リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第8回価値共創型マーケティング研究報告会レポート
「企業と顧客の共創プロセス -理論と実証-」

第8回価値共創型マーケティング研究報告会
テーマ:「企業と顧客の共創プロセス -理論と実証-」
日 程:2015年3月15日(日)13:30-16:30
場 所:広島大学東京オフィス

 

「価値共創におけるソーシャルメディアの役割についての実証研究」

横田 伊佐男 氏(横浜国立大学大学院国際社会学府 博士課程後期 経営学専攻)

 最初にご報告いただいた横田先生からは、企業と顧客との共創関係に注目した研究をご披露いただきました。横田先生は、サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)が示唆する価値共創の概念が、従来のマーケティング・コンセプトと異なる示唆をもたらしているとする一方で、その捉え方が外部環境の変化(産業構造の変化とそれに基づく、従来と異なる企業行動や企業成果)との関連に関する議論が希薄であるという問題意識から、研究を展開されました。最初に、価値共創に影響する外部環境要因に注目します。ここではインターネットの普及による企業と消費者との関係が大きく変化しており、特にソーシャルメディアの普及によって能動的な消費者の行動が見られます。他方、ソーシャルメディアの利用実態には多様性がみられ、ソーシャルメディアによる企業と顧客との価値共創に注目したとき、誰と誰がどのように共創しているのかという疑問が生じます。こうした視点を基に、幾つかの事例から共創の違いに注目されました。
 一連の研究成果として、①共創の主体は、企業・顧客のほかに消費者の中でも強い影響力を持つ「インフルエンサー」が存在し、3つの主体による共創が存在する、②共創の手法として、ソーシャルメディアが積極的に使用されていること、③共創が及ぼす企業行動としては、「リサーチ」「企画」に向けたものが多い一方で、「開発」領域への影響は少ない、などが挙げられました。
 
「サービス・ドミナント・ロジックにおける価値共創とマーケティング研究」

大藪 亮 氏(岡山理科大学 総合情報学部 専任講師)

 続いてご報告いただいた大藪先生は、S-Dロジック研究の動向を整理したご報告でした。S-Dロジックが世界的な議論に発展しているということ、多くの研究が概念の精緻化に目が向けられ、非経験的な研究が中心になっているという傾向があることなどをお示しになりました。そのうえで、S-Dロジックの世界観を再び確認するとともに、価値共創とマーケティング研究を展望するという視点で議論を展開されました。
 まず、Lusch and Vargoの最新刊で示された、彼らの示す価値共創の定義の確認が為されました。彼らは、仮に物々交換であっても、双方がナレッジやスキルを適用して生じた成果物であるものを交換するのであり、あらゆる交換がサービス交換であると指摘しています。これは、GoodsとServicesを区別しないS-Dロジックの真骨頂です。また、S-Dロジックに示された基本的前提は、社会的・経済的交換をより良く理解するための枠組みだといえます。最新刊では10の基本的前提が公理として4つに分類されていることが示されており、この議論は未だ世界規模で進展していることが示されました。
 S-Dロジックにおける価値共創の概念は、分業が高度に進んだ現代社会において、企業と顧客(に留まらない幅広い主体間関係)によって価値が創造されていることをうけ、価値共創の社会だともいえます。つまり、価値共創は、あらゆる関係を象徴する捉え方だとの指摘がありました。そのうえで、価値に作用するものが資源であり、あらゆる主体は資源を統合する存在であるということ、さらに、最終的な受益者である主体が認識するものを文脈価値とし、それは多様性に富むことも確認されました。
 次に、S-Dロジックをめぐる議論を、大藪先生は2008年以降のものに注目し、①S-Dロジックの精緻化に関する研究、②企業、顧客間における価値共創の研究の2つに大別されるとして、特徴的な議論をお示しになりました。S-Dロジックは新たな研究対象の領域を提示する一方で、実践との接続が困難であるということ、実証的研究が不足しており、その蓄積が求められていることなどが指摘されました。
 以上の検討から、大藪先生はマーケティング研究に対する貢献点と課題を整理していただき、参加者にS-Dロジック研究の正確な理解と研究の接続の可能性をお示し戴きました。
 
ディスカッション
 ディスカッションは、広島大学大学院の村松先生が全体をリードするかたちで、報告者を交えた参加者全体でのディスカッションとなりました。当日、S-Dロジック研究に造詣の深い茨城キリスト教大学の田口先生もご参加だったことから、田口先生よりVargo and Luschの近年の主張がご披露されました。そこでも、価値共創や資源、文脈価値といった諸概念が既存の概念とどのように違うのか、彼らはどのような学術的背景からこれら概念を示しているのかについて、意見が示されました。
 これを受けて、あらためてマーケティング活動に向けたインプリケーションとは何かについて、議論が展開されました。参加者からは、価値共創の概念が精緻化されず無秩序に用いられていることの混乱が指摘されたほか、共創のかたちそのものが多様化する時代にあって、企業側が操作・管理できないところで生じているものが数多いという指摘もありました。
 本研究会は、一昨年より年4回のペースで研究会を開催し、今回で8回を終えました。S-Dロジックに端を発した企業・顧客間、あるいは顧客間の新たな主体間関係に関心をお持ちの方が、多数集う研究会へと発展して参りました。価値共創に関する研究の動向が示され、実務へのインプリケーションを問う研究会運営を推進いたしました。その結果、概念の解釈をめぐる議論に関心の高い方が、繰り返し集うスタイルが定着しているようです。いよいよ価値共創の概念の精緻化から一般化や操作化に向けた内容へと、議論を進めることができるのではないかと期待を高めております。
 本研究会は、次年度も東京、大阪の2会場で研究会を開催いたします。引き続き、多くの方にご参加いただきたく、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
 
(文責:今村)
 
横田先生のご報告 大藪先生のご報告
写真左から、横田先生のご報告、大藪先生のご報告
 
ディスカッションの様子
ディスカッションの様子

 
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