ニュースリリース

第113回マーケティングサロンレポート「プレイス・ブランディング」観光デスティネーションのつくり方

#いまマーケティングができること

第113回 マーケティングサロン:オンライン
「プレイス・ブランディング」観光デスティネーションのつくり方
 
日程:2020年9月11日(金)19:00-20:30
場所:Zoom使用によるオンライン開催
 
ゲスト:
宮崎 裕二 氏(東洋大学 国際観光学部 専任講師)
 英国政府観光庁、カリフォルニア観光局マーケティング・ディレクターを経て2019年より現職。英国「クール・ブリタニア」や、米国「カリフォルニア・ドリーム・ビッグ」などのプレイス(国家・地域)ブランディング戦略に従事。
岩田 賢 氏(一般財団法人運輸総合研究所 主任研究員)
 一般財団法人運輸総合研究所主任研究員。運輸省入省後、三重県庁や日本政府観光局本部及びニューヨーク事務所を経て現職。
山本 さとみ 氏(ダブルシックス・マーケティング代表)
 東京成徳大学経営学部講師。ウォルトディズニーやアラスカ観光協会、オーランド観光局、グアム政府観光局の日本代表を経て現職。
長崎 秀俊 氏(目白大学 社会学部 社会情報学科 教授)
 大手事業会社、米国系ブランドコンサルティグ会社インターブランド・ジャパンのストラテジィ・デレクターを経て2014年より現職。
 
サロン委員:森口 美由紀・京ヶ島 弥生・佐々木 竜介・長崎 秀俊

 
【サロンレポート】
 今回のサロンでは、2020年6月に出版された「DMOのプレイス・ブランディング」の著者4名をお招きし、日本における「プレイス・ブランディング」の課題と解決の方向性、参考にすべき海外事例について解説していただきました。東洋大学国際光学部の宮崎裕二氏からは、プレイス・ブランディングに関する学術的な整理を、一般財団法人運輸総合研究所主任研究員の岩田賢氏からは、日本におけるプレイス・ブランディングの現状と課題を、そしてダブルシックス・マーケティング代表山本さとみ氏からは、海外事例をご紹介いただきました。また、目白大学社会学部社会情報学科の長崎秀俊氏が司会と総括を担当しました。日本および諸外国のDMO(Destination Marketing / Management Organization)に勤務されていたゲストならではの現場のお話と、それを実務に活かすために纏められたお話の両方を伺うことができました。
 
1. プレイス・ブランディングとDMO
 国境を超える人々の数が増加する中、グローバル規模で国家間における観光客の争奪競争が熾烈化している。90年代半ばからヨーロッパ、北アメリカ、オセアニアの国・地域を中心に注目を集めているのがプレイス・ブランディングである。世界の人々から持続的に選ばれ続けるために、プレイス(国・地域)のブランド力を高め、旅行者や、留学生、長期滞在者、起業家など幅広い人々を惹きつけている。このことが、パブリック・ディプロマシーにも寄与し、プレイスのレピュテーションを高め、輸出や投資の促進、住民のクオリティ・オブ・ライフとシビックプライドにもつながると考えられている。その実行部隊として注目されているのがDMOである。
 プレイス・ブランディングを成功に導くには、政府や、文化交流機関、経済投資促進機関、DMOなどの緊密な連携が必要不可欠である。国家ブランディングの研究者のディニーは、世界で成功しているプレイス・ブランディングは、多くの場合がDMOが中心的な役割を果たしていると指摘している。実際に、イギリスや、ニュージーランドなどは、DMOが中心となり他部門とも緊密な連携を図りながら一貫性のあるプレイス・ブランディング戦略を20年以上にもわたり継続している。
 
プレイス・ブランディングのICONモデル
(1) I (Integrated):官民共同の統合されたアプローチであるか、
(2) C (Contextualized):関係するステークホルダーの文脈を考慮した活動になっているか
(3) O (Organic):有機的・自然発生的な内容(場所のアイデンティティや文化など)になっているか
(4) N (New):目新しさがあるか
 
 DMOにおける仕事の特徴であり難しさは、観光客とデスティネーションのタッチポイントが多く、それぞれが並列関係にあることだ(例:ホテル、エアライン、レストラン、テーマパーク)。このように利害関係者が多いためパワーゲームがあり、利益よりも利害関係者との友好関係の方が大切だったりする。
 
2. 参考となる海外事例

  • 英国国家ブランド戦略「クール・ブリタニア」(1997年~)。現在は「Britan is Great」として踏襲。当初は、グローバル市場における「保守・伝統の国」のイメージを払拭し、「革新的・躍動感ある国」へと生まれ変わることが主目的だった。今は、むしろ「多様性ある国」、「多様性を受け入れる国」のメッセージ性を強く打ち出している。旅行者に限らず、留学生、研究者、長期滞在者、起業家、さらには投資、企業誘致に至るまで、他国ではなく、英国が選ばれるための仕組みを作り上げている。
  • 米国カリフォルニア観光局は、ビジター・エコノミー拡大を目的に、プレイス・ブランディング戦略「カリフォルニア・ドリーム・ビッグ(夢をかなえる場所がカリフォルニア)」を掲げ、世界の旅行者、留学生、研究者、起業家に、カリフォルニアが選ばれるための仕組みを構築している。観光部門だけではなく、エンターテインメント(ロサンゼルス中心)、ハイテク(サンフランシスコ、シリコンバレー中心)、バイオテック(サンディエゴ中心)部門とも連携を図っている。
  • 米国フロリダ州オレンジ郡のオーランド。ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートで有名なこの地は、元々ロッキードを中心とする軍需産業都市だった。フロリダ州は自治権を渡す約束をしたことでディズニーの誘致に成功、1971年ウォルト・ディズニー・ワールドが開業した。その後ミーティング&コンベンションに注力し、1983年には全米第2位の集客をしている。一方で、テーマパークとMICE(meetings, incentives, conferences and exhibitions)という強烈なイメージは、負の側面ともいえる。オーランド観光局は、これらを超えるブランド・アイデンティティの構築を目指して、「Orlando – Never Ending Story」というキャンペーンを2015年から2年間実施した。
  • グアムは、平均滞在日数3.3日という「安近短」からの脱却を目指し、「Tourism 2020」を発表した。これは、旅行者にとって魅力的なグアムだけでなく、島民にとってもより住みやすい故郷にするための計画である。DMOはプレイス・ブランディングの枠組みを作り、枠の中でステークホルダーそれぞれがブランド・ガイドラインに沿って活動する機会を作り、その活動を啓蒙し、精査するべきであるが、グアムはそれがうまくいっていない。

 
3. 日本におけるプレイス・ブランディングの現状と課題
 日本において、「地域ブランド」が注目されだしたのは2000年代であり、その後、国家ブランド・地域ブランドを国内外に発信する動きが急速に高まったのは、東京オリンピックが一次選考を通過した2011年以降である。
 2012年に発足した第二次安倍内閣において観光予算が急増し、菅官房長官(当時)により訪日施策が加速された。2013年にはクールジャパン機構が発足している。2012年には1300万人であった訪日客が、2019年には3188万まで増えている。
 1964 年に設立された日本政府観光局(JNTO, Japan National Tourism Organization)は、2015年、訪日プロモーション事業の実施主体と位置づけられ、東京オリンピック・パラリンピックを見据えたインバウンドの飛躍的拡大、観光立国の実現に向けての貢献が期待されている。
 日本における課題は、「プレイス・ブランディング」が「地域ブランディング」と捉えられていることから、地域産品と地域空間のブランディングの区分が曖昧である。地域特産品に関するプロモーションや、一過性のイベント開催、まちおこし、ゆるキャラなど地域に関わる様々な活動が含まれてしまっており、世界各地で実践されている規律を持ったブレイス・ブランディングの潮流から乗り遅れているのではないか。日本は、地域空間ブランドの構築をしっかり行ったうえで、個々のプロモーションを行うべきではないか。
 
 ブランド構築にあたっては、世界で使われているフレームワークやDMO事例から学べる点が多い。

  1. 多数のステークホルダーの利害を統合・調整する
    例)宿泊 vs 土産・飲食、ツアーバス vs タクシーなど地域の交通
  2. 世界観を作る
    例)「フランスの最も美しい村」、雪国観光圏(越後湯沢を中心とする7市町村)
  3. ブランドを守るために、ブランド手法を活用する
    例)フランスのホテル格付ブランド

 
【サロンを終えて】
 今回のサロンは、司会を含めた4人が登壇という、マーケティングサロンにはあまりない形式となりました。学術的なお話しとともに、国内、海外の事例や課題を、それぞれの実務家からお話しいただくことで、幅と奥行きのある内容となりました。グループディスカッションが課題となるオンラインでの開催では、こういった複数のスピーカーから多彩なお話しを聞くというのは、一つの方向性となるのではないかと思いました。
 

 
(文責:森口 美由紀)

 
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