第138回マーケティングサロンレポート「防災マーケティング:防災・減災における課題解決に向けたマーケティング研究の有用性」 |
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第138回マーケティングサロン:オンライン
テーマ:防災マーケティング:防災・減災における課題解決に向けたマーケティング研究の有用性
日 程:2021年9月28日(火)19:00-20:30
場所:Zoomによるオンライン開催
ゲスト:県立広島大学 大学院 経営管理研究科 教授 江戸 克栄 氏
サロン委員:山口 夕妃子、副田 治、小野 和美
【サロンレポート】
「防災マーケティング」という聞きなれない言葉に興味を持ち、発案者である県立広島大学の江戸克栄先生を九州サロンにお招きしました。江戸先生は、平成30年の西日本豪雨を契機として同大学に「防災社会システムデザインプロジェクト研究センター」を設立。防災マーケティング研究チームを牽引されています。
江戸先生によると、元々、防災・減災分野でのマーケティング研究はほとんど行われていなかったそうです。マーケティングとは、消費者や市場を理解し、消費者や顧客の態度、行動の変容を促すものですが、それを防災・減災における避難行動に応用したものが防災マーケティングとのこと。消費者や顧客を生活者や住民に置き換えて、彼らの避難意識変容や避難行動を変えることを目指すものであり、マーケティングの「関与」の概念や、STP、4Pなどを応用しています。
県立広島大学は2018年から毎年「1万人避難意識調査」を実施していますが、2019年の調査では、製品等の適正価格を導くPSM(価格感度尺度)の考えを採用。「災害時にどのくらいの距離なら逃げるか」と聞いています。平均で1.3km(上限値550m前後)という結果が出ており、これは災害分野で言われている避難限界距離(1.5km〜2.0km)とも整合性がとれているそうです。マーケティング援用の興味深い事例の一つです。
防災マーケティングの今後の課題は、マスマーケティングからセグメントマーケティングへ転換し、ライフスタイル研究やOne to Oneマーケティングの発想を取り入れること。さらに、企業の防災分野への参画を促し、公助、共助に加え、持続可能なビジネスの視点で「民助」が成り立つシステムを構築することだと江戸先生は指摘しています。実践的な民間主導型の避難行動促進策として、損保会社との連携で「避難保険」を開発・販売を実現しておられ、本サロンの前日のNHKでも紹介されました。
【サロンを終えて】
防災・減災は日本全土の重要課題であり、この領域にマーケティングの知見が貢献できることは大きな気づきでした。江戸先生が提唱される防災マーケティングへの共感者が増え、より広域に導入され、民間を巻き込みながら持続可能な社会システムとなっていくことを願います。今回の九州サロンにも、全国からのご参加をいただきありがとうございました。
(文責:小野 和美)