第69回マーケティングサロンレポート「事例で語るブランド戦略入門」 |
第69回 マーケティングサロン
「事例で語るブランド戦略入門」
日程:2018年1月31日(水)19:00より
場所:中央大学ビジネススクール
ゲスト:田中 洋 氏(中央大学ビジネススクール 教授 / 日本マーケティング学会 会長)
サロン委員:瀬沼 哲彦・島崎 優子・芳志戸 啓
【ゲストプロフィール】
中央大学ビジネススクール 教授、日本マーケティング学会 会長
田中 洋氏
1951年名古屋市生まれ。京都大学博士(経済学)。慶應義塾大学大学院後期博士課程単位修得。1975年(株)電通入社、同社マーケティング・ディレクター、法政大学経営学部教授、コロンビア大学大学院ビジネススクール客員研究員などを経て2008年より現職。経済産業省・内閣府・特許庁などで委員会座長・委員を務める。多くの企業でマーケティングやブランドに関する戦略アドバイザー・研修講師を勤める。その著作・研究活動により、日本広告学会賞を三度、また2008年度中央大学学術研究奨励賞を受賞している。ソウルドアウト株式会社社外取締役、ブランド戦略研究所顧問、ブランド・マネージャー認定協会顧問、言コーポレーション顧問も務める。
【サロンレポート】
ブランドを社内で議論する機会は珍しくありません。ただ、ブランドを議論し始めると、収拾がつかなくなることがあります。ブランドという概念についての理解がまちまちだからです。今回のサロンでは、このようなブランドについて社内の議論をどうまとめるか、という視点に基づいて、ブランドとは何か、ブランド戦略とはどのようなものか、ブランドについてどこからどのように議論し、実行すべきかについて、サロンの直前に上梓された「ブランド戦略論」で取り上げられた事例を中心にお話し頂きました。
ブランドをどう理解すればよいのか?そもそもブランドとは何か?ブランドは表層的であるのか?表層的であるなら何故、企業活動に「本質的」な影響をもたらすのか?という本質的な議論に始まり、数々の事例を通じてブランドの成立する要件が提示されました。その一つとして、「イノベーション」が挙げられました。ブランドは異なった価値体系の差異から価値を生み出すとしたら、イノベーションこそが技術的に進化し、時間を先取りした企業体から生まれてくる差異の典型例だからです。
なぜイノベーションが起こるとブランドが成立するのか。イノベーションによって顧客が生活の変化を経験することによって、その変化をもたらしたブランドを強く認識することになるからです。コピー機におけるゼロックス、コンピューターにおけるIBM、iPhoneにおけるアップルなどが、その例に当たります。
しかし、ブランドがブランドとして社会に浸透していくのは、そのブランドが起こしたイノベーションが「忘れられた時」です。ブランドはイノベーションによって生まれますが、イノベーションがブランドに進化するためには「起源の忘却」が必要となります。「起源の忘却」とは、イノベーションの意味が忘れられ、そのブランド名だけが記憶され、新しい知覚(イメージ)が得られるメカニズムです。生活者はそのブランドがイノベーションを起こしたことを忘れても、以前から有名であったがゆえに有名であり価値があると認識するので、そのブランドは“ブランド”として成立することになります。
当日はこの「ブランドとイノベーション」というテーマを中心に、様々なブランドのケースとともに、ブランドとは何か、ブランド戦略とはどのようなものか議論しつつブランドという概念の整理が行われました。
今回は60名を超える学会員の方々にご参加頂きました。サロンでは多くの質問が寄せられ活発な議論がなされました。また、多くの方に懇親会にご参加頂き、盛況のうちにサロンを終えることができました。
(文責:芳志戸啓)