第100回マーケティングサロンレポート「イノベーションをデザインする」~新しい価値を創造する仕組みと人材~ |
第100回 マーケティングサロン:東京(嶋口・内田研究会)
「イノベーションをデザインする」~新しい価値を創造する仕組みと人材~
日程:2019年10月21日(月)19:00-20:30
場所:早稲田大学 早稲田キャンパス 11号館 8階
ゲスト: オムロン株式会社イノベーション推進本部 インキュベーションセンタ長
京都大学経営管理大学院客員教授
竹林 一 氏
【ゲストプロフィール】
竹林 一 氏
“機械に出来ることは機械にまかせ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである”との理念に感動して立石電機(現オムロン)に入社。以後新規事業開発、事業構造改革の推進、オムロンソフトウェア代表取締役社長、オムロン直方代表取締役社長、ドコモ・ヘルスケア代表取締役社長を経て現職。
2016年日本プロジェクトマネージメント協会特別賞受賞、2019年1月同協会PMマイスター認定。著書にモバイルマーケティング進化論、PMO構築事例・実践法、利益創造型プロジェクトへの三段階進化論等がある。
【最近の記事】
> 日経クロステック オムロン竹林一の「製造業のイノベーションをデザインする」
> ログミー記事 新規事業立ち上げには起承転結の人材が必要
【サロンレポート】
QCDに代表される“いいもの”を作れば売れるという時代は終わり、イノベーションの本質を理解し、他社とも協働して、新しい価値・市場を創りだすことが求められています。
今回は、新規事業立ち上げ、新会社の設立、今注目されている“センシングデータ流通取引市場”という市場自体を創造するプロジェクトに取り組み、イノベーションを実践されてきたオムロン株式会社の竹林一氏に、“イノベーション”の仕組みや、イノベーションを生み出す人材、組織についてお話いただきました。
<世界観をデザインする>
オムロンでは、1933年の創業以来、創業者・立石一真氏が示した社憲「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」をよりどころとして、「ソーシャルニーズ創造」のためにイノベーションを実践。渋滞や交通事故を解決する信号機をはじめとし、世界初の無人駅システムで混雑緩和を実現した自動改札機、脳血管疾患・心血疾患を家で予防できるようにし健康寿命を延伸する血圧計など、コア技術である「センシング&コントロール」を社会課題の解決に役立てて事業を広げてきた。
オムロンのイノベーションでは、自社がそれまで手掛けてきた分野・保有しているリソースをベースとしながら、「軸を切りなおす」ことで新たな価値創造を実現している。
2000年頃、オムロンは、駅務事業の自動改札機で高いシェアと実績を持っていた。QCD、リスク管理を徹底し、より高機能の自動改札機をより安く提供することに邁進していたが、徐々にコスト競争にさらされるようになる。そこで竹林氏が行ったのが「事業の軸を変えること」。ビジネスを広げていくための世界観として、それまでの『駅は鉄道への入り口』という発想を、『駅は街への入り口』という発想に転換すると打ち出した。このように軸を切りなおすことで、今までには思いもつかなかった「子どもが自動改札を通ると保護者にメールが届くサービス」や「自動改札のデータを活用するビジネス」などのアイデアが生まれてきた。
新規事業では、成功確率は1000に3つとも言われ、1つ1つのサービス単発では勝率は高くない。しかし事業の軸を再定義することで、世界観から連想したアイデアが複数生まれる、そのようなサービスをいくつも仕掛けておき適切なタイミングを捉えて世に送り出していく。そうすることでサービス同士がつながっていき、シナジーも生み出せるという。
参加者からは「どうすれば良い軸を設定できるか?」との質問。まずは現場で起こっていること、また外の世界へ目を向けて様々な刺激を取り込み、ファクトを集める。そこに直感的なひらめきが加わって、腹落ちするメッセージとなるとのことだ。
<イノベーションを生み出す人材>
竹林氏は、イノベーションを生み出すにはバラエティに富んだ人材が必要ということを「起承転結モデル」で説明している。
「起」とは、アート型で、既存のルールに縛られず、豊かな発想力をもつ人材
「承」とは、デザイン型で、周囲を巻きこみ、全体構造を捉えてデザインを描ける人材
「転」とは、サイエンス型で、戦略的に数値を分析し、リスクコントロールをする人材
「結」とは、クラフト型で、観察眼に優れ、細部に落とし込んでQCDを守る人材
作れば売れる時代では「転」「結」型の人材が重用されてきたが、先が見通せない時代になり事業の軸を変えなければならない局面では、「起」「承」の人材が必要となってくる。
また「転」「結」は、失敗が許されない『武士』の文化、それに対して「起」「承」では、失敗しても切腹するのではなく何らかの情報を持ち帰る『忍者』の文化であるとして、異なる価値観を受け入れる大切さを説く。
一方で、「起」「承」の人材だけでイノベーションが成り立つかというとそうではなく、0→1を生み出す「起」の人材のアイデアを、概念化しながら全体の構想をまとめる「承」の人材、それをオペレーションに落とし込む際には「転」「結」の人材へとバトンをつないで、それぞれの人材が必要なタイミングで持ち味を生かしながら、イノベーションが形になっていくのだという。
参加者からは、「『起』を生かし、イノベーションで重要な役割を担う『承』の人材は、外で経験を積んだ人材を採用するしかないのか?」と質問があがった。「『承』の人材は、社内で経験させながら育てることができる」というのが竹林氏の回答。今まで『転』をやっていた人材でも、事業経験を積ませ、外へ目を向けさせることで、全体の構造を理解しビジネスデザインする『承』の人材に育てていくことができる。そのような柔軟な人材配置を可能にする、人事のイノベーションを起こしていくことも重要になっている。
【サロンを終えて】
「こんばんは~」と大きな第一声、「たけばやしー、って伸ばすんですか?」のお名前ネタから「シュンペーターは関西人ちゃうか」「休みが取れたから歩いて帰るわ、と恵比寿から南草津まで16日かけて歩いて帰った逸話」などなど。軽快な関西弁の笑いあふれるエネルギッシュな講演に聴衆はグイグイと引き寄せられていき、終了時間を過ぎても質問が途切れませんでした。参加者は、様々なイノベーションの悩みを吐露して、アドバイスを持ち帰っていただきました。今回はマーケティングサロン第100回という記念すべき回でしたが、会場と一体となった熱気あふれる研究会となりました。
ご登壇いただきました竹林様、ご協力いただきました皆様に、心より御礼申し上げます。
(文責:サロン委員 芦田 裕)