ニュースリリース

第74回マーケティングサロンレポート「組合員の声に応える」

#いまマーケティングができること

第74回マーケティングサロン:札幌
テーマ:組合員の声に応える
 
日 程:2018年5月12日(土)17:40-19:00
場 所:小樽商科大学札幌サテライト
ゲスト:生活協同組合コープさっぽろ マーケティング部 部長 川崎 正隆 氏
サロン委員:京ヶ島 弥生・海野 浩三
 
 2018年5月12日に開催された札幌初のマーケティングサロンでは、生活協同組合コープさっぽろマーケティング部部長の川崎正隆氏をお招きし、講演およびディスカッションなどを行った。コープさっぽろは北海道内に108店舗を構え、宅配事業「トドック」も展開している、道内の流通・小売の中でも代表的な企業のひとつだ。来客数、品揃えの多さのみならず、斬新かつ独自のマーケティングへの取り組みを行っていることでも有名である。今回は、質疑応答も含め、ざっくばらんに現在の取り組みと課題について話していただいた。
 
お客様の声に応える活動すべてがマーケティング
 生協はそもそもが「共創」の店。組合員の声を聴くことを、創立の時からずっと重視してきている。共同購入は会員が推奨して仲間を増やすモデルで成長してきた。そこから一緒に社会を変えていこうという流れも生まれ、灯油の値下げ運動などが起こった。今では灯油の価格はコープの価格基準となるほどに、社会に影響を与えている。また、無調整牛乳を道内で初めて売ったのも生協。お客様が生協に対して求めているのは「安心・安全」。子供に安心、安全なものを食べさせたいという親の気持ちに応えるのが生協の使命となっている。
 
マーケティング・リサーチは自社で完結
 お客様の声を聴くマーケティング・リサーチは、アンケートやグループインタビュー、その他通常のリサーチ会社でやれるような手法は、ほぼ自社内でできるようになっている。
 
 たとえば「配食に関するアンケート」では、高齢の方が対象なのでインターネットではなく紙のアンケートで調査をした。配食サービスは80代以上が利用者の80%を占める。その方たちに配食で食べたいものアンケート取ったら、以外にも高齢者向けメニューではなく、カレー、カツ、揚げ物、寿司などが食べたいという声が多かった。こういう嗜好の変化は現在のメニュー考案時に活かされている。
  
 また、運動会のお弁当アンケートでは、定量調査のほかにWebで実際に運動会に持って行ったお弁当の写真を集めた。そうすると、からあげなどの定番メニューのンほかに、「そうめん」がいくつか写っていた。ここにヒントを得て、運動会シーズンにそうめんのコーナーに「お弁当にぴったり」というPOPを付けたところ順調に売り上げが伸びた。
  
  運動会のシーズンに調べた結果を活かせるのは、半年後、1年後の次の運動会シーズンになり結果が出るまで時間がかかるが、こういったリサーチをする前は何もなかった中での販促活動だったので、確かな手応えを感じている。
  
 しかし、消費者の声を聴いたからといって何でも売れるとは限らない。組合員の声に応えて消費税の「税込表示」を「税抜き表示」よりも大きくしたら、売上が2%減ってしまった。元に戻したら売り上げは回復。じつは2009年にアメリカで同様の税込販売をしたら売上が8%減ったというデータがあったので予測はしていたものの、消費者の要望になんでも応えるだけで良いとは限らないのが難しいところである。
 
データに基づいたマーケティング
 川崎氏はもともと農学博士。理系の素養があるため、数字で現状を把握して戦略を考えることを得意としている。
  
 しっかりと数字で分析すると、チラシを抜いた場合には売り上げは落ちるが、チラシサイズをダウンしても売上には響かないことが判明した。販促費用の半分がチラシなので、これをコストダウンしたいという思いは強い。でも従来の感覚で販促を行う年配の店長や幹部は、チラシを小さくすると売り上げが下がると思い込んでいる。そして実際売上が悪いとチラシを大きくする傾向もある。データで分析して考えることも大事だが、もしかすると店頭を見ている職員に感じられる「データ以外の定性情報」の影響があるかもしれないため、そういった要素も無視できない。
   
 定性情報と定量情報を組み合わせ、適切な販促を行って成功した事例としては、年金支給日に高齢者ターゲットのチラシを入れたら、米の売上が前年比238%になったこともあった。
  
ID-POS活用と今後の課題
 コープさっぽろでは早い時期からID‐POSの分析を行っている。
  
 コープさっぽろのヒット商品として、「ごぼう飯の素」があるが、当初ライトユーザーでも、コープでしか買えないこの商品を買うために来店し、1年たったらコープのコアユーザーになっている。このような「来店を促す単品」を、じわじわ育てるのも良い販促の事例だ。しかし、この「ごぼう飯の素」を道外の店舗で売っても実際売上が上がらなかったこともあり、何がヒットの要因かは一概に言えない。
   
 ECサイトではターゲットプロモーションが有効に機能するが、実店舗は難しい部分もある。お客様によって媒体を変えたり、店舗数分の品揃えを変えたりすることはできないうえに、クラスタも時流で変化するので、分析はできても実際フルに生かせない。そしてID-POSを使うときには、商品やお客様をカテゴライズする必要があるが、カテゴライズしたとたんに商品の尖った特性が削がれる。このデータを活用できないことが日本のスーパーマーケットの限界であり、この点が今後の課題といえるだろう。
 
(文責:須田 美貴)

 
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