第144回マーケティングサロンレポート「バーチャルYouTuberのビジネス市場創造」 |
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第144回マーケティングサロン:オンライン
テーマ:バーチャルYouTuberのビジネス市場創造
日程:2021年12月22日(水)19:00-20:30
場所:Zoom使用によるオンライン開催
ゲスト:明星大学経営学部 教授 片野 浩一 氏
サロン委員:山口 夕妃子・小野 和美・副田 治
【サロンレポート】
昨年以降、「メタバース」「NFT」「XR」といった言葉をよく耳にするようになった。11月にはフェイスブックが社名を「メタ・プラットフォームズ」に変更するなど、2021年はバーチャル市場幕開けの1年だったのではないだろうか。
そんな昨年の10月。オンラインで開催された「マーケティング学会カンファレンス2021」のリサーチプロジェクト発表セッションにおいて、アバターを操りファシリテーションされる片野先生に出会った。口元だけでなく体の動きも動作と完璧シンクロする完成度の高いアバター(VRoidで丁寧につくられた片野先生の化身)に魅了された私は、片野先生に、バーチャル領域のマーケティングについてご講義をいただきたいとラブコール。快く引き受けてくださったことで今回のサロンが実現した。
それでは、サロンの内容を振り返りたい。
サロンは「バーチャル渋谷(クラスター社)」を駆け回るアバター片野先生の画面からスタート。バーチャルコミュニティの様子などについてわかりやすく解説いただいた。今回の講義は全てアバターを通して行われ、これぞメタバースというサロンの試みとなった。
先ずはVTuberの解説。「バーチャルYouTuber(VTuber:アバターを中身の人が操り表現する動画)」は、2020年に13,000人を突破というデータが示すとおり急拡大している。広報担当者が社員Vtuberとなって活動するサントリーの「燦鳥ノム」さんなど、企業のマーケティング活動でも活用がはじまっている。
次に、VTuber141名に対する独自調査の結果を紹介いただいた。「男性は女性アバターを28%の人が採用している」ことを例に取りながら、アバターと中身の関係についても解説いただいた。総じて、アバターは「外向的なコミュニケーションを活性化させる」ということが示された。
また、バーチャルコミュニケーションの理解を深める事例として、昨今、小学生の間でオンラインゲーム「マインクラフト」や「フォートナイト」内に友達同士で集まることが流行っているという例も示された。
このように、VTuberやバーチャルコミュニケーションは、私たちの生活にすでに深く浸透しつつある。
発表は「アバターと中身の分離可能性」という、本サロンの主題に移る。
「アバターのビジュアルと中身の関係性」のフレームを示していただきながら、アバターと中身の関係性をわかりやすく解説いただいた。
「リアル」から「デジタル」への流れ(横軸)、「中身が一体または密接の状態」から「中身との分離または希薄」な方向への流れ(縦軸)を示したマトリクスとなっている。左上から右下にいくほど、活動の範囲や時間の拡大が促されるということだ。
右下に位置付けられる事例としては、東京五輪の閉会式で話題となった、バーチャルモデル「イマ」さんの事例があてはまる。中身はない(人間ではない)が、ファッションモデルとして活躍中の「イマ」さん。中身がいないということで、自由に活用できることから「活動の範囲や時間の拡大が促される」ことが理解できた。
それでは、デジタル化によって、アバターと中身がどう関わっていくべきか。
話は「アバターと中身の関係」についてのソーシャルリスニングの手法を用いた分析結果に進んだ。
ここでは「ヒカキンTV」と「キズナアイYouTube公式チャンネル」に対するファンの反応を分析した結果が示された。両者とも多くのチャンネル登録者数を擁する国内トップYouTuberだ。ヒカキンTVはコンテンツの一部VTuber化によって、ポジティブな反応を示した。一方、フォーカスをあてたのは、キズナアイの中身が4人に分裂し、それぞれが独自に活動をするという展開。これがファンのネガティブ反応を引き起こしたという。Twitterフォロワー数の減少傾向となり、ネガティブ反応はファンの離反を引き起こしたのだ。
国内屈指のVTuberであっても、「アバターと中身の分離」はネガティブ反応を増加させた。この研究から「アバターと中身の同一性 = 唯一無二」であることの重要性が納得できた。
このように、VTuberもリアルなタレントと同じように「唯一無二であるべき」という、ビジネスとしてVTuberを活用して事業拡大を目指す個人や企業にとって重要なインプリケーションを提示いただき、講演は終了した。
講演終了後は活発な質疑に一つずつ丁寧に応答いただいたが、特にアバターの心を解放する特性に着眼した受講者からは、「グループインタビューなどの意見活性化の目的に応用できるのでは」といった意見が出された。
また、片野先生が本年度の大学の講義を全てアバターで実施された。という点について、学生さんの反応についてお訊ねすると、学生からの質問が増えるなど、受講態度が積極化する状況が見受けられたという。ここでもアバターが外向的なコミュニケーションを生み出す原動力となることを、裏付けられている。
【サロンを終えて】
個人的な意見にはなるが、アバター参加の機会や発信、交流の場が増えることで、アバター同志のバーチャルな交流が、急速に広がりを見せると考えている。バーチャルな場でアバター同士で過ごしたり、仕事をするようになれば、マーケティング活動も、バーチャルな環境下での接点が重要になる。マーケティング活動におけるバーチャルの可能性ははかりしれない。
今回ご教授いただいた「アバターと中身の唯一無二であることの重要性」という知見を大切にしながら、私自身もアバターのクオリティを高めながら、メタバース時代を楽しんでいきたい。
片野先生、今回は年末な大変多忙な時期に関わらず、ご準備をいただき、大切な知見を授けていただき、ありがとうございました。
(文責:副田治)