第136回マーケティングサロンレポート「熱量の高いファンはどうして生まれたのか!?ヤッホーのファンとの絆づくりの全貌」 |
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第136回マーケティングサロン:オンライン
テーマ:熱量の高いファンはどうして生まれたのか!?ヤッホーのファンとの絆づくりの全貌
日程:2021年9月3日(金)19:00-21:00
場所:Zoom使用によるオンライン開催
ゲスト:株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長 井手 直行 氏
サロン委員:村杉 暢子・田中 智子・香川 勇介
【ゲストプロフィール】
株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長
1967年(昭和42年)生まれ
ニックネームは『てんちょ』。国立久留米高専を卒業後、電気機器メーカー、広告代理店などを経て、1997年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。2008年より現職。
【サロンレポート】
フラッグシップ製品『よなよなエール』を筆頭に、個性的なブランディング、ファンとの交流にも力を入れ、現在まで18期連続増収、クラフトビール国内約500社の中でシェアトップのヤッホーブルーイング(以降、ヤッホー)。本日は代表取締役社長井手氏よりファンとの絆づくりの全貌と、イノベーションを生み出す組織文化についてお聞きした。
1.順調なスタートから売上下降へ、どん底での学び
1997年創業直後は地ビールブームもあり、順調であった。しかしながら、1999年をピークに売上は下降へ。地ビールブームの終焉であり、約300あった地ビール会社も3分の1まで減った。売上低迷時は、現金が当たるキャンペーン等を実施したが、お客様の反応はなし。返品されたビールを毎日排水溝に流す作業で腱鞘炎にもなった。どん底を見て、モノマネでは無く、ビジネスの基本を勉強する必要性を痛感。そこから得たことは、ビジネスには戦略が重要であると認識したこと、戦略とは「トレードオフを伴う一連の活動」および「一つの戦略的目標に向かった活動間のフィット感」であり、すなわち、「何かを取って、何かを捨てる難しい決断」と「そうした活動間につながりをもたせることの大切さ」であった。
2.ファンとのコミュニケーション
売上が低迷していた2008年頃、よなよなエールを愛飲するお客様にインタビューを実施した。調査の結果、愛飲者が感じるベネフィットは「理想像の実現」「癒される」「自己確信」等であった。当時調査を手伝っていた中央大学ビジネススクール田中洋教授の一言「よなよなエールのお客様は熱狂的で、ハーレーのお客様に似ていますね」が大きな助言となり、ハーレーダビッドソンジャパンをベンチマーク。ハーレーを調べたところ、ファンを大切にし、ファンとのイベントを頻繁に開催していることがわかった。そこで、2010年第1回宴を開催。全国から40名のファンが集まって大いに盛り上がった。そこから現在に至るまで、ファンとのイベントを開催し続け、2018年のお台場では5,000人が集結。コロナ禍での2020年のオンラインイベントでは延べ10,000人のファンが集まった。イベント自体は毎回赤字である。短期の売上を捨て、ファンの満足度を取る“トレードオフ”により、お客様との強い絆が生まれていった。
3.よなよなエール流「組織文化」
組織文化の変革にも着手した。2008年当時スタッフのほとんどが指示待ち、他人任せ。そこで、社長自らがTBP(チーム・ビルディング・プログラム)を受講し、社内に導入。まずは変われる人からと、現在まで毎年継続して実施。徐々に空気が変わり、全体が変わっていった。その根幹はコミュニケーションであり、「質」の高いコミュニケーション(例えば戦略を考える)のためには、ベースにコミュニケーションの「量」が必要であるという信念がある。一例として、社長含めた全スタッフニックネーム制、毎朝30分の社長もパートも全員参加の雑談朝礼等、人となりを互いに知ることで、建設的な議論が生まれるという考えを持つ。突き抜けた個性を称賛する企業カルチャーにより、常識にとらわれず、リスクを恐れないスタッフが生まれ、イノベーションを創出している。
4.誰も歩まない道へ
戦略とは「トレードオフ」と「活動間のフィット感」である。また、差別化は他社による模倣が困難なレベルまで行っていくことが必要。一見売上に繋がらない様な取組みはお客様の心に入りやすく、後から売上はついてくる。こうしたトレードオフをどこまで突き詰められ、確信をもって進められるか。
こんな活動をしていたら、スタッフが幸せになり、自分たちだけでなくファンも幸せになって欲しいと思い、取引先も、世界もという気持ちに。今は、いつかよなよなエールでノーベル平和賞を受賞できるのではないか?と考えていると言う。
5.井手社長と田中教授とのセッション
井手社長の講演後、井手社長とブランド構築のお手伝いをした田中教授とのセッション時間を持った。マーケティングというとブランディングを行うことが勝ちパターンになると思われているが、ヤッホーではブランド価値を高めるだけでなく、ファンとの絆づくり等他の戦術と有機的に結合させることで強固なブランディングが構築されていることや、今後のマーケティングの進化系を考えた際に、モノ→モノ+サービス→体験と方向化していく中、次はコミュニティ(仲間を作る、共感しあう)ではないか、それをヤッホーが既に実践しているのではないかといった議論がされた。
6.まとめ
<アンケートでの感想(ピックアップ)>
・失敗から今のポジションを築くまでのストーリーから、ブランディングもマーケティングも網羅しているお話まで、満足度の高い講演でした。ありがとうございました!
・競争戦略はポジショニングとケイパビリティであると、改めて学びました。井手さんの熱意と謙虚さにも感心しました。敢えて注文があるとすれば、井手さんまたは田中先生から、ヤッホーブルーイングの差別化戦略を整理し、大手や競合他社との比較を体系化していただくなど、理論的な補足も欲しかったです。
・想像以上にマーケティングやブランディングの施策を駆使している事が分かり大変勉強になった。
井手社長自身が経営・マーケティングのセオリーを勉強し、それに基づき緻密な戦略を立て、厳しいトレードオフ等英断をしながら、ファンとの絆づくりを中心に模倣が困難なまでの高みにもってきたストーリーはカスタマーエクスペリエンスを体現している話であった。それとともに、スタッフがイノベーションを創出し続ける組織文化とするべく、企業カルチャーを変革したことはヤッホーの更なる進化の姿が見えるようであった。
(文責:村杉 暢子)