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第106回マーケティングサロンレポート「QBハウスの継栄論(けいえいろん) ~”既成”と”規制”を突破する!」

第106回 マーケティングサロン:東京
「QBハウスの継栄論(けいえいろん) ~”既成”と”規制”を突破する!」
日程:2020年2月20日(木)19:00-21:00
場所:日本マーケティング協会
ゲスト: キュービーネットホールディングス株式会社 代表取締役社長 北野 泰男 氏
サロン委員:香川 勇介・田中 智子・村杉 暢子
 
【ゲストプロフィール】
 北野 泰男(きたの やすお)氏
キュービーネットホールディングス株式会社 代表取締役社長
1969年生まれ。株式会社日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)に入行後、2005年にキュービーネット株式会社へ入社。2009年より代表取締役社長に就任。
 
【サロンレポート】
 美理容業界において「ヘアカット専門店」という新たなビジネスモデルを築いたQBハウスを、創業者から2009年より承継した代表取締役社長北野氏から、継栄(けいえい)についてお聞きした。
 
1. QBハウスとは
 95%が個人経営という特色を持つ理美容業界において、1996年11月1日に神田美土代町に、「10分1000円」のヘアカット専門店として1号店をオープンし、チェーン店として現在国内約570店舗、海外約130店舗を展開。2018年3月には東証第一部へ上場した。
 
2. 削ぎ落としたビジネスモデル
 QBハウスは、創業者の小西氏が赤坂の高級理髪店に通っている中、その逆の発想から生まれたビジネスモデルである。すなわち、洗髪、カット、カラー、セットの一連の散髪の中で、“お客様自身ではできないもの“は何かを考え、「カット」以外を削ぎ落とし、「10分の身だしなみ」として低価格で時間を買うコンセプトとして始まった。
 更に、データを重視したことも、今までの業界には無い特徴であった。券売機(QBハウスでは券売機で事前購入する仕組み)の購入状況と店外の混雑状況を知らせる「シグナル」とをデータ連動させ、空き状況が外からでもわかるよう、利便性を高めた。
 このように「低価格」「短時間」「ヘアカットのみ」「予約なし」「高利便性」といった「手軽さ」を前面に打ち出したのがQBハウスであった。
 また、こうした成功までの道のりにおいては、理容師と美容師の同一店舗での就業ができない、地域によっては条例により洗髪設備の設置が義務化される等、いくつかの理美容師法の壁、いわゆる規制への対応も必要であり、それらも克服していった。
 
3. 海外進出、そして危機からの脱却
 こうした中、「ブルー・オーシャン戦略(著者:W・チャン・キム、レネ・モボルニュー)」にて取り上げられたことにより、海外から注目され、アジアへの進出を図ることとなった。初めは順調な海外展開であったが、数年後、シンガポールにおいてフランチャイザーによるトラブルにあい、裁判でも敗訴する等、大きな痛手を被り、経営の危機を迎えるまでになった。
 こうした中で北野氏は創業者から事業承継をし、改めて原点からの問い直しを図り、戦略を練り直した。まずフランチャイズではなく直営店での運営を選択した。そして、家賃の高い繁華街ではなく郊外のベットタウンでの出店戦略、省スペースのshell型店舗を開発し、シッピングセンターのフロアの隙間に設置し、人の行列が顧客の目に留まるようにし、集客を増やしていった。一方で、カット者への技術指導も徹底して行った。海外では日本のような免許制では無いため、カット技術を一から教える必要があった。未経験者に教える教育プログラムの構築は、カット技術の暗黙知の形式知化を飛躍的に進めることとなり、この後、日本でも有効な育成手段となった。
 こうして海外事業は復活をとげた。現在、1席当たりの来店客数のトップ30の中には、約半数を海外店舗が占めている。
 
4. 成功事例を日本に逆輸入
 こうした海外での成功事例を日本に逆輸入し、日本での経営に反映させたことが、今日のQBハウスの持続的成長を支える要因のひとつとなっている。大きくは3点。
(1)国内組織の見直し
(2)出店戦略の見直し
(3)人材獲得から育成へ
 
(1)国内組織の見直し
 フランチャイズから基本直営店での運営に転換した。その際、目標も利益率から利益額に変更した。額(量)を増やすことで、直営店として自らが抱える人材へ、先行投資をしていく考えがあったからである。現状、フランチャイズより直営店の1店舗当たりの利益額は上回っており、後述する人材育成、クオリティ向上への十分な投資が可能となっている。
 
(2)出店戦略の見直し
 駅やSCに対してデッドスペースの積極的な活用の提案を行っている。駅への出店を加速的に展開した効果は大きく、ドミナント効果を発揮している。
 また、店舗では、データを見える化することで、一人一人の店長に直感経営ではなく根拠に基づいた経営を意識してもらっている。例えば、利用客がチケットを購入した時点、カットする際にチケットを読み取った時点、カット終了後に髪の毛を吸い取る期間をオフにした時点、この3つのデータをシステムで収集することで、平均待ち時間や、1人1人の平均カット時間が数値化される仕組みになっている。本社はこうしたデータを分析することにより、仮に“10分”カットでは無く15分かかっていれば、技術力が足りないのか、女性のお客様が多かったのか等その理由の解明および生産性の改善を現場の責任者と協議する際に利用している。
 
(3)人材獲得から育成へ
 日本全国には理美容師の資格を保有している方が185万人いると言われているが、実際に現役で働いている人は4割にとどまっている。長い修業期間で脱落したり、手荒れで諦めざるをえなくなった人がかなりいる。こうした方に、6か月という短期間で1日8時間の集中指導を行うヘアカット教育プログラムを提供することで、業界にカムバックしやすい環境を整えている。この取組みは、2012年から東京で始めたが、これまでに500名以上の人材を育成し、また、長く安心して働ける環境づくりにも注力し、当初30%の退職率が現在8%まで低下するに至っている。定年退職制度も廃止し、現在最高齢の技術者は79歳である。
 
 最後に、経営戦略を自転車に例えると、ビジネスモデルが前輪、組織作りが後輪、そしてマーケティングがハンドルであると言う。どれかだけが秀でても駄目で、全部が一体で動いていく必要がある。そして、肝はケイデンス(回転数)であり、時には重たいギアでスピードを上げなければならない局面もあるが、やはり経営で一番重要なのは持続性(遠くまで継続して走り続けられるか)であり、できる限り足に負担をかけずに、高速で回転数を増していける組織(後輪)が要となってくる、そのような商売の全体図を北野氏は描いている。
 
5. 終わりに
 今回の参加者は、日頃馴染みがある業態であるからか男性が圧倒的に多かった。グループ討議後の質問タイムでは、出店戦略や店舗経営、海外戦略やCSへの取組み等、多岐にわたり、予定時間がオーバーするほどの多くの質問が出て、関心の高さが伺えた。
 北野氏の好きな言葉に「水を発見する可能性が一番低い生き物は、それは魚だ」という言葉があるそうだ。離れて見ないとわからないことがある、長年やっていると見えなくなるといった経営への戒めである。2017年のニューヨークへの出店も、現状に固執しないそのひとつの象徴であり、東京の将来を考えるにあたり世界で最も成熟した場所として彼の地を選んだとのことである。順調に成長しながらも今に甘んじることなく、常に挑戦しているQBハウス、そこに成長の持続性が隠されていることを実感した。
 

集合写真
 
(文責: 村杉 暢子)

 
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