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第116回マーケティングサロンレポート「人材需要からコロナ後の飲食業を考える」

#いまマーケティングができること

第116回 マーケティングサロン:オンライン
「人材需要からコロナ後の飲食業を考える」
 
日程:2020年9月28日(月)19:00-20:30
場所:Zoom使用によるオンライン開催
ゲスト:辻調理師専門学校 企画部部長・産学連携教育促進室室長 尾藤 環 氏
サロン委員:小林 哲・小宮 信彦・瀨良 兼司
 
【サロンレポート】
 COVID-19によるパンデミックが長期化し、世界中の観光業や飲食業に大きな打撃を与えています。今回のサロンでは、辻調理師専門学校の尾藤氏を招いて、国際社会での食に関する動きや、辻調グループに寄せられる全国からの求人状況の変化などをもとに、コロナ後の飲食業についてご講演いただきました。
 
コロナ禍の求人状況
 冒頭、「コロナ禍における求人状況」をご説明いただきました。求人企業数は昨年対比で8割弱、募集人数に関しては、昨年対比で6割程度となっています。地方よりも都市の方が、求人があまり出ておらず、これまでにインバウンドをターゲットとしていた企業は、厳しい現状のようです。もちろん、平均の数字であるため、企業によってかなりのばらつきがあり、各企業の経営者の力量(経営力)も大きな要因であると尾藤氏は指摘します。
 
社会変化と料理のトレンド
 続いて、社会変化による料理のトレンド変化について、フランスを例に挙げながらご説明いただきました。フランス料理が、世界のイベントや晩餐会でベースとなっている背景には、「レシピ」の誕生があるそうです。レシピによって、100人に同じ料理を出すことができるようになり、国際標準化にもつながりました。
 フランス革命が起きたことで、優秀な料理人が失業し、街に出てレストランを始めたのが、フランスのレストラン産業の始まりであると言われています。フランスのレストランは、店舗規模が大きいことが日本との大きな違いです。これには、安定した移民政策が背景にあります。日本の飲食業が徒弟制度のモデルである一方で、フランスでは分業制が、レストラン産業を支えています。
 1970年代の高度成長期には「ア・ラ・ミニュット」と呼ばれる、注文が入ってから作り始める料理が、街場のレストランを中心に拡がっていきました。そこでは、新しいフランス料理を掲げて、料理人の社会的地位を向上させた背景がありました。この時期に、ポール・ボキューズ氏のような料理人のレジェンドが、世界を席巻していくことになります。
 オイルショックで経済が停滞した1980年代には、収入源を海外に求めていきます。フランスの有名料理人のレストランが日本にも出店され、調味料などの物販においても、有名料理人の名前が付けられて展開されました。これにより、料理人の名声が世界的に拡がりました。
 2000年に入ると、フランスでは、週35時間労働の制度が始まりました。フランスは労働監査が厳しいことから、レストランの運営体制も変わりました。そこで、「カルト・ブランシュ」と呼ばれる、メニューが「その日のシェフのおすすめ」しか存在しない店舗が登場しました。
 このように、フランスのレストラン産業は、社会情勢と労働市場が密接に関わりながら、最適化され、料理のトレンドが変化していきました。
 

 
コロナ前のレストラン事情とトレンド
 「カルト・ブランシュ」について、パリにあるアストランスのパスカル・バルボ氏へのインタビューに基づきながら、ご説明いただきました。
 バルボ氏は、手の込んだ料理からの脱却として、定番ではなく、当日入ってきた材料に応じて料理をつくる試みを始めました。契約している納品業者から、店のコンセプトに合致した食材を調達する仕組みを構築しました。食材待ちという状況を省き効率化を図る一方で、店舗規模を大きくすることはしませんでした。同時に週休3日制を導入し、料理人が食材研究や勉強をする時間を確保することに加えて、予約することの稀少価値を高めていきました。
 レストランの評価が高まると同時に、世界中から料理人が集まるようになりました。さらに、世界中でポップアップレストランを出店し、講演活動などを行うことでPRが進み、世界中に名声が拡がりました。これにより、世界中から顧客が訪れ、ますます予約が取りづらいお店となりました。この時期には、料理人が、料理技術者としてだけではなく、生産地に足を運び、フードシステム自体を考えるようになりました。この活動によって、農業などのフードシステム全体への発言力も獲得していきました。
 この流れをサポートするかのように、ミシュランとは異なるレストラン評価制度である「世界ベストレストラン50」が生まれました。「世界ベストレストラン50」では、世界中の食通たちの投票によって評価されます。つまり、世界中の食通が知ったレストランではないと評価されないということになります。
 
アフターコロナで生まれるギャップ
 コロナ禍におけるロックダウンによって、国際化の歪みが浮き彫りになりました。ヨーロッパでは、コロナ禍を機に、現状を変えようとする兆候がありました。環境に配慮した産業を、内需をベースに発達させていく政策であるグリーンディールやグリーンリカバリーに対して、飲食店も対応を進めています。
 一方で、日本は、今を耐えしのぎ、元に戻ろうとしている兆候があるようです。ヨーロッパが、フードシステム全体を捉えて変わろうとしているのに対して、日本では、「職人として、良い料理を出したい」という自己実現の意識が強いことや、店舗規模や徒弟制度によって、農業や環境などのフードシステム全体にまであまり目を向けられず、ヨーロッパのような変革に向けたモティベーションが生まれていない現状があるとのことです。
 変わろうとするヨーロッパと戻ろうとする日本において、アフターコロナでは、大きな差が生まれる可能性があることを、尾藤氏は指摘します。
 
グリーンリカバリーと国際化人材育成
 ヨーロッパとのギャップに対して、日本では、どのような修正が考えられるのでしょうか。最近の試みとして、城崎温泉(豊岡市)との事例をご紹介いただきました。
 日本のリゾート地である城崎温泉(豊岡市)では、辻調理師専門学校で育成した留学生との連携を通じて、国際化を進めています。旅館は、家族経営が多く、厨房にいながら旅館経営が学べます。留学生は、料理人としてのアイデンティティだけではなく、将来的には経営をしたいという学生も多いことから、「厨房から、宿泊型レストランのマネジメントを学ぶ」や「日本のローカリズムであるスペシャリティ・会席料理を学ぶ」をコンセプトに掲げて取り組んでいます。安い労働力としてではなく、コミュニティの一員として、迎え入れたいという豊岡市からの心強い声もあり、2020年9月15日には、豊岡市(城崎温泉)と「国際化人材の登用および育成のモデル化」の包括協定を締結しています。
 このように、国際社会とのギャップを修正していくためのデザインが試みられています。国際社会と日本は、労働市場が世界とは真逆になっているのが現状です。世界では働き口がない一方で、日本は働き手がありません。これは明らかに現状が異なっています。ここで生じるギャップをどのように埋めていくのか。このギャップをどのようにデザインするかによって、今後の日本におけるアフターコロナのリカバリーにつながり、国際的にも評価されるステージに立てるかどうかにも繋がるのではないでしょうか。
 
ディスカッション
 尾藤氏によるご講演後、サロン参加者からの質問を交えたディスカッションを行いました。まず、日本の江戸時代における外食産業としての、寿司や天ぷらの発展や、日本の会席料理が世界に与えた影響に関する話題があがりました。今の日本の伝統の中にも、世界的に見て、イノベーションの種になるような取り組みがすでにあることが示唆されました。
 次に、日本とヨーロッパにおける労働に対する考え方が異なることも、改めて確認されました。日本は、徒弟的な関係であり、就労と修行が曖昧であることについて、国際的には異なる認識があるようです。
 さらに、留学生の就労に伴う人材の定着に関する話題では、調理師学校に在籍する留学生の中には、技術者というよりも、経営者としてお店を開いたりすることを志している学生が一定数いることが挙げられました。
 そして、「料理人が経営マインドを身につける際に、マーケティングを学ぶ必要があるのか」についても、フランスの実例を挙げながら、議論がなされました。
 
【サロンを終えて】
 人材需要からコロナ後の飲食業を考えるということで、大変貴重な話題をご提供いただきました。今回は、主に労働市場にかかわる内容がご講演の多くを占めましたが、マーケティングでは、需要側の顧客だけではなく、従業員も対応すべき対象として位置付けられます。供給側からも、マーケティングを考えていくことの重要性を再確認する場となりました。
 また、労働市場に着目したヨーロッパと日本の比較、外国人労働者の就労、アフターコロナに向けた国際的な取り組みとのギャップなど、日本の飲食業が向き合うべき課題を改めて考えるサロンとなりました。
 ゲストの尾藤様、ご参加いただいた皆様に、心より感謝申し上げます。
 
集合写真
集合写真(画面上段右から二番目が尾藤氏)
 
(文責:瀨良兼司)

 
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