第41回マーケティングサロンレポート 「ソーシャルメディア時代のメディア利用実態とそのエコシステム」~「アーキテクチャの生態系」から7年、現在のネット環境を俯瞰する~ |
第41回 マーケティングサロン
「ソーシャルメディア時代のメディア利用実態とそのエコシステム」
~「アーキテクチャの生態系」から7年、現在のネット環境を俯瞰する~
日程:2015年12月16日(水)19:00-21:00
場所:日本マーケティング協会 東京本部
ゲスト:ネットイヤークラフト株式会社リサーチャー、恵泉女学園大学・東京経済大学 非常勤講師 濱野 智史 氏
サロン委員:原仁史、清原康毅
【サロンレポート】
今回のサロンでは、日本におけるネットコミュニティ/ソーシャルメディアの利用実態について、2000年代頃から社会学的な観点から分析・考察を続けられている濱野智史氏にお話し頂きました。濱野氏は2008年に『アーキテクチャの生態系』(NTT出版、テレコム社会科学賞奨励賞。2015年にちくま文庫)という著作にまとめられています。今回の講演では、その後7年近くが経過した現在のネット環境とメディア利用実態について、本書の観点から俯瞰して頂きました。また、その現在形をより事例ベースで理解していくために、現在日本のアイドル文化を実例に挙げながら、「共創マーケティング」「体験消費」「共感・シェア文化」といったソーシャルメディア時代のマーケティング概念についてお話し頂いた後、グループディスカッションを行いました。
「アーキテクチャの生態系」について
アーキテクチャとはWEBサービスの設計の事です。ネット社会を「ユーザー」や「コミュニティ」という切り口ではなく、「設計」や「仕様」を分析の対象としている点が、濱野氏の研究の特徴です。
濱野氏の研究のきっかけは、2000年代前半、ブログの普及過程の日米比較を行った時に、「インターネットの世界では日本だけ2chの様な匿名のサイトが広がっているけど、なぜ?」と考えたからだと言います。この日本独自のネット社会の進化を、WEBサービスの仕様や設計に着目し、分析した著書が「アーキテクチャの生態系」となります。
「アーキテクチャの生態系」その後
「アーキテクチャの生態系」を出版してから7年、ネット社会も大きく変貌を遂げております。特に、スマートフォンとソーシャルメディアの普及が挙げられます。中でもソーシャルメディアは「非言語」&「制約付きアプリ」の方向へ向かっているとの事です。例えば、instagram(写真の垂れ流し)、Snapchat(消える)、Vine(6秒しか再生されない)などが特徴的なアプリとして挙げられていました。
ネット社会では、オープンから始まり、クローズに向かう傾向があると言います。オープン⇒監視が嫌になる⇒○○疲れ⇒またオープンに戻る動き。ブログ(open)⇒mixi(closed)⇒Twitter(open)⇒LINE(closed)を挙げられていました。
日本固有のアプリとして発展しているのはソーシャルゲームです(パズドラなど)。まともな大人はやらないかも知れない(笑)が、パズドラの設計は秀逸だとの事です。greeはネットワークに繋がってないとできないので、地下鉄の移動時間はできなかった(以前は地下鉄の駅間は電波が繋がらなかったので)。しかし、パズドラは違う。ネットワークに繋がってない時でもできる。これは地下鉄特化の瞬間停止可能アーキテクチャと言えるそうです。
「アイドル」について
濱野氏は2012年に、それまで馬鹿にしていたAKBに“はまった”そうです。それは、テレビに映ってない部分のAKBや、ネット時代ならではの、先駆的な共創が面白いからだと言います。例えば、
①「ぱるるはポンコツ」
⇒2chで「ぱるる」をポンコツ扱い→ラジオで「ぱるる」が自分でポンコツ発言
→2chで盛り上がる(人間は悪口を言う時が一番頭を使う)
⇒ブラックなユーモアを取り込んだのが、AKBの面白さ
②「握手会」
⇒握手会で与えられる時間は10秒間
⇒10秒間で何をしゃべるのか、10秒間しかないからこそ、盛り上がる
⇒握手レポ(握手会のコメントでファンが盛り上がる)
10秒の制約が生むコミュニケーションゲームと口コミ流布のしやすさが握手会のアーキテクチャと言えるとの事です。
「グループディスカッション及び質疑応答」
グループディスカッションは、ソーシャルメディアの今後(ウェアラブルなど)、特に日本のガラパゴス化は続くのか?などをテーマに各班で話し合い、最後に発表して頂きました。
発表の内容には、「Iotの発展がスマートフォンの存在を薄めさせ、リアルの世界に移るのではないか」、「制約のあるコミュニケーションが日本人に受け入れられやすい理由に、日本には俳句、短歌など、“制約のあるコミュニケーション”が土壌としてあるからではないか」などがありました。
写真左から、会場の様子、集合写真(前列中央 濱野智史氏)
【サロンを終えて】
ネット社会であればコミュニティ論の研究が多い中、設計や仕様に着目した点に、濱野氏の斬新さ、また「オタク」ならではの視点に深く感心させられました。パズドラにせよ、AKBにせよ、まず自らをその世界に身を置いて、深くハマり、クールに分析する。だからこそ説得力ある話でした。AKBのヒット理由を、「ネットによる共創マーケティング(ぱるるはポンコツ)」や「握手会のアーキテクチャ」など、AKBにハマる理由が分からなかった自分にとっても、腹に落ちる内容であり、大変面白い内容でした。参加された皆さんも同じ様な感覚を持たれたのではないでしょうか、サロン終了後の懇親会も、濱野氏を中心として大いに盛り上がりました。
最後になりますが、ゲストスピーカーをお引き受け頂きました濱野智史様、ご参加の皆様に改めて感謝申し上げます。
(サロン委員:原仁史)