リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第9回価値共創型マーケティング研究報告会レポート
「価値共創概念の再検討と新たなマーケティング展開」

第9回 価値共創型マーケティング研究報告会
テーマ:「価値共創概念の再検討と新たなマーケティング展開」
日 程:2015年5月10日(日)14:00-16:30
場 所:大阪産業大学梅田サテライトキャンパス

 

【報告会レポート】
 第9回研究会は「価値共創概念の再検討と新たなマーケティング展開」と題し、サービス・ドミナント・ロジックとサービス・ロジックの相違、経営学的な価値共創概念との解釈の違いを検討いたしました。
 
報告者と内容は以下の通りです。
 
「価値共創概念をめぐる視点の違い」

今村一真(茨城大学人文学部 准教授)

 共創概念の起源は、Prahaladらの研究にあります。彼らは、インターネットの普及によって、意見を行使する顧客を脅威と捉えるのではなく、新たな視点で捉えることで克服できることを主張しました。これが「価値共創」を採り上げる要因です。ただし、彼らは競争優位となり得る中核的能力「コンピタンス」を検討するうえで、価値共創が重要だとも提唱するようになります。これは、彼らがバリューチェーンの批判のためにこの考えを適用したからなのですが、果たしてこの考え方は妥当だといえるでしょうか。
 このほか、2000年以降の研究動向においては、製品サービス・システム(Product Service System: PSS)においても、消費・使用への注目が見られます。環境負荷の低減を志向する欧州諸国で関心が高く、持続的発展に役立つ実務ガイドラインの作成が議論の契機となりました。消費・使用段階への注目という意味では、サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)と親和性の高い研究かと期待されますが、システム導入の設計と効果に関心があり、市場性の評価は手薄だといえます。
 Prahaladらの所論、PSS研究を概観すると、前者はバリューチェーンから、後者は製品の効用に向けた検討の方法からの転換を意図しているのですが、それぞれの意図が異なるため、関心は接近しながら整合的な議論ができません。何より、S-Dロジックが主張するようなパラダイム・シフトが求められる局面において、それを踏まえた検討になっておらず、もっとも注目すべき顧客の経験を検討するための適切な視点が示されていないといえます。
 今日、価値共創の概念はあらゆる議論が展開されています。しかし、統一的な見解がみられない理由に、転換しようとするパラダイムの違いがあるといえます。マーケティング研究もまた、パラダイム・シフトに基づく研究の蓄積が必要であり、そのためには、顧客の多様な経験から市場性を見出すアプローチが必要だといえます。
 
「サービス・ドミナント・ロジックとサービス・ロジックの価値共創概念の共通点と相違点」

藤岡芳郎氏(大阪産業大学経営学部 教授)

 藤岡先生は、サービス・マーケティング研究の潮流を、北米型研究と北欧学派に大別できるとご説明になりました。北米型研究はグッズマーケティングとサービスを分類して研究が進められました。その結果、交換価値を重視し、サービス品質の管理といったテーマで検討が進められた点に特徴があります。これに対し北欧学派は、産業財取引を中心に、企業と顧客との関係性について相互作用やサービスの視点を重視して検討されました。自ずと、企業・顧客の主体間関係は長期的であることを前提とするほか、その成果は特定顧客の利用・消費の段階を重視します。つまり、北米型研究と違い北欧学派のサービス・マーケティング研究は、当初よりサービスをグッズと区別するのではなく、プロセスで捉えて検討してきたといえます。そのため、北欧学派のサービス・マーケティングは、トップ・マネジメントも意識すべき要素であることが当初より示されており、全社的な戦略として位置づけられてきた点にも特徴があります。
 さて、S-Dロジックの登場以降、北欧学派の中心的人物であるGrönroosは、S-Dロジックを批判的に考察します。彼は、価値創造者は顧客のみであるとしたうえで、S-Dロジックのいう企業・顧客間の主体間関係を再定義して価値共創を概念化します。これが、サービス・ロジックの真骨頂であり、彼は企業が顧客との直接的な相互作用に限定して価値共創が存在すると示します。
 彼の一連の主張から読み解けるのは、全ての取引をサービスでみたとき、グッズはもはや、消費プロセスへの関心を提供することにこそ、サービス・マーケティングの貢献があるということです。また、消費プロセスにおいて価値共創の機会は一部であることから、その機会を拡張することでしか、企業は影響力を行使できません。Grönroosはこれを「消費概念の拡張」と捉え、あらためて価値共創を重視することの意義を示しています。
 このように考えていくと、従来のグッズ中心のマーケティングは、取引(交換)後に企業が能動的に顧客の利用・消費プロセスに入り込むことを想定していないことに気づきます。何より、S-Dロジックはあらゆる交換を価値共創としたのですから、
Grönroosのいう価値共創は随分焦点化された議論だといえます。他方、相互作用を重視して顧客が価値を決めるという視点はS-Dロジックとサービス・ロジックが同じであることを考えれば、企業が行うマーケティングの実践には特段の差がないとも考えられます。重要なこととして、価値共創や相互作用を重視する企業のマーケティングの戦略のロジックは、サービス・ロジックでの概念化が求められるということです。したがって、マーケティング研究がサービスを鍵概念として発展することは重要であり、顧客によって行われる価値創造プロセスから相互作用を、そしてマーケティング戦略を考えることが必要だといえます。また、グッズ・ロジックで大量生産・販売のもとで実施される従来型の志向論でのマーケティングも効果があると考えられます。
 
「価値共創マーケティング -消費プロセスにおける企業と顧客の相互作用-」

村松潤一氏(広島大学大学院社会科学研究科 教授)

 村松先生は、S-Dロジック、そして、GrönroosのSロジックの主張を踏まえ、マーケティング理論・実践への接続という視点から、独自に価値共創の概念化と、それに基づく価値共創マーケティングの諸相をお話しになりました。従来のマーケティングは生産プロセスが主眼となり、顧客を取り込むことが志向されていたのに対し、価値共創マーケティングは、消費プロセスへの注目が求められます。ここでは、消費プロセスへの入り込みが期待されるのであり、企業は顧客と離れた状態で価値創造を行いません。消費の中で思考し、価値共創を前提としたグッズ・サービスの交換が求められます。
 また、サービスから入り、グッズへの関与を行うことで、ビジネスの仕組みが決まっていくという、価値共創型の企業システム構築が必要だとも主張されました。そこには、消費概念を垂直的に拡張したり(例:グッズの流通および生産への関与)、水平的に拡張したり(例:グッズの利用場面への幅広い関与)といった考え方が求められます。また、最大の課題は、価格と経済的交換の問題です。交換価値を前提とした経済的交換は短期的であり、顧客にとっての価値を踏まえた仕組みが形成されていません。現状では、機会収益の逸失や機会損失の転嫁が生じます。そうではなく、価値共創の成果から経済的交換が成立するような仕組みがあっても良いといえます。顧客(消費者)の生活時空間とマーケティングを考えたとき、サービス交換と経済的交換との関係を考える必要があります。従来は、経済学モデルとの関係から短期的な交換が志向され、その結果、事前に価値は規定される必要があったのですが、サービスを重視するということは、長期的な関係と継続的な交換、事後に決定する価値を前提としなければなりません。それはすなわち、利己的な主体を前提とした経済学モデルではなく、利他的な主体を前提とする必要があり、サービスが展開される場は社会システムに大きく依拠するといえそうです。ここに、サービスの本意に基づくマーケティング観の醸成が求められるのであり、それは従来のマーケティングと大きく異なるものになるといえそうです。
 
ディスカッション

パネラー
  今村一真(茨城大学)
  藤岡芳郎氏(大阪産業大学)
  村松潤一氏(広島大学)

 本研究会では、Grönroosの主張を踏まえ価値共創の概念化を試みています。すると、企業が顧客とともに製品の共同開発を行う行為は価値共創といえるのか否かという疑問が生じます。ネスレの取り組む「アンバサダ」はどうみることができるでしょうか。医療や行政サービスをどう捉えたらよいでしょうか。こうした事例に即して考えると、何が価値共創で何をゴールにしたら良いといえるのか。理論的貢献は何を示唆しているのか。こうした議論が進みました。
 また、グッズとサービスを統合したマーケティングの新たな理論を開発するうえで、S-Dロジックの方がGrönroosの主張よりも応用可能ではないかというご意見もありましたが、価値共創の実現を通じて、企業・顧客の主体間の距離は克服されるといえます。このとき、両者は対峙的に向き合う必要はないほか、価値共創が「価値は顧客が決定する」「顧客の経験の中に価値が存在する」ということを前提に置く以上、Win-Win志向とも異なります。交換価値を前提としない、新たな視点(文脈価値または使用価値)に基づくサービス行為とそのプロセスは、驚くほど従来のマーケティング観と異なるアプローチだといえます。こうした視座に基づく研究こそが、価値共創マーケティングだといえそうです。
 
 次回の研究会は7月5日(於 広島大学東京オフィス、時間は未定)にて開催予定です。会員の皆様のご参加をお待ちしております。
 
藤岡芳郎氏 ディスカッションの様子
写真左から、藤岡芳郎氏、ディスカッションの様子

 
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