeSUのオフィシャルパートナーへ興味を持っており、eスポーツが発展していく手ごたえを感じている。
 JeSUとのパートナーシップを中核に据えたうえで、どのようにメディアコンテンツビジネスを進めていくかをお話しする。eスポーツとはそもそもゲーム競技であるため、様々な種類のゲームごとに競技性も異なる。そのためeスポーツには様々なステークホルダーが存在するが、なかでもスポンサー企業は競技大会を持続的に運営していく上で、必要不可欠である。eスポーツ大会が、スポンサーにとってマーケティング投資の価値があるものになっていかないと、運営は厳しい。ユーザーやマーケットの広がる中で、eスポーツのマーケティング活用に関心のある企業は多くあるため、それを一つ一つ形にしていきながら、eスポーツ文化の発展に貢献していきたい。eスポーツの事業機会は様々な機会があると捉えており、たとえば大会主催者とのパートナーシップや、テレビメディアにおけるeスポーツ番組の開発などのコンテンツ開発、また、スポンサー企業のブランドマーケティングに、eスポーツを活用する広告企画などである。このような360度の事業機会に対し、電通社内の様々な部署が横断するチームが立ち上がっている。これまで様々なプロジェクトを通して得た知見を、eスポーツチームとして束ねながら、日本のeスポーツ文化が大きく発展するよう、全社的に取り組んでいる。

 
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