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第121回マーケティングサロンレポート 日本マーケティング本大賞2020 準大賞 受賞記念『消費者行動における感覚と評価メカニズム~購買意思決定を促す「なんとなく」の研究』

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第121回 マーケティングサロン:オンライン
日本マーケティング本大賞2020 準大賞 受賞記念 マーケティングサロン
『消費者行動における感覚と評価メカニズム~購買意思決定を促す「なんとなく」の研究』

 
日程:2021年1月12日(火)19:00-20:30
場所:Zoom使用によるオンライン開催
講演者:青山学院大学 経営学部 准教授 石井 裕明 氏
対談者:株式会社ひろろ代表 / 株式会社GO クリエイティブ・ディレクター / コピーライター 鶴見 至善 氏
サロン委員:小谷 恵子・福田 徹・藤井 祐剛・東口 晃子
 
【サロンレポート】
 「日本マーケティング本大賞2020 」にて準大賞を受賞された、『消費者行動における感覚と評価メカニズム~購買意思決定を促す「なんとなく」の研究』の著書石井裕明先生の講演と、石井裕明先生と鶴見至善氏との対談。
 
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【石井裕明先生 講演】
[問題意識]
 根底にある問題意識は、「なんとなく」を解き明かしたいという事。「なんとなく」とは、はっきりした理由や目的がない様であるが、なんとなく購買を決めたことに本当に理由がないのか。はっきりとしていない理由を、極めて些細なことに思考をめぐらすことで、企業やブランディングに示唆を与えることができるのではないか、と考えた。
 
[本書の視点]
 本書は、感覚マーケティングをフォーカスし、適切なマーケティング刺激を特定して、それにより製品評価やブランド評価が高まっていく一連のプロセスの理論化を試みたものである。
 消費者の個人特性や状況要因などのマーケティング要因が複合的に適合することによって、適切なマーケティング刺激が起こる。情報適合性の高い感情は、Feeling right(適切感)と呼ばれる。Feeling rightとは、「何かが適切であるという感情」や、何かよくわからないけど「なんとなくおさまりの良い感じ」である。おさまりがいいと感じるほど、製品評価やブランド評価が高まる。
注目した概念は下記3点である。
 
①「流暢性」
 流暢性とは、非常に単純で、わかりやすいこと。基本的に流暢性が高いものは、製品評価が高まる。ただし、流暢性が評価を高める条件と、そうでない条件が存在する。
 脳の半球優位性と視野によると、右目を通じて、論理的に処理する左脳に言語的な情報を送り届け、左目を通じて、映像的に処理する右脳に画像を送り届ける。そうすることによって、より情報処理がされやすく、流暢性が高まる。しかし、情報を積極的に処理しようとする人(⁼製品にこだわりが強い人・高関与の人)は、情報処理の容易さ(⁼流暢性)による評価は高まる一方、情報を積極的に処理しない人(⁼製品にこだわりがない人・低関与の人)は、情報処理の容易さ(⁼流暢性)による影響が生じにくい、という示唆が得られた。
 このことから、高関与の人に対して、脳の半球優位性に基づくパッケージを作成した方が、評価が高くなる一方、低関与の人に対しては、必ずしもそのような結果が得られるわけではないことが明らかになった。
 
②「感覚マーケティング」
 本書における「感覚マーケティング」は、五感に訴えることで、なんとなくの意思決定を導くことができないかという、アプローチである。例えば、ホットコーヒーを持っていた人の方が、アイスコーヒーを持っていた人に比べて、他者を「心優しい人」と評価する傾向がある(Williams and Bargh 2008)ことが指摘されている。
 様々な感覚の中で、今回注目したのは、「重さ」である。先行研究には、ある製品のアンケートを行う際、重りを仕込んでいるクリップボードを使った回答者の方が、軽いクリップボードを使った回答者より、製品の価値を高く評価する、というものがある。今回行った実験でも、重りを仕込んだタブレットPCの方が、価値は高く、品質がいい、信頼性を得るという結果が出た。接触経験を重視する人においては、その評価は更に高くなる。人は、重いものは価値がある、重いものは良いものだという日々の経験の積み重ねにより、なんとなくの評価につながっていると考えられる。
 また、重さと広告表現との関係についても実験を実施した。広告写真のカメラアングルは、通常、下から見上げるアングルは力強さを感じ、上から見下ろすアングルは力強さを感じない。接触を重視している人については、回答する際のクリップボードに重さを追加すると、下からのアングルではさらに広告評価は高くなることがわかった。
 接触を重視している人は重さ経験を重視しているので、視覚要素と重さ要素の両方を入れることで、より高い品質評価を得られる可能性がある。
 このような実験より、以下、3点の示唆が得られた。接触を重視する人の場合や、知覚的要素が適合した意味を連想させる場合、重さは知覚品質を高める。店頭に設置されたモックアップやパッケージは、ある程度の重さを付与しないと知覚品質が低く評価されてしまう。広告媒体の「重さ」に応じた表現については、重さと概念的に一致した表現を採用することで、評価が向上すると考えられる。
 
③ 制御焦点理論
 制御焦点理論では、目標を持った時に、ポジティブな結果を目指す促進焦点と、ネガティブな結果を遠ざける予防焦点の2つがあり、広告表現に影響する。促進焦点的な広告では、感情的な表現に高い評価を下し、予防焦点的な広告では、論理的な表現に高い評価を下す。例えば、マウスウォッシュでの「さわやかな息でみんなと仲良くなれます」という訴求は、促進焦点的な広告表現であり、「口臭を予防することによって、みんなから嫌われないようにしましょう」という訴求は予防焦点的な広告表現となる。そこで、手書きPOPの効果を検証した。手書きは「あたたかさ」「心がこもっている」イメージがあるので、感情的表現と相性の良い促進焦点と適合している。活字は、「論理的である」「きっちりとしている」イメージがあるため、論理的表現と相性の良い予防焦点と適合しているという、結果が得られた。
 
【石井裕明先生と鶴見至善氏との対談】
[石井先生]クリエーターの人が肌で感じていることを一般化したい。クリエーターはどうやって、思考しているのか。ロジックの作り方はどのようにしているか。
[鶴見氏]クリエーターがやっている思考・作業は、石井先生が論理化されていることと同じ。クリエーターは、なんとなくよさそう、という感覚・センスから始まり、その言語化できない感覚ついて、納得させる道筋をたてて、ロジックを組み立てていく作業をしている。
クリエーターのロジックの作り方について。クリエーターは言葉になっていないことを言葉にする。その能力は、経験から生まれる。皆さんの反応を見て、その経験から引き出していく。かなり野生的、感覚的に実施しているので、石井先生のように理論化されているのは、かなり新鮮な印象がある。
[石井先生]今後、研究者とクリエーターが組む価値があるのか。
[鶴見氏]この時代だからこそ、クリエーターが研究者と組む価値はある。広告の在り方が変わってきていて、ロジックを立てることが求められている。本当に生き残るクリエイティブな作品は何かが問われる時代になってきている。以前は、「なんとなく」いいで、仕事が進んでいったが、今、クリエーターは、「なんとなく」を、理解し、説明する能力が求められている。石井先生のように、「なんとなく」をロジカルに説明していただけることは、非常に意味がある。そういった研究者と組ませていただくことで、クリエーターとしても、パワーアップできると考えている。
[鶴見氏]石井先生が、「なんとなく」に目をつけた理由は?
[石井先生]自分がおもしろいと思う先行研究を集めて、研究を進めてきた。研究を進めて、気づいてきた部分もある。正直、研究を進めている段階では、これでいいのかと模索していた。それでも、自分がおもしろい研究を進めていくと、「なんとなく」がおもしろい、研究をしていて楽しいと感じてきた。他の人が気づいていないことを言語化したい。「人間はこういうプロセスで動いていることを言語化したい。」というのが研究者としてのモチベーションが、根底にあった。
[鶴見氏]macやi-phoneなど、「なんとなく、かっこいい」で今、売れていることを考えると、「なんとなく」は価値が上がってきていて、競争力の源泉だと思う。石井先生は「なんとなく」の研究を継続してされているのは、先見の銘があると思う。「なんとなく」の概念は時代の流れで必要であると考えられる。
 

左:石井裕明先生 右:鶴見至善氏
 
【Q&A】
 講演・対談に続くQ&Aでは、コロナ禍における購買などについて、活発な意見交換が行われた。
 
【終わりに】
 「日本マーケティング本大賞2020」受賞記念ということで、学会員以外のお申込みも受付け、200名を超えるオンライン開催となりました。石井先生より、ご著書に書かれた事例や研究結果をたくさん紹介していただきました。石井先生が「なんとなく」の研究を続けてこられた原点、「なんとなく」の言語化、ビジネスとの連携など、過去から現在、未来にわたる「なんとなく」の研究の広がりを感じることができる非常に有意義な講演会および対談でした。参加者からは、「非常に興味深く、充実した時間だった」「実務でも参考になる視点が多々あった」などのコメントをいただきました。オンライン上での開催でしたが、非常に盛り上がった開催となりました。石井裕明先生、鶴見至善様、ありがとうございました。
 

マーケティングサロン(オンライン)参加者のみなさまと
 
(文責:サロン委員 小谷 恵子・福田 徹・藤井 祐剛・東口 晃子)

 
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