ニュースリリース

第66回マーケティングサロンレポート「航空業界の現状と新生JALのマーケティング戦略」

第66回 マーケティングサロン
「航空業界の現状と新生JALのマーケティング戦略」
日程:2017年11月22日(水) 19:00-21:00
場所:神戸大学梅田インテリジェントラボラトリー
ゲスト:二木 真 氏(日本航空株式会社 宣伝部 企画媒体グループ グループ長)
サロン委員:清水恭彦・池田浩
 

【サロンレポート】
二木氏 1992年に日本航空に入社した二木真氏は羽田で3年間現場を経験し,大阪支店に転勤して営業を担当。そして本社のマーケティング企画部に配属されていた2010年に「経営破綻」を体験した。二木氏は経営破綻という苦しいが貴重な経験を踏まえながら,自分が何をやってきたか,そして日本航空がどう変わったかについて興味深いお話を披露してくださった。

 
<一本の電話>
 2010年1月19日の経営破綻の日を迎えて一週間くらいたったある日,知らない人から一本の電話がかかってきて,ある部屋に呼ばれた。そこには,客室乗務員,パイロット,整備担当など様々な職種の人たちが10人くらい集められていた。中には,再生支援機構,政策投資銀行,京セラの人たちの顔ぶれもあった。そして,そこで言われたのは「会社の今後のありたい姿を考える構想をみなさんで練ってください」というものであった。2010年を思い起こせば,2008年に約5万2,000人いた社員が,2011年には約3万人に削減された年だ。二木氏にとってはまさに「激動の年」であった。毎日のように「今日で最後」という人が周りにいて,金曜日までいたのに翌週の月曜日から出社しなくなる人がたくさんいた。もちろん送別会なんかない。二木氏は「会社は持続していくことが大切なんだ」と実感した。
 
<現場と経営の相克>
 1992年頃から航空業界全体は儲からない体質になっていた。航空利用者数は増加しているのに業界全体が儲からない。LCCが増えて「フルサービスキャリア」と呼ばれたJALやANAの客を奪ったのではなく,むしろLCCは新たな需要を生み出していた。JALが儲からなかった最大の理由は「ボーイング747(ジャンボジェット)」を大量に保有していたことにある。約500人収容できるB747の過半数にあたる250人は需要があって乗っているお客さんだが,残りの250席を埋めなければならない。「北海道19,800円」といった格安商品が当時のJALを象徴している。こういった状況は,客室乗務員は多忙なのになぜ儲からない,経営者が悪いのではないか,といった批判を生む要因となり社内の雰囲気が悪化してきた。こうしてJALは,①高コスト体質,②赤字路線,③古い機材,④労務問題といった問題を抱えて経営破綻への道を歩んでいったのである。破綻当時のJALは,「現場主義を標榜する経営に対して,経営を信頼しない現場」という相克の構図にあった。
 
<稲盛和夫会長のJALフィロソフィー>
 経営再建に着手した稲盛会長のJALフィロソフィーは明確で効果的だった。「部門別採算制度」を導入し,全社の意識改革に着手した。分かりやすくいえば,客室乗務員もパイロットも,今乗っている飛行機でいくら儲かっているかが分かるようになったのである。この「人として人間として何が正しいのか判断する」というJALフィロソフィーは「成功の方程式」としてJALの全社員に共有された。
 
<未来に向けて>

 JALの植木義晴社長は「世界で一番お客様に選ばれ,愛されるエアラインへ」をJALの目標として掲げている。これは,座席数や輸送量で一番になるという意味ではない。航空会社は燃料費の相場と人件費によって利益が決まるという本質的な宿命を抱えているが,そういった宿命を乗り越えようとするJALの中長期的な戦略である。

  1. フルサービスキャリアとしての差別化:「誰に,何を,どのように」
    「良いシート」,「良い機内食」といった機能的価値のみではなく,「感情的価値」の重要性を再認識する
  2. ネットワークの拡大
    自前主義から脱却し,他の航空会社とのアライアンスを充実させる。例えば,アメリカン航空とはお互いの座席を共同でセールスしている。
  3. 成長領域の見極め
    将来の日本人の人口(生産人口)減少は深刻な問題である。よって,海外からの旅客確保に活路を見出そうとしている。例えば国際線の宣伝費は,9:1の割合で海外にシフトさせている。
  4. 隣接領域における事業の拡大
    やがて旅客のコア・ターゲットでなくなる50歳代,60歳代のお客様を「ライフタイムバリュー」として「生涯お付き合いしていく」パートナーと捉えている。JALカードも,学生向け,ビジネスマン向け,55歳以上のシニア向け,というようにターゲットごとに分けている。
  5.  
    <2020年に向けた中期経営計画>
     2017年4月に策定した「2020年に向けた中期経営計画」でも「世界で一番お客様に選ばれ,愛されるエアライン」の精神は謳っている。海外マーケットによるプレゼンス,国内線による地方の活性化,新しい事業領域の開発,などの施策を今の利益水準を維持しながら進めていく。目下の課題は,JALでもANAでも「どちらでも良い派」をいかに囲い込むかだが,JALにとって最も大切な資源は,「今,JALの飛行機に乗っているお客様,JALカード会員のお客様,JALマイレージ会員のお客様」であることは間違いない。
     
    集合写真
    集合写真
     
    (文責:池田 浩)

 
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