第82回マーケティングサロンレポート「事例に学ぶローカル企業のブランド戦略」 |
第82回 マーケティングサロン(福岡)
「事例に学ぶローカル企業のブランド戦略」
日程:2018年11月15日(木)17:00-19:00
場所:電通福岡ビル11階ホール 福岡市中央区赤坂1-16-10
ゲスト:田中 洋 氏(中央大学ビジネススクール 教授、日本マーケティング学会 会長)
サロン委員:小野 和美・副田 治・山口 夕妃子
【ゲストプロフィール】
中央大学ビジネススクール 教授、日本マーケティング学会 会長
田中 洋 氏
1951年名古屋市生まれ。京都大学博士(経済学)。慶應義塾大学大学院後期博士課程単位修得。1975年(株)電通入社、同社マーケティング・ディレクター、法政大学経営学部教授、コロンビア大学大学院ビジネススクール客員研究員などを経て2008年より現職。経済産業省・内閣府・特許庁などで委員会座長・委員を務める。多くの企業でマーケティングやブランドに関する戦略アドバイザー・研修講師を勤める。その著作・研究活動により、日本広告学会賞を三度、また2008年度中央大学学術研究奨励賞を受賞している。ソウルドアウト株式会社社外取締役、ブランド戦略研究所顧問、ブランド・マネージャー認定協会顧問、言コーポレーション顧問も務める。
【サロンレポート】
<概要>
ローカル企業あるいは起業した時、ブランドを構築するにはどうしたらいいのかということをテーマに、事例を交えながらわかりやすくお話し頂き、その後グループワークを開催しました。
ブランドとは
「ブランドの本質とは何か?」この問いに関して、ブランドとは、商品や企業に関する「認知システム」と捉え、顧客の頭の中にできる一定の構造や法則性をもった記号であると理解するとブランドを理解しやすくなります。このように、ブランドの理解を深めていくことによって、商品が売れる(売れ続ける)ための前提条件をつくりだすことに繋がります。
今回は3つの事例からローカル・ブランド戦略の特徴について説明します。
でんかのヤマグチ(東京都町田市)
一般的に、量販店の粗利利益率は15%、街の電気屋さん25、6%であるのに対して、山口氏は35%の粗利にしようと考えた。この粗利を確保するために、「お客様の選別」を行いました。お客様を思い切って、3万世帯いたお客様を1万世帯へと対象を絞り込むこととして、その1万世帯にするために、購入履歴と購買金額から9つに分類し、今までの購入金額が合計100万円以上、かつ最後に購入して1年以内のお客様をA1と位置付け、ひと月に一回は営業担当者が顔をだし、かつ毎月ダイレクトメールを発送するようにしました。
この「お客様の選別」以外にも商権を狭くし、より細やかな営業ができるようにした。また「裏サービス」として「御用聞き営業」を行い、お客様の困りごとを無料で解決する仕組みを導入しました。
カチタス(群馬県桐生市)
カチタスは中古住宅再生事業を手掛けています。従来からリフォーム済み中古住宅はありましたが、カチタスが手掛けるのは、人口5万から30万人規模の地方都市を中心とした中古の一戸建て住宅です。まず、売価を1000万から1500万円と明確な物件設定を行いました。仕入れる物件の平均築年数は30年を超えており、経年劣化を超えている物件がほとんどです。また、ターゲットを賃貸住宅に住む世帯年収500万以下の層で、子育て世代を対象と明確な顧客層に対して、中古一戸建て住宅に絞ってビジネス展開を行いました。
このカチタスはスモールビジネスとして、自社の取り扱い住宅をマンションや大都市、ハイエンドは狙われない戦略をとり、2016年には全販売物件の約3割について、リフォーム完成前に販売契約を結ぶという快挙を成し遂げました。このような物件はリフォーム後に販売契約へとつながっていくことが他社では一般的です。
結果として、2017年度に第17回ポーター賞を受賞し、また同年東証一部に上場を果たし企業として大きな成長を遂げることができました。
ワークスマイルラボ(旧:石井事務機センター)(岡山県岡山市)
石井事務機センターからWORK SMILE LABOに変更しました。この背景には、2011年から「パソコンパトロール」をはじめ、中小企業のIT管理者を代行するサービスを行いはじめ、従来の事務機を販売するということから大きく転換していった企業戦略があります。2013年からは「誰に、何を、どのように」を社長・幹部・社員とともに考えるインターナルブランディング(社員の意識統一のためのブランド活動)を実践し、「笑顔あふれるワークスタイル」をお客様に対して売ることへと転換しました。結果として、お客様に「これがほしい」ということではなく、「これがしたい」と言ってもらえるようになり、もともと事務機販売という物販中心の企業から経営理念を見直し、ブランドデザインを見直し、ワークスタイルを売るという独自のブランド戦略を実現できる企業へと変化していきました。
これらの事例からみえてくる成功ポイントは3つあります。
1) 限られた顧客層(ターゲット)
2) 明確なブランドテリトリー=限定された独自市場
3) インターナルブランディングの必要性
第1は、限られた顧客層(ターゲット)です。「でんかのヤマグチ」は顧客を狭い商圏に限定し、自社に合う顧客を選別し、かつ顧客リストを常にアップデートすることによって自社に適した限られた顧客層(ターゲット)を創り出しました。
第2は、明確なブランドテリトリー=限定された独自市場の創造です。「でんかのヤマグチ」のような御用聞き営業は、電球1つでも届けるサービスですが、料金が高くてもこの「裏サービス」を必要としている明確な自社にフィットした独自市場を確保したことです。あるいは「カチタス」のように売価1000万から1500万で、かつ、中古一戸建てと限定された独自市場をみつけだすことです。
第3は、インターナルブランディングの必要性です。石井事務機センターのように従業員が「笑顔で働ける会社」をつくるとの決意のもとに経営理念を考え直し、インターナルブランディングを実践する中で、モノを売るのではなく、「ワークスタイル」を売るというお客様の求めるものをみつけだすこという成功へと導きました。
<グループワーク>
講演内容を踏まえて、サロン参加者によるグループディスカッションが行われました。「学べる点は何か」「どのように自分のビジネスに応用できるか」「その他おもったこと」という点を中心にグループディスカッションを行いました。ディスカッションを通じて、今回紹介された事例との共通点や学びたいポイントをみんなで話し合いそれぞれが抱えている課題や理論的発見についての共有をはかることができました。
【サロンを終えて】
福岡にて初めてのマーケティング学会のイベントとしてサロンが開催されました。どんなメンバーが集まるのだろうという不安の中の開催でしたが、日本マーケティング協会九州支部のご協力もいただき、34名の方の申し込みがありました。活発な意見交換ができたことをうれしく思います。また、遠くは宮崎からの参加者もあり、盛況な記念すべき第1回福岡サロンの開催でした。
田中先生からの講演を通じて理論や事例から学ぶだけではなく、グループワークを通じて、それぞれ抱えているビジネス課題や解決法の糸口を見出すきっかけとなったのではないかと思います。マーケティング学会所属の会員数は福岡地区では多くありません。今回のサロン開催は、福岡でのマーティング学会活動が活発化していく機会となったのではないかと思います。またその機会がひろがっていくよう、サロン委員一同福岡でのサロン開催を盛り上げていきたいと思います。
集合写真(前列左から7番目が田中氏)
(文責:山口夕妃子)