第45回マーケティングサロンレポート「第一次産業、食の世界が抱えるマーケティング的諸問題と今後の見通し」 |
第45回 マーケティングサロン
「第一次産業、食の世界が抱えるマーケティング的諸問題と今後の見通し」
日程:2016年4月8日(金)19:00-21:00
場所:神戸大学学友会 大阪凌霜クラブ
ゲスト:6次産業化中央サポートセンター 認定プランナー
NPO法人 農家のこせがれネットワーク 理事 片桐 新之介 氏
サロン委員:本下真次
【サロンレポート】
第一次産業の活性化のため、6次産業化や産品のブランド化、輸出促進の施策が多く図られて久しいですが、実際に第一次産業全体にいい循環ができているかというと、まだまだ問題があります。その多くは、流通業からの視点が欠けていること、実際の販売におけるマーケティング戦略が乏しいことにあります。今回のサロンは、元百貨店の食品営業マンとしての経験と地方活性化に携わる人脈、また日本酒のソムリエ「利酒師」として食・酒の知識を活かして地方の産品のブランド化や販路開拓を行っている片桐新之介氏を講師に迎え、主に流通業の観点から、農産物や日本酒の商品開発、また飲食店経営の具体的事例も交え、食の世界のマーケティング課題を明らかにしつつ、今後の見通しについて意見交換を行いました。
講師の片桐新之介氏
片桐氏の第一次産業に対する問題提起は、「そもそも(当事者が)マーケティングについて知らない、やっていない」というものでした。職人気質と言えば聞こえは良いですが、「こういうものを作ったから、何とか売れるようになりませんか?」という姿勢はそもそも顧客志向ではなく、「売れるものを作らないと駄目」と断じます。しかし、家族経営が多い農家において、農作業に加えて、経営もマーケティングも担うのは並大抵のことではありません。
そこで、片桐氏のような外部専門家の出番となるのですが、6次産業化すること自体が目的になってしまい、成功にたどり着かないケースが多数あるようです。第一次産業に限った話ではなく、ビジネスを成功させるには失敗から学びながら、粘り強くやり続けることが必要ですが、失敗してそのままになってしまうことが後を絶ちません。また、飲食店においても開業から3年以内に約7割が廃業しているとのことでした。
自身が関わってきたプロジェクトを紹介
では、どうすれば良いのでしょうか。片桐氏によると、そこでマーケティングの視点が重要になるとのことでした。具体的には、「ニッチで競合の少ないポジションで」、「ターゲット、ニーズを明確に捉え」、「(元々コストをかけて捨てていたような)未利用のものを活用する」ことです。その為には、過去の成功体験に縛られない考え方が必要となり、若者や女性の参入が期待されます。
また、「師匠はいるけど、先生がいない」農家の学習環境にも話題が及びます。政治的な背景も相まって、牙を抜かれて育ってきた農業が生まれ変わるには、今こそ、地域単位の農協活用も重要ではないかとの提言がありました。農家にマーケティング人材を育成するよりも、農協に真のマーケティング人材を育成する方が近道ではないかという議論も有効かもしれません。
【サロンを終えて】
講師の片桐氏が農家について語る時、時折、怖い表情をしていたのが印象的でした。目先の関係性を考えて農家にやさしく接することが、実は経営の持続可能性を低くしている厳しいことなのではないか。農家に好かれるよりも農業を良くしたいという真剣な想いが伝わってきました。農家でなくても、飲食店経営者ではなくとも、私たち一人一人が食の世界に生きています。今回のサロンが、「自分は何ができるか」という視点で第一次産業に関わる人が増えるきっかけになれば幸いです。
集合写真(前列左から4番目が片桐氏)
(サロン委員:本下真次)